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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.07 支配人 カノウ
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第20話

 仕事先で依頼を受け終わったわたくしは、商光とともに帰路へつきました。


「初めての仕事、どうだった?」


「緊張し、ました。丁寧な言葉遣いにも不慣れだし、弾が埋め込まれてること忘れて、杖の存在も忘れて・・・、結構痛い思いもしました」


「いつか、杖がある生活にも慣れるよ。それに、緊張しているようには見えなかったよ。堂々としてた。カッコよかったよ」


「本当ですか?」


「ホントだよ。嘘ついてどうするのさ」


「それも・・・、そうですね」


仮に嘘だったとしても、褒められるといい気分になってしまうものですね。


「あと、貴方様は、仕事が丁寧だね」


「そ、そうですか?」


「うん。だって――」


商光は仕事ぶりだけでなく、わたくしの拙い敬語と丁寧とは程遠い態度に関しても、大いに褒めてくれました。恥ずかしさのあまり、素直にお礼を伝えることはできなかったのですが、心がとても楽になりました。


 仕事の報酬は・・・、ありませんでした。報酬が無いと知ったときは、相当落ち込みました。なぜなら、生まれ変わる前までは、ごく一般的な高校生・・・、とは程遠いですが、そういった年齢でしたからね。遊びたい時期なんです。


ですが、生きている世界とは違い、死後の世界には商業施設といった遊ぶ施設はありません。もちろん飲食店もです。死んでいるのですからね。ご飯を食べたり、遊んだり、そういうことは何一つとしてできないのです。


最初は、つまらない人生を送るのだと考えるだけで嫌気がさしていました。高校を中退してから、家出をして、一人ホームレスの仲間に入って、正直なことを言うと、金銭面の問題で、一日三食の食事をとることはできないため、食への興味は薄れていたのです。あの頃よりも、体重は落ちていたと思います。計ることはできないので、詳しくは分かりませんが。


このままではダメだと思って、一念発起して、仕事をして得られたお金でたらふくご飯を食べてやるんだ、と意気込んでいたのですが、まさか事故に巻き込まれてこのようになってしまうとは・・・。


まぁ、何もない死後の世界でお金がもらえても、何をすることもできませんから、別に必要ないということだったのです。それに気付いたときは、なんだかスッキリした気分でした。


 商光がわたくしのことを褒めてくれた後、会話が一瞬だけ途切れたのです。その瞬間、わたくしはあのことを訊きたくなって、こう口にしました。


「商光、仕事行く前に教えてくれなかったこと、教えてください」


「えっと、何だっけ?」


恍けた表情をする商光に、わたくしは「憶えてるくせに」と言いました。すると「丁寧な口調でお願いされたら、教えてあげてもいいよ」と、少し上から目線の態度で言ってきたのです。


「さっきは、不慣れな敬語とか褒めてくれましたよ?」


「仕事だから褒めただけ。今はプライベートな時間だよ? 普段から丁寧な態度を取って、敬語で話さないと、いつまで経っても身に付かないよ?」


こう商光に言われたわたくしの心に火が付きました。わたくしは姿勢を正し、丁寧な態度と言葉遣いに気を付けながら伝えました。すると商光はわたくしのことをニヤニヤしながら見つめ、「できるんじゃん。いいよ、教えてあげる」と答えたのです。この瞬間、してやられた、と、そう思いました。

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