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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.02 ハマナカ ツヨシ
30/143

第14話

  *


 目の前に座る宮部誠人は、ただ静かに私の話を訊き続けた。


「結局、七瀬は自分の手で過去を変えてしまったために、現在に戻れたのは私だけでした」

「えっと、あの・・・、七瀬さんって方は、どうなられたんですか?」


 私の拙い身の上話に、ただ直向きに耳を傾けてくれる彼の姿に、つい胸を打たれてしまう。


「実を言うと、私もあの後のことは知らないんです。いま七瀬がどこで何をしているのかもです。そもそも七瀬が生きているかも分からないんだよ。知る術がないのでね」

「七瀬さんが警察に勤めていたという記録は、どこかに保管されたりして残ってるんですか?」

「いや。旅行から帰って来て調べたんですがね、七瀬に関する記録はすべて抹消されていました。それに私以外の警察関係者や七瀬と付き合いがあった人物、そして七瀬の親族の脳内からも、七瀬に関する記憶は完全に消え去っているのです」

「それって・・・・・・」

「事実上、七瀬平司はこの世に存在しなかった人物として扱われることになった。私だけが知る人物になってしまったんだよ」

「そんな」全身から気力を失ったかのように言葉を吐き捨てた。


「流石の私でも最初は驚きましたよ。戻ってきて七瀬の話をしても皆が口を揃えて『七瀬なんて人は知らない』と言うもんですからね。それに、『悪徳商法に引っ掛かって変な夢でも見ているんじゃないか』と裏で揶揄われることもありました」

「知らないなんて言われると、ショック受けるなぁ。しかも、裏でそんな噂話なんてされたら生きた心地はしませんよね」

「あぁ。こんなことになるんだったら、もっと七瀬に注意をしておけばよかった。今そう思っているんです。十五年も前の話なのにね」

「そのお気持ち、よく分かります。同情されても困るかもしれませんが」

「いやいや、そんなことはないよ。加能を知る人物と会って話すこと自体が初めてだし、過去へ旅行に行った話をここまで詳しく話したこともなかったからね。私の気持ちも少しは楽になったよ。訊いてくれてありがとう」


 許されるのなら、もう一度だけ加能に会いたい。会って、十五年前に戻りたい。もし、それでも七瀬が戻れなくなるという結末が変わらないのならば、七瀬にせめてもの想いは伝えておきたかった。

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