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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.07 支配人 カノウ
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第16話

 わたくしは、とにかく商光が読む内容を、ひたすら頭に入れるという、インプット作業に追われました。昔から暗記が得意ではないのですが、商光の説明が上手なのか、まるでリズムのようにすんなりと入って来るのです。やはり、口頭での説明を要望して良かったと思いました。


「次は、指紋に関しての話をするね」


「はい」


「判子の代わりに指紋を押してもらうよ」


「はい」


「あと、これは指示だけど、親指で押すように言ってあげてね」


「なぜ親指になるん・・・、のです?」


「親指に付ける指輪のことをサムリングって呼ぶんだけどね、右手の親指に付けた場合、リーダーシップを発揮するとか、信念を維持させたいって意味があって、左手の親指に付けた場合、目標を達成したいとか、夢を叶えたいって意味があるんだ」


「・・・」


脳での整理が追い付かず、わたくしは思わず嘆きの溜息を吐きました。すると商光が、「今言ったことは別に覚えなくてもいいことだよ」と、軽い感じで言ってきたのです。少しだけ子馬鹿にされたような気がしたのですが、暗記する必要がないということが上回り、喜色を含めた笑みを浮かべました。


「それでね、紙に押すときに使う朱肉は、ちょっとだけ特別な仕様となっていて、押した瞬間に消えていく朱肉は、のちに指輪のような跡が付くんだ。だから、親指の指紋を押してもらうようにしてるの」


「朱肉の痕は、他の人に見えるんじゃないですか?」


「ううん。見えるのは本人だけだよ。そしたら他人の目も気にならないでしょ?」


「すごい」


「でしょ? まぁ、この朱肉を開発したのは別の人なんだけどね」


「別の人?」


「まぁ、詳しくは知らないんだけどね。今みたいな、流れる感じで説明を受けて渡されただけだから」


「へぇ」


 わたくしはこのことを聞き関心しました。このような朱肉は、生きている世界では存在すらしませんからね。死後の世界ならではの物は、わたくしには輝いて見えたのです。


「あと、指紋なら右でも左でも、どっちでもいいからね。ちなみに強制しちゃだめだよ。その依頼主様の性格が現れる瞬間なんだから」


「はい」


 わたくしは大きく頷いたあと、「一旦説明をストップして欲しいです」と言って、止めさせて、整理することにシフトチェンジしました。その間、商光はずっとわたくしのことを静かに待ち続けたのです。何も言葉を発することなく、ただひたすら。


「お待たせ、しました」


「おっ、じゃあ次の説明に移っていいの?」


「はい。お願いします」


「はーい。じゃあ最後に、書いたことを声に出して読む理由について話すね」


商光はわたくしからの合図があるのを、うずうずして待っていたのでしょう。声色は少しだけ高く、なんだか嬉しそうにしていました。


「声に出して読むことで、自分の声が耳に入って来るから、目だけで見て覚えるよりも入ってくる情報量が多くなるんだ。だから過去に戻る前にもう一度、目と耳で後悔してることに対して、想いを馳せて欲しくてね」


「なるほど」


「だから、今、一連で話したこと、つまり後悔していることを紙に書くことも、親指の指紋を押すことも、声に出して読むことも、そのすべてに意味があるってこと。もし、このことについて質問されたら、依頼主様にちゃんと説明する必要があるから注意してね。聴かれなければ、そのままスルーしていいから」


「はい」


「これで説明は終わりだけど、ほかに聞いておきたいことある?」


 そう商光に言われたとき、ふと、ある疑問がわたくしの頭に浮かんできたのです。


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