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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.07 支配人 カノウ
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第34話

 それからしばらく経って、わたくしはある方との再会を、思わぬ形で果たしました。その方とは、わたくしと中高生時代にバンドを組んでいた、岸本鷹大様。ファイリングナンバー6番の、あの岸本鷹大様です。


 太陽が照り付ける中、依頼主様の元から帰る途中で、どこからともなく、聞き覚えのある声が聞こえてきたのです。そして、次に聞き覚えのある足音が聞こえてきました。リズムを刻んでいるかのように歩く音。なんだか、懐かしいリズム・・・。


向かってくる足音はやがて一人のものとなり、わたくしの記憶と結びついたその瞬時に、あれは岸本鷹大様だと感じたのです。


 そのアンテナが拾われたのか、岸本鷹大様は振り返り、わたくしに声をかけて来ました。しかし、わたくしはその場から動かず、これと言って何もしませんでした。どこ壮快な気分でいる岸本鷹大様は、気分そのままに、わたくしの横をすっと通り過ぎて行きました。わたくしは、広く、大きくなったその背中に、こう伝えました。


「岸本鷹大様、わたくしはあなたに謝らなければいけません。あのとき、わたくし自身の感情だけをぶつけ、あなたを傷付けてしまいました。あの頃のわたくしは自分のことだけを考えて生きていました。そんなことでは、人は生きていけませんよね。人間は誰かに支えてもらいながら生きているのですから。その誰かが、わたくしにとっては岸本鷹大様でした。そのことに気付けず、そして謝りもしないまま消えてしまった。三十三となった今、謝っても遅いと言われるかもしれません。許さなくても構いません。ですから、岸本鷹大様は音楽に溢れた人生を歩みください。死後の世界から、あなたの活動を期待しておりますよ」


と。岸本鷹大様は振り返らず、そのまま歩いてわたくしの前からいなくなりました。それでいい。わたくしは何度もそう心に言い続けました。



「貴方様も、年齢を重ねて素直になったんだね」


 突然、隣を歩いていた商光がわたくしの右足に飛びかかってきました。右足だけはやめてください、と商光に言おうとしたのですが、痛みを感じていた足は、もうなにも感じなくなっていたのです。


「生きていたあの時代、貴方様は尖ってた。素直の素の字も感じられないほどにね。謝るって簡単なことじゃない。でも、それができるようになった貴方様の成長を感じられて、自分はとっても嬉しいよ」


「商光にそう言われるのは、どこか気恥ずかしいものですね」


「照れないでよ」


 商光とわたくしは表情をともに綻ばせました。


「商光、少しいいですか?」


「何?」


「わたくしの、左腕にも飛び乗ってくれませんか? 確かめたいことがありまして」


「よく分かんないけど、うん、いいよ!」


 商光は嬉しそうに返事したあと、すぐにわたくしの左腕に飛び乗りました。痛みを感じたら素直に言おう。そう思っていたのですが、右足同様、何も感じられなくなっていました。


「商光、お聞きしたいことがあります」


「どうしたの?」


「今まで左腕と右足に痛みを感じることが多々あったのですが、商光に飛び付かれたり、抱きつかれたりしましたが、痛みを通り越して何も感じられませんでした。何か理由があるのでしょうか?」


「ちゃんと理由があるよ。それはね―」


「それは・・・」


「貴方様が一番に抱いていた後悔の念を、違う形ではあるけど岸本鷹大様に伝えられたからだよ。よかったね」


 よかった。という簡単な言葉で片付けられていいのかは分かりませんが、岸本鷹大様に想いを伝えられたことは、よかったということなのでしょうね。そう自分で納得するしかありませんが。

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