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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.03 ナナセ ユズナ
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第12話

 家に帰ってからも、私は父のことばかり見続けた。


家族のことを見て嬉しそうに笑っている顔。


テレビの情報を見て口出ししながら怒っている顔。


私が遊ぶ様子を楽しそうに見ている顔。


私が何気なく言った「パパ嫌い」という一言に傷付いて泣き出した顔。


母と会話している声。私を楽しませてくれる父の声。


そのどれもが、私の頭の中に刻まれていく。未来に持っていける。


 次の日からは父が仕事に出かけていったために、これといった思い出を作ることはできなかった。でも戻った一日目で父の存在を近くに感じられたこと、そして母の愛情を受け取れたことに関しては、自分が悔やんでいたことを晴らすことができた。戻ったら、もう少し母に優しく接してあげよう。そう思った。


 タイムリミットが迫る中、私は寝ている父の手を軽く握り、顔をそっと近づけ、「ありがとう」と呟いた。見間違いかもしれないが、父は微笑んでいるようだった。


 時刻は朝の五時ちょうど。扉には確かに紙が貼られている。加能さんは私のお願いを訊いてくれていた。


紙に書かれてある通り、私は「支配人さん」と呼びかけた。


「支配人さん。十五年後の六月二日、午後六時に戻らせていただきます」

「悔いは残っておられませんか?」

 

扉の向こうから加能さんの声が聞こえた。トンネルの中で声同士が共鳴している感じだった。


「はい。残ってないです」

「かしこまりました。では、七瀬様のご帰還を許可します」


 扉が自動で、ゆっくりと開いていく。過去に戻るときに開いた扉の中は真っ暗だったのに、戻ろうとしている今、太陽の光が差し込み、その中では桜の花びらが優雅に舞い踊っていた。


「バイバイ、お父さん。また会おうね。お母さん、今から帰るね」


 私は深呼吸し、その中へと足を踏み入れた。

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