第14話
制服、と呼べるのか分からない服装に着替えさせられて、実年齢にも合わない白くて長い髭をプレゼントされ、そして今まで使ってこなかった丁寧な言葉を使うように命令され、正直、戸惑いました。しかし、弾に悪さされては困るので、今回だけは命令を守らなければ―。そう思っていたとき、先ほどとは打って変わってテンションを上げた商光が、こう言ってきたのです。
「よし、仕事行くよ!」
「仕事って、どこにですか?」
「貴方様を求めてる方のところだよ」
商光が猫語なのかよく分からない言葉を話すと、目の前に突如として茶色い扉が現れたのです。今までに見たことが無いような厚さがあり、金色に輝く豪華絢爛な装飾が施されておりました。
「最初の依頼主は、大家をやってる升田千枝様のお宅だよ。升田様に過去へのご旅行を提案するんだ」
「過去への旅行?」
「貴方様に与えられた仕事内容は、過去に戻りたいと願ってる人の前に現われて、実際に過去へ戻してあげること。そして、過去から現代へ帰還させてあげること。この二つだよ」
「それがわたくしの仕事なのですか?」
「そうだよ。じゃあ、今日のご依頼について詳しく話すね」
「はい」
商光はわたくしの不慣れな敬語使いについては何も触れず話を進めてくれました。
まずは戻りたいと願う升田様についての紹介を受け、そのあと、戻る方全員に伝えるべき事柄、規則とタイムリミットについての説明を受けました。あの規則に関して疑問を感じたわたくしは商光にこう尋ねました。
「その人が規則を守らなかったらどうなるんですか?」
すると商光は、「過去から現代へ戻って来られなくなるんだ」と、少しトーンを下げて答えました。
「その場合はどうなるんですか?」
「それに関しては何も言えないんだ。だから、同じような質問をされたら、『すみませんが、それに関しては何もお伝えすることができません』って言えばいいよ」
わたくしは、戻らなかった場合のことを何も知らないまま皆様の質問に答えることとなったのです。実際どうなるかなんて、わたくし、商光含め、誰も知らなかったのです。
そして、過去の結末を自らの手で変えてしまった場合も、規則違反となり現代へ戻って来られなくなること、タイムリミットを過ぎてしまっても現代へ戻れないことを教えられました。
「タイムリミットは長くても三日間。戻る時間を設定するのは貴方様の役割だから、色々と気を付けてあげてね」
わたくし自身が、依頼主様が過去へお戻りになる時間を設定できる。その当時はワクワクした気分でした。今ではもう慣れてしまい、何も思えなくなっていますが。
「あとね、過去の一時間が現代では五分に相当するんだ。七十二時間は、現代では六時間しか進まない計算だから、そのことも伝えてあげてね」
「はい」
そして、扉の前に立ってから、過去に戻る扉を開けるまでの一連の流れについての説明を受けました。その間、わたくしは商光に関して気になることがありました。それは、商光の小さな身体には、赤い紐で紙を巻き付けられていることです。その紙にはびっしりと黒い文字のようなものが敷き詰められていたのですが、この紙が一体何なのか、まだ知ることができませんでした。