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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.07 支配人 カノウ
122/143

第15話

 心が跳ねる。今まで感じたことがない緊張に包まれました。


「準備できた?」


「仕事行く前にもう少しだけ聞きたいことがあるー、ります」


「何?」


「宣誓する内容を書くところから、指紋を押すところまでの流れで気になったことが」


「そのことなら、今渡そうとしてた紙の資料に書いてあるんだけど」


 そう言って見せてきたのは、商光が身体に巻き付けていた紙でした。文字を読むのが苦手なわたくしは紙を見た途端に、参りました。


「その内容、読んで欲しいです」


「声に出して?」


「文字を読むのが苦手で」


 丁寧な言葉遣いを心掛けるがあまり、当時のわたくしは日本語を覚えたての人が使うような表現をしていました。


それが今ではすらすらと、ましてや冗談を交えながら敬語を話せるようになっているのですから、死後の世界でも時の流れには驚かされたものです――


「そっか。じゃあ、読んであげる」


「そうしてもらえると、嬉しいです」


「じゃあ、説明してあげよう!」


「はい。お願いします」


 商光は紙の資料を器用に片手で持ち、「まずは紙に書く理由から」と、声色をわざわざ変えて言い、説明を始めました。


「その人が抱えている後悔の気持ちを、ただ言葉にして口に出すだけじゃなくて、それを書くことに重きを置いてるんだ。書くことで気持ちも整理できるからね。そして、あとで話すんだけど、指紋同様に重要な証拠となるんだ」


「重要な証拠?」


「うん。言うだけじゃ、あとでケチ付けられても、こちら側の証拠がない限りは何も言い返すことができない。でも、紙に書くことで、それが事実として言い返すことができる。だから何か言われてもその紙を突き出せば、何よりも証拠になるんだ」


「なるほど」


「あとね、この紙への記入方法って言うか、見本みたいなのもあるから、実際に依頼主様が書くときには見せてあげてね」


「はい」


 商光から渡された紙。一番左上には見本の二文字が赤で書かれ、字の周りは赤枠で囲まれた状態であり、その下には罫線が何本か引かれた状態でした。その文章の書き出し部分には、次のように書かれていたのです。


―私○○○○(フルネーム)は、―


「最初がこの通りなら、後ろは何を書いても問題無いからね」


「何を書いてもって、指示はないんですか?」


「ないよ。あっても困るでしょ。いちいち書き方とか、こういうことは書かないでとか、説明する側もされる側も面倒でしょ。この紙へ書く前にも色々とやることあるからね」


「確かに、そうですね」


「だから、もし内容とかについて訊かれたら、その人が書きたいことを書いてもらうように、ちゃんと説明してあげてね」


「はい」




 扉の前に立ち、依頼主様が紙に書かれた内容こそが、思い出されたものなのです。


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