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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.06 キシモト タカヒロ
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第12話

 喧嘩別れのようになって、そのまま迎えてしまった翌日。俺と加能の間には何とも言えない空気が漂っていた。俺はこの空気に流れを付けるために、加能の目を見てこう伝える。


「俺、鴨田と付き合うことになったから」


そう聞いた途端、みるみるうちに血相を変えていく加能。俺はそれでも目を見続けた。


「は? お前ふざけたこと言ってんじゃねえよ。今すぐ鴨田と別れろよ」

「は? 逆に何で別れなきゃいけねぇんんだよ」

「岸本のことだから、どうせ恋に集中して練習疎かにすんだろ。バンドよりも大事なもんはこの世に存在しない。だから別れろって言ってんだよ」

「何で俺が最初から練習しなくなるって決めつけてんだよ。それに、バンドよりも大事なもんなんていくらでもある」

「俺はな、中学の頃から岸本のこと見てるから分かるんだよ。恋に現抜かす暇あるなら、俺とのバンド活動に力入れればいい。恋なんかより、自分の胸に宿る魂を震わせろよ。しかも鴨田は三年だ。どうせすぐ別れ告げられる。岸本と鴨田は最初からそういう運命なんだよ」

「お前に俺の何が分かるんだよ。分かったような口の利き方してんじゃねぇぞ。それにな、運命とかそんな簡単な言葉で返してくんな」


 加能が握った拳は小刻みに震えながら俺の腹の位置につく。


「あー、分かった。お前、俺に鴨田取られて嫉妬してんだろ? 鴨田可愛い顔してるもんなぁ。でもな、鴨田は俺を選んだ。話聞いたけどお前のそういう性格に呆れてたぜ? だから選ばれなかったんだよ。残念でした」

「いい加減にしろ!」


俺の腹は、加能の握った拳によって殴られる。


「お前だって、いい加減にしろよ」


我慢できず、俺も手を出した。そうして始まった殴り合いの喧嘩。周りは「やれやれ!」と煽ったり、勢いをつけさせるような発言をしたり、手を叩き声を出しながら笑ったりしている。中には高みの見物をする人もいた。が、そんな人は関係ない。俺に関係してるのは、加能だけなんだ。


「キャァーーーー!!!」


 そういうのが嫌いな女子が上げた悲鳴をあげた。その声を聞きつけたのか、ヒーローのごとく駆け寄ってきた男の教員二人が俺らを止めに入る。


「お前ら、いい加減にしろ!」


あとからやって来た担任により動きを完全に静止させられた俺と加能は、床に倒れ込んだ。


「お前らも観てないで、さっさと自分の席に戻れ」


観客の立ち位置を保ち続けるクラスメイトたちはまともな返事もしない。それに対し、担任が一喝を入れる。すると、その恐怖に満ちた表情と声量が生徒にようやく響いたのか、一瞬にして教室は静かになった。 


「加能、岸本。俺に付いて来い」


そう担任に言われ、トボトボと、痺れた足を引きずりながら付いて行く。


「なんで殴り合いなんて」

「先生には関係ないっすよ」

「お前らなぁ・・・」


 担任が呆れた顔をして俺と加能のことを見る。そして足を止めた。目の前にあったのは重厚感ある扉が目立つ校長室だった。


 緊張感に満ちた状態のまま中に入った俺と加能は、経緯について話をさせられた。それを踏まえたうえで校長から御目玉を食らった。この当時は何でこんなことで注意されなきゃいけないのか、納得していなかった。自分が挑発的な態度を取ったことも原因であるのに。


「それぞれしばらくの間、自宅謹慎をするように」

「はい」


俺はとりあえずの返事をしておいた。が、加能は足を動かし苛立ちの態度を見せる。


「は? なんで俺まで謹慎なんすか」

「加能、お前が先に手を出したんだろ?」

「そうっすけど、罵ってきたのは岸本の方が先っすよ」


怒気を含んだ声で俺の方を指差す。俺は、むっとした加能の顔をただ見る。


「どっちが先だの後だの関係ない。殴り合いの喧嘩になったのは事実。それが謹慎処分を食らうってことなんだ。いいか、二度と謹慎処分受けたくないなら今回のこと覚えとけよ」


流行る加能を宥めるように言う担任。こういうことに慣れているから、即座の対応ができるんだよな。


「でも―」

「でもなんだ? 話はあとで聞く。だから今は落ち着け」


加能はクソっとその場で吐き捨てるように言い、怒りからか身体を震わせていた。

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