第1話
わたくしの前にいきなり現れたのは、燦然と輝く岸本鷹大。わたくしが影となっているせいか、余計輝いて見えました。わたくしが生前最後に岸本鷹大様を見たのは、高校生のとき、謹慎処分を受けたあの日でした。それ以来、一度も出会うことなく、わたくしは影となってしまい、彷徨っているも同然のような状態になってしまっています。
高校生のときは、着崩してはいましたが、一応指定の制服を着用しているので、あまり私服を着ている姿を見ることはありませんでした。ですが、わたくしが覚えている限り、岸本は、家ではわりときっちりしていると言いますか、Tシャツにデニムという印象が強かったのですが、いま着ている服装はヨレヨレのパーカーに、スウェット素材のズボンに、履きこんでクタクタになっているサンダルと、とてもダサくて、あの頃とは全く別人のように見えるのです。
しかし、あの頃からの性格はあまりお変わりないようで、ギターケースを背中に背負っている、中学生ぐらいの男の子に、手を振り続けていました。そして、わたくしが登場する合図として転がす空き缶も、無視することなく、ちゃんと拾おうと手を伸ばしてくれました。
やはり、お優しい雰囲気をそのままに、三十代を迎えられたのだと、ほんの少しだけ安心しました。そして何より、岸本鷹大様がギターを続けていらっしゃることに、わたくしは涙するほど嬉しいという気持ちでいっぱいになりました。実際にはもう、わたくしと一緒にバンドとして演奏をすることは叶いませんが、岸本鷹大様だけでも続けてくれていることが、わたくしにとってはとても幸せなことなのです。
今日という日をもって、盟友、岸本鷹大様とお会いするのは、最後になるでしょうから、わたくしの元を去り行く際に、こう呟きました。
「わたくしは、あなたが覚えていらっしゃる、あの頃の加能ではございません。ですので、あなたの元へ遊びにいくことはございませんよ。そして、セッションをすることもございません。なぜなら、この足と手ですからね。ですが、最後にこうして盟友と再会できたことは、大変光栄に思います。いつまでもお元気で」
と。しかし、この声は岸本鷹大様に一生届くことはありません。わたくしは、もうこの世にはいないのですから。