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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.07 支配人 カノウ
132/143

第25話

 システムが完成してから数日。


「死後の世界からも仕事の依頼が来たよ!」


嬉しそうに報告してくれた商光の顔は、今でもハッキリと覚えているぐらい、本当に輝いていました。


「ご依頼主様の名前は?」


「田仲真里那様。八年前に戻りたいみたいだよ」


「そうですか。分かりました。商光、往きましょう」


「はーい」


 わたくしは田仲真里那様の元へ飛んで往きました。死後の世界から死後の世界への移動は、生きている世界へ往くわけではないため、色々と苦労しました。死後の世界と言っても広いですからね。


 田仲様が待つ場所へと着いたわたくしは、普段通り、過去に戻りたい理由などを聞きました。そこで彼氏様の名前として聞いたのが、ファイリングナンバー1番の、宮部誠人様です。この当時は、まだ宮部様とは出会っておりませんでしたが、田仲様の話を聞くだけで、容易に宮部様のお人柄を想像できたのは驚きでした。


 田仲様は過去へ戻られ、結末を変えずに死後の世界へ戻って来られました。そして二日後、宮部誠人様への熱い想いは抱かれたまま、新たな生を受けるべく、死後の世界を旅立って往かれました。



 田仲真里那様が過去へのご旅行を終えてから二週間が経とうとした頃、わたくしへ次なるご依頼を下さったのが、あの宮部誠人様でした。思いは生と死の世界でも通ずることを身に染みて感じた瞬間でした。そして、生きている世界で宮部誠人様ご本人を見たその刹那、様々な感情が沸き上がり、震えたのを覚えています。


 宮部様とわたくしは直接的な関係性が無いと思っていたのですが、実は違っていたのです。そのことに気付いたのは、宮部様から過去に戻りたい理由を聞いていたときでした。


 最初そのことを聞いたときは耳を疑いました。あの舟木一三様と下田竜様が殺人事件の容疑者として逮捕される日が来るとは思ってもみないことですからね。その事件が起きたときに戻りたいと願われた宮部様との出会いは、運命の悪戯としか感じられませんでした。


 逮捕されたという話は商光も知らなかったようで、宮部様が過去に戻られている間に話をしたのですが、「二人とも、ついにやっちゃったか」と溜息交じりに言ったのです。そして商光は続けざまに「あの二人なら、いつか逮捕されてもおかしくないと思ってたんだ」と呟いたのです。


「だから離れたんですか? 舟木様と下田様から」


「そうだよ。だって、先にやられてたかもしれないよ? よかったじゃん、離れといて。まぁ、結局死んじゃったけどね。でも、なんで殺されるのが分かってるのに過去へ戻ったんだろ。助けられないのにね。不思議だよね、宮部様って」


 この言葉を聞いたとき、わたくしの心の奥底に眠っていた闘争心に火が付きました。


「商光、それは言い過ぎだと思いますが」


「え?」


「殺人などあってはならないことです。わたくしたちの方が先に殺されていたかもしれない。離れておいてよかった。そんなことありません。何も関係ない田仲真里那様は、あの二人の喧嘩騒動に巻き込まれた挙句に死んでしまった。そして宮部誠人様は大切な彼女様を失くされた。そんなこと、許されるはずがありません。ホームレスであったわたくしや商光が死んでも哀しむ人はいないかもしれませんが、宮部様の場合は違います。不思議なことでは無いと思います。結末も知った上で、その苦しみを乗り越えた上で、過去に戻る選択をされた。だったら、そのことを褒めてあげるべきでは?」


 商光はしばらく口を閉ざしたままでした。


「でも、商光がわたくしの前からいなくなるなんて、哀しいですよ」


「え」


「先ほど、商光が死んでも哀しむ人はいないと言ってしまいましたが、そんなことはありません。少なからずわたくしは商光が死んでしまったら随分と落ち込み、哀しみます。だから、わたくしの前からいなくならないでくださいよ。頼りにしているのですから」


「貴方様にそう言ってもらえて嬉しいよ。自分も言い過ぎちゃった。ごめんなさい」


「分かってくれたのなら、それでいいのですよ。これからはお気を付けくださいね」


 商光は頷いたあと、わたくしの背中に飛び乗ってきました。わたくしよりも年上の商光に抱き付かれたりするのは、何年経っても一向に慣れませんでした。

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