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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.02 ハマナカ ツヨシ
32/143

第16話

  *


「そう言えばなんですけど、浜中さんって、どうして刑事になられたんですか?」

「七瀬と松野の夢が奇しくも刑事になることだったんだよ。その夢を俺が叶えるのも変だと思ったが、三十歳という年齢制限もある中で、今しかないと思って決断したんだ」

「そうだったんですか」

「刑事になってなかったら、こうして宮部さんとも会えてなかったでしょうし、加能という人物について語れる日が来ることもなかったでしょうね」

「そうですね」

 

彼は両腕を広げ、はスーッと深呼吸をする。


「浜中さん、少しいいですか」

「どうかされましたか?」

「いえ、あの、僕の立場から言うのは間違っていると思うんですが、訊いてくれますか?」

「はい。ご自身の立場など気になさらず、なんでも仰ってください」

「ありがとうございます。えっと・・・、七瀬さんは浜中さんに幾ら注意されたとしても、恐らく過去から現在に戻ってくることは無かったんじゃないかって思うんです」

「それは、どうしてです?」

「七瀬さんも警察官としての浜中さんに憧れていたから、ご自身が現代に戻れなくなったとしても、下した決断によって運転手や同乗者の方、そして松野さんを助けたんじゃないのかなって。憧れてるって言うのが、ときに恥ずかしいと思うこともあるんです。憧れてるからこそ、浜中さんの行動を真似してみようとか、浜中さんに言われたことを守って動こうとか、そう思われたんじゃないかと」

「うん」

「実際、僕も社内に憧れてる男性の先輩がいるんですけど、たまにその人の口調を真似してみたり、後輩への接し方を研究したりするんです。だから七瀬さんは意のままに行動されたんだと思います」


 彼の発言に、思わずハッとした。


「まぁ、僕の考えなんで間違ってるとしか思えないんですけど」


謙虚な態度を見せる宮部誠人は、本当に根が優しくて嘘が付けない、いい人なんだろう。


「いや、そんなことはないんじゃないか。私が否定するのも変かもしれないが」

「いえ、そんなことないですよ」

「宮部さんにそう言ってもらえて、なんだかモヤモヤしていた部分が晴れた気がするよ。ありがとう」

「いえ、とんんでもないです。でも、こうして加能さんを知る浜中さんと話せて嬉しかったです」

「私もだよ。松野が星としての縁を導き、それを七瀬が結んでくれたのかもしれないな」

「そうですね」


 松野、私をここまで導いてくれてありがとう。もうゆっくり休んでいいぞ。

 七瀬、今どこで何をしているかは知らないが、宮部誠人と出会わせてくれてありがとな。感謝してるぞ。


「あと、このタイミングで聞くのもおかしいかもしれないんですけど・・・」

「何だい?」

「七瀬さんにご家族の方っていらっしゃったんですか?」

「あぁ、いたよ。妻と娘さんがね。その当時確か娘さんはまだ二歳とかだったからな、もう高校生になっている頃じゃないかと思う」

「そのご家族さんとは、七瀬さんの一件があったあと、お会いになられたんですか?」

「いや。ご家族も七瀬平司と過ごした記憶が消されてるからな。でも、私には七瀬の記憶が残っている。だから話したくても話せないんだ。でも会えるのなら、会ってみたいとは思っているんだがね。まぁその一歩が中々踏み出せずにいるんだよ」

「記憶を消されている以上は、話しても理解されないでしょうから、難しい問題ですね」


しみじみとしていく空気。その人物の記憶がある者が無い者と会うのは、相手を気付付けることになり兼ねない。だから避けてきた。でも・・・。


「でも、七瀬の奥さんとお子さんが幸せに暮らせているのなら、それでいいんだよ。私ができることは何もないからね」

「そんなこと、無いと思いますよ」

「でも、私は七瀬のご家族を傷つけることだけはしたくないからな。もう、ここから思ってやることしかできないんだよ」

「辛いです」

「そうだな。あぁ、娘さんは今頃どんな大人になっているんだろうか。どこかで会ってみたいな」

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