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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.07 支配人 カノウ
142/143

第35話

 死後の世界に来てから、およそ十六年。その間、わたくしは誰かに生まれ変わることは、ありませんでした。商光は、一人目の人生を終えられてから、たった半年ほどで二人目の人生を歩み始めたというのに・・・、やはり、わたくしには転生という名の才能がないのかもしれません。


いいえ、違うのです。わたくしには、転生する必要がないと、どちらかにいらっしゃるお偉いさんが笑って言っているのでしょう。それでも、やはり時として、加能ではない別の人生が歩めるのなら、どれだけ面白いのだろいう、と考えることもあるのです。


そして、新たな生を受けることが本当にあるのかと、どこか疑いの目を向け始めていたとき、商光はわたくしの前から静かに姿を消しました。どなたにも何も言わないで、そう、まるで忍者のように・・・。


 でも、わたくしは商光を『なくした』とは思っておりません。それは、今、わたくしがいるのは死後の世界だから、ですとか、商光彰芳様が黒猫 商光としての寿命を生ききった、ですとか、そういった安易な考えから思っているのではございません。商光なりの理由や、思いやりがあったために、こうしてわたくしに何も告げないまま、ただ静かにいなくなったのだろうと、そう思っているのです。商光のことですから、生まれ変わって、またどこかで誰かのために生きていることでしょう。


 ご自身がいなかったとしても、もう監視しなくても、加能一人だけで支配人としての仕事ができると、そう判断されたのかもしれません。実際にそうならば、わたくしはその想いに応えるだけです。そして、また商光に逢える日を楽しみに過ごすのです。それが、わたくしが商光にできる、唯一の恩返しなのですから。


 とは言いつつも、わたくしは商光に対して、ただひとつ、後悔していることがあるのです。それは、依頼主様の元へ向かう前に、過去から現在へ戻れない人はどうなるのかということに関して、商光に色んな形式で問い続けるべきだったのではないか、ということです。


 当時はこのことで、わたくしは、依頼がある最中も、そうでない期間も、しばらくの間、一人で悩み続けましたが、事あるごとに、商光からは「知った上で、貴方様に何ができるの?」と冷めた声で言われるのみで、その答えを出すことができませんでした。


そして、その答えは未だに出せておりません。今のわたくしは正解なんて無いのかもしれない、なんてお洒落なことを考えだしているのです。しかし、その答えが見つかったとき、わたくしは商光のことを忘れてしまうのかもしれません。答えに出会いたい気持ちと、商光のことを忘れたくないという想いが、今後もわたくしの頭の中で交差していくのでしょう。それはある意味で、『いきている』ということになるのかもしれません。

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