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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.03 ナナセ ユズナ
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第10話

 私は写真に写っていたお洒落着に着替えさせられ、平司という男性に抱えられたまま、家を出た。母は常に嬉しそうな表情を浮かべて歩いている。やはり、この人は私のお父さんなのかもしれない。母を利用して、この人が父かどうかを確かめるしかない。そう思ったときには母のほうを指差し、「ママ」と口にしていた。


「ママがどうしたの?」

「ママ、ママ」


とりあえず、私はママとだけ連呼してみた。すると母が、私が言いたいことを汲み取ったのか、「ママがいいの?」と言ってきた。それに対して私は大きめに頷く。


 私がそう言ったせいで、男性は寂しそうな表情をしていたが、すぐに「京香、変われる?」と母に問いた。


「うん、大丈夫だけど。平司、もっとゆず奈のこと抱いてたいでしょ?」

「本当はね。でも、ゆず奈がママがいいって言ってるんだから仕方ないよ」

「そっか。ごめんね」

「ううん、気にしないで。俺は毎日家にいるわけじゃないから、ゆず奈だって緊張するだろうし。京香にべったりな理由も分からなくもないからさ」

「・・・うん。あ、平司、これ持ってくれる?」

「もちろん」


男性は母が持っていた荷物を受け取り、私は母に抱かれる。今とは百八十度違って、母の愛情を身に染みるように感じた。


 実家近くの交番前を通りかかる。ちょうど自転車に乗ろうとしていた警察官に話しかけた。


「お疲れ様です」

「七瀬か。どうや、仕事順調か?」

「はい。あのときはお世話になりました」

「これからの未来を引っ張っていくのは七瀬のような警察官だ。生真面目な性格を活かして頑張ってくれよ」

「ありがとうございます」


 母はにこやかに二人のやり取りを眺めていた。


「ママ、だれ?」

「あの人はね、平司の先輩警察官なの」

「せんぱい?」

「うーん、パパよりも警察官としての歴が長いの」

「わかんない」

「分からないよね。でも、いつか分かる日がくるからね」

「うん!」


とりあえず大きく頷いておく。二歳児の頃、自分がどんな様子だったか分からないが、それとなく演じられている気がする。


「けいさつかん! けいさつかん!」

「そうね。警察官はカッコいいよね。ゆず奈のパパもかっこいいでしょ?」

「パパはかっこいい! けいさつかん!」

「うん。パパはカッコいいね」母は嬉しそうに微笑んだ。


 やはり、母が平司と呼ぶ男性=私の父親だということが判明した。しかも、警察官だったとは。写真に写る人が私の父で間違いない。よかった。これで母に私にも父親がいた証拠として写真を突き出せる。残りの四十五時間は、父の姿を脳に、瞳に焼き付けることにしよう。

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