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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.02 ハマナカ ツヨシ
17/143

第1話

 切れかけた一本の蛍光灯が、一定のリズムで点灯と消灯を繰り返す。けたたましい音でサイレンを鳴らすパトカー。一台、二台と続いて出動していった。


「私は十五年前、まぁ、二十九歳のときなんですが、署に配属されたばかりの松野という人物を事故で亡くしました。暗いトンネルの中を彷徨っていたときに、加能という人物が、扉とともに現れたんです」

「あ、あの、事故というのは・・・」

「・・・・・・」私が口を噤む(つぐむ)と、彼は慌てた様子で、「不躾な質問でした。浜中さんの気持ちも考えず、すみませんでした」と頭を深々と下げる。名前の通り、誠意ある人物だと思えた。

 

「飲酒運転の車を取り締まろうと、赤色灯を付けて走っていたんですけどね、逃げようと速度を上げたその車が横断歩道を渡っていた松野にぶつかって。挙句、車はその場から逃走したんです。もちろん、その当時は誰にぶつかったのかは知りませんでしたがね。助手席に乗っていた七瀬に被害者のことを任せて、私は車の追跡を始めました」


聞き苦しそうにしている。ただ、彼は相手の話に口を挟むことなく、最後まで私の話を訊こうとしているのだけは分かった。


「しかし、その車は私の前で住宅に突っ込みました。すぐにパトカーを降りて状況の確認をしたんですが、飲酒をしていたせいか、打ちどころが悪かったのか、即死の状態でした。松野は七瀬が呼んだ救急車で病院に運ばれて治療を受けましたが、三日後に死亡しました」

「そんな、辛すぎますよ」


宮部誠人は俯いた。私は目に浮かんでくる涙を必死で堪えた。

 

「そのことで加能さんと出会われたんですか?」

「ええ。私は事故のことからしばらく立ち直ることができず、心身の状況も悪かったので休職していたんですが、そのときにね。驚きましたよ。自宅にいきなり扉と見知らぬ人が現れたものですから」

「それで浜中さんは過去に戻られたってことですか?」

「はい。七瀬と一緒に、過去に戻りました」

「えっ、二人同時にですか?」


目を見開き、驚きの表情を浮かべる。その大きな目に私は吸い込まれそうになった。


「二人とも強い後悔の念を抱いていたみたいで。聞いた時は驚きましたよ」

「そういうこともあるんですね」

「ええ。それで、私と七瀬は揃って説明を受けました。規則に反さなければ過去から現代へ戻れると」

「僕もその説明を受けました。それに、誓約書みたいなものも書かされて」

「私も書きました。懐かしいですね」


ふとした瞬間に、加能と出会ったあの日のことがフラッシュバックする。十五年の時が経ってもなお、あの出来事は怪夢だったのではないかと思うこともあった。ただ、こうして加能と会ったことがある人物と実際に話せて、現実だったことを痛切に実感した。


「お二人で現代へ戻ってきたとき、どんな会話を交わしたんですか?」

「交わしていません。交わしてみたかったですね」

「何か、あったんですか」

「七瀬が戻って来なかったんです。だから、何も話せなかった。七瀬の想いを知ることもできなかった。悔やむばかりですよ。彼のことを守れなかったってね」


太陽の光が届いているはずなのに、部屋は瞬時に暗くなった。


「七瀬が戻れなかった理由としては、やっぱり規則違反でした。自らの手で、過去の結末を、変えてしまったみたいなんです」

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