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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.07 支配人 カノウ
124/143

第17話

「そう言えば、書いた紙はどうなるんです?」


「読み上げた後は、貴方様が依頼主様のお荷物と一緒に、大切に保管する必要があるんだ」


「過去にその紙を持って行くことはできないんですか?」


「過去への持ち込みは許されてないよ」


「なぜです?」


「持って行って、過去で捨てられちゃったら意味ないでしょ? 証拠隠滅する人が現れるかもしれないし」


黒猫の姿になった商光から、証拠隠滅という四文字が出るとは思ってもみなかったので、ついフッと噴き出して笑ってしまったのです。すると商光は真剣な眼差しで、「笑いごとじゃないよ」と言い、ふと我に返りました。


「確かに、持っていかれて証拠を隠滅されたら、こちらも困りますね」


「だから持って行きたいって言われても、それは駄目だってこと伝えてね。絶対だよ」


「はい。絶対守ります」


 この紙に書かれた内容と直筆のサイン、押された指紋だけでなく、その紙自体までもが大切な証拠そのものであるということを、その場で知りました。見た目では、そのすべてがあまり大切なように思えないのですがね・・・。


「ほかに聞いておきたいことある?」


商光は純粋な猫の目で訊いてきました。わたくしは指を立てて、「最後にひとつだけ」と口にしました。


「何? 答えて挙げられる範囲なら教えてあげるよ?」


「聞いたときからの疑問で、なぜ荷物入れが段ボールなのか? ということの質問を」


「あ~、なるほどね、良いところに気付いたね」


「いいところかどうかは、分からないんですが・・・」


「えへへ、実はね、段ボールを使っているのにも、重要な意味があるんだよ」


 商光は猫っぽさを残しつつ、何か企んでいるような表情をしました。まるで今から悪戯をしようとしている少年のようでした。


「段ボールにですか?」


「うん。比較的安価だから、用意しやすいでしょ?」


わたくしは、そう聞いて拍子抜けしました。まさか、そんな理由だったとは――


「死後の世界でも、段ボールは安いのか。だから―」


「え、まさかだけど、本気に捉えたの?」


「えっと・・・」


「貴方様って、意外と素直だよね、可愛くていいね」


目が点になりました。わたくしは、商光に揶揄われてしまったのです。生きていた世界でも段ボールは安く手に入り、それなりに耐久性もあって、それに暖を取ることもできる。優れた品であることは間違いないため、わたくしは商光に揶揄われているとは知らず、簡単に信じてしまいました。


「ごめん、さっきのは嘘でね、段ボールを使うのにも、ちゃんとした意味があるんだよ」


「その意味とは、何ですか?」


「処分が楽ってこと」


 わたくしは商光の発言内容に、再び拍子抜けをしました。商光が嘘だと言っていた内容と、ほとんどレベルが変わらず、簡単すぎて、逆に意外な答えが返ってきたからです。まさか、と思いました。


「え、重要な意味が処分が楽ってこと、ですか?」


「うん、そうだよ。逆にそれ以外の重要な意味があるとでも思ったの?」


「今までの話の流れからだと、そう思っても」


「確かに。でも、処分が楽っていうのも重要な点だと思わない?」


「言われてみれば」


「でしょ? 過去に行かれている間は蓋をして保管ができる。現代に戻られた方にはそのままお渡しできる。もし仮に戻って来なかった場合には、期限を過ぎればそのまま処分ができる。分別が必要ないのが、生きている世界と死後の世界との違いかな」


 最初に処分が楽だという理由で段ボールを採用していると聞いたときは、大切な品を段ボールなどという安価で簡易的なものに入れて預かるということに驚倒されていました。しかし、その理由についての説明を受ける中で、商光の言う通りなのではないかと思い始めました。戻られた方には蓋をしたままお渡しできる点、戻られなかった方の場合は期限さえ過ぎれば箱に物を入れたまま処分できる点・・・。でも、このときのわたくしは、次のような考え方もできるはずでは、と考えたのです。

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