第12話
わたくしから離れようとしない黒猫に対し、ちょっとした興味本位で尋ねてみました。「どこ行くの?」と。すると、その猫はまっすぐ前を向いたまんまで、少し笑って、「貴方様の元へ、だよ」そう答えたのです。興味を引き立てるような返答内容でした。更に気になってしまったわたくしは、黒猫に対し、次の質問をしてみました。
「君の名前は?」
「商光だよ。商業の商に光で、商光」
「へぇ、・・・って、えっっ、商光って、もしかして、あの商光彰芳?」
「そうだよ。貴方様のよく知る、あの、商光彰芳だよ。えへへ」
わたくしの知るあの商光さんがここに・・・。それを聞いて、たまげました。腰を抜かしました。実際には抜かしておりませんが。
「すいません、呼び捨てにしてしまって」
「いいよいいよ。気にしてないし、気にしないで」
「あぁ、はい。で、えっ、と、何で商光さんがここに?」
「貴方様のあとを追って死んだからここにいるんだ」
あのとき死んだのは俺だけじゃなかったのか。
「俺だけじゃなくて、商光さんも死んじゃったんだ。そっか・・・」
「うん。っていうか、そんなに悲しまないでよ。自分まで悲しくなっちゃうよ」
以前とは違う声質で、しかも可愛らしい口調で話される黒猫。でもその中身はあの頃の商光様。異質としか言いようがありませんでした。それに、どこからが夢で、どこからが現実なのか、まるでパラレルワールドにでも迷い込んだような気分でした。
「死亡した時刻は、自分のほうが先なんだけどね」
「えっ、そんなことまで分かるの? あ、もしかして能力者にでもなっちゃったとか?」
「そんなことないよ。生まれ変わったら、人間じゃなくて、能力者でもなくて、ただの黒猫になっちゃった」
「生まれ変わり? で、何で猫?」
「貴方様にお遣いするためだよ」
「お遣い?」
「うん。貴方様はね、生まれ変わって、支配人になったんだよ」
「え、俺が支配人? なんでまた」
「前世で足りなかった部分を、この世界で補うっていう役目があるみたい。お遣いするってことは、その部分が自分には足りてなかったってこと。貴方様は責任感が足りて無かったから支配人になったみたい」
このことを言われたとき、わたくしには責任感がなかったのだと実感したのです。死んでから気付いても、どうにもなりませんがね。
「あとね、貴方様には自分のこと商光って呼んで欲しいんだ」
「でも商光さんは俺より年上だし、それはちょっと」
「この世界では貴方様の方が上の立場にいるんだ。だから商光って呼び捨てしていいんだよ」
わたくしは、とりあえずの状態で頷きました。
「分かった。よろしく、商光」
「はい。お願いします!」
軽々と身体を持ち上げ飛び跳ねる商光。ホームレスとして生活を共にしていたときは、商光さんと丁寧に呼んでいたために、商光といきなり呼び捨てにするのは中々大変でした。それに、呼ぶごとにドキドキと妙な緊張感がわたくしの胸を襲ってきました。
「これからお仕事行くよ!」
「えっ、仕事? どこに?」
「付いてきて。ほらっ、早く!」