第13話
商光に案内されるがまま歩いていると、今度は色も形も装飾品も全てが安っぽい、黒い扉が目の前に現われました。
「ここに入って。着替えたら出てきてね」
「え、着替える?」
「いいから、早くしてね」
商光に言われるがまま扉を開けると、そこには黒い籠が置かれているだけでした。いわゆる試着室とは違って、中に鏡があったりといったことはなかったのです。籠の中を恐る恐る覗いてみると、黒縁丸眼鏡、黒のシルクハット、黒のコート、黒のシャツ、黒のネクタイ、黒のスーツ上下だけでなく、包帯、杖までも入っていたのです。
そこで判明したのです。包帯と杖が、商光が言っていた俺を支えてくれる物だったりするのか、と。
新品を買ったのに、ホームレス生活によって薄汚れてしまった服を脱ぎ、籠の中に入っているものすべてを身に着け、わたくしは扉を開けました。
「おぉ、かっこいい」
商光の誉め言葉に、お世辞だと分かってはいるのですが、普段、褒められる機会がないからか、わたくしは少しだけ気を良くしてしまいました。
「そ、そうか?」
「これ見て、容姿の最終確認してね」
「はい」
手渡された鏡を見て、わたくしは自分の口元に生えた白い髭に目を丸くしました。
「えっ、ひ、髭? 白いし、長い・・・」
「だって、黒よりは白の方が似合うのかなって。オシャレにしとかないと。それに、支配人ならそういう髭も必要でしょ?」
「必要って、どういうこと?」
「理由なんかないよ。ただ単に、商光から貴方様へのプレゼントだよ。よく似合ってるね」
白い髭が似合うと言われるのは気恥ずかしいものでした。生まれ変わったわたくし自身、何歳なのかは知りませんでしたが、似合うならまぁいいか、という気持ちにはなれませんでした。
「あのさ、俺って一体何歳なの?」
「何歳もなにも、死んだときのままだよ。支配人として生まれ変わっても、年齢はそのままだって」
「この年で白い髭って、オシャレにしてもあり得ねぇだろ」
ついにわたくしの口から本音が出てしまいました。それを聞いた商光は、わたくしに向かってこう言ってきたのです。
「ねぇねぇ、口調気を付けた方がいいよ」
「え?」
「支配人だよ? 丁寧な口調で話さないと。それに、一人称は『俺』じゃなくて、『わたくし』だからね。従わないと、貴方様が大変な目に遭うよ。だから気を付けてね」
「大変な目に遭うって、どういうこと?」
「口調!」
出会ってから、一番の大声を出されてしまい、つい身体が跳ねてしまいました。その瞬間に、自分のことを律しなければ、と思ったのです。
「あ。えっと・・・、大変な目に遭うとは?」
「埋め込まれてる弾。それが悪さしちゃう。だから気を付けてね」
「分かっ・・・、分かりました」
こうして、わたくしは丁寧な口調で話すようになったのですが―、基本的にわたくしは誰に対してもため口で話していたために、中々敬語を使うことに慣れませんでした。ですので、最初の方にお会いした方には、変な敬語を使ってしまっていたのです。まぁ、これも一つの思い出です。