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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.07 支配人 カノウ
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第5話

 不登校となって一年が過ぎた頃、両親が営むカラオケ兼スナック加水様はアルバイトを募集し始めました。従来からいらっしゃる常連客の方だけでなく、新規のお客様が増え、スナックの仕事が忙しくなったことを機に募集を開始したのですが・・・、二か月間、誰からも手が上がらず、応募してくる人の姿はありませんでした。


 アルバイト生を募集しつつ過ごしていた二か月間で、両親は別にアルバイトを雇わなくても店が回せるのではないか、と薄々気付き始めていました。そして、「もし今日、アルバイトをしたいという人が現れなければ、募集を停止することにしよう」と言っていた、まさにその日、店の常連客から、「お酒を提供するお店でアルバイトをしたい、と言っている大学一年生の知り合いがいる」と紹介を受けたのです。そして三日後、アルバイトをしたいと言っていた方がお店へとやって来ました。


 開店前のスナックで面接が行われ、その場で両親が話し合い、五分後にその方の採用が決まりました。その方というのが、貝津海(かいづうみ)様でした。


 貝津海様は、とても明るい性格の女性でした。アルバイトとして雇われてからすぐに、常連客数名の方と打ち解けるほどの馴染みやすさがあり、また不登校のわたくしにも勉強を教えてくれるなど、心優しい一面も持つお方でした。


 常連客のみならず、わたくし、そしてわたくしの両親も、貝津海様のことを大変気に入っておりました。そんな愛が感じられる場で働く貝津海様の溌剌とした笑顔は、わたくしの脳裏に深く刻み込まれているのです。


 その貝津海様をご紹介された常連客というのが、終夜大地様という男性でした。終夜大地様は、会社の同期という水野まや様と、よく一緒にスナック加水様へ来店されていたのです。終夜大地様と水野まや様は大学生の頃からお付き合いされており、二十五歳でご結婚され、その後、お一人目のお子さん(お嬢様)が生まれてからも、タイミングが合えばお二人でよくご来店くださいました。


 わたくしが初めて終夜様のお子さんを見たのは、生後六か月のときでした。まだ生まれたばかりだというのに、皆に愛くるしい表情を振りまいており、その表情にわたくしも和まされたのが思い出として残っております。


 このような感じで、わたくしはドラム以外何の刺激もない小学生時代を過ごしてきたのです。海津海様と出会えたことは、わたくしにとってはプラスの経験にはなるのですが、この時代は、それと言って濃密な思い出を作ることもできませんでした。


小学生時代に戻れると言われても、後悔していることなど何一つとしてありませんから、わたくしのような支配人を名乗る人が現れたとしても、きっと、いや、絶対に戻ることはないでしょうね。

 

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