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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.01 ミヤベ セイト
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第9話

 音も聞こえないまま、僕は何かに着地した。恐る恐る目を開ける。広がっていたのは実家の二階にある僕の部屋だった。壁に掛けれられたカレンダーは八年前の五月のもので、自宅にあるはずの時計も掛けられていた。


「うわ、まじか」


全身を見る。当時愛用していたロングTシャツに膝下までのズボン、猫の刺繡がワンポイントで入ったくるぶし丈の靴下を履いていた。何気なく袖をまくり右腕を見る。傷は跡形もなく消えていた。


「誠人、ご飯できたわよ」


一階から母が僕を呼ぶ声が聞こえた。耳が懐かしさを覚える。


「そうか、八年前だから離婚してないのか」


父と母は僕が大学を卒業した年に離婚し、今はそれぞれで家庭を持っている。実際、僕の部屋は父の再婚相手の連れ子が使用している。もう、この家に戻ってくることは無いと思っていただけに、つい昔の記憶が鮮明に甦ってしまう。


「誠人! ご飯できたから早く降りてきなさーい!」

「はーい、今行く」


部屋を出ようとした時、勉強机の上に置かれた、当時のままのスマホに目がいった。それを徐に手に取り、ズボンのポケットに忍ばせ、部屋を出た。


 まだそこまで夫婦関係悪くない両親は、仲良さそうに会話をしていた。僕は真里那からのメッセージがいつ届くのかと、ドキドキしながら夕食を食べ進める。久しぶりに食べた母の酢豚は、酸味のよく効いた懐かしい味がした。


 食事を終え、部屋に戻る階段を上っている時にポケットの中でスマホが振動した。


「お、きた」


急ぎ足で階段を上り、ドアを閉め、部屋に閉じこもる。届いたメッセージは、八年前と同じものだった。


 ―宮部君、明日楽しみだね―

 ―僕も、楽しみにしてるよー

 ―ねぇ、何時に待ち合わせする?―


来た、あのメッセージが。


 ―田仲ちゃんに合わせるよ―


過去の自分は、場所と時間を指定した。でも今回は真里那の方からメッセージが届くのを待つ。加能さんの発言を確かめるためにも。


 しばらくして、メッセージが送られてきた。


 ―じゃあ、江柄公園に十五時でどう?―


場所も、時間も、過去の自分が送ったものと一致した。確かに、加能さんの発言通りだった。しかし、好奇心からなのか、どうしても別の方法で確かめたくなる。


 ―江柄公園は田仲ちゃんの家から遠いでしょ? ほかの場所でもいいよ?―

 ―ちょうど、近くに行く用事があるから遠くないんだ―


やはり、場所を変えることはできそうにない。


 ―でも、時間は大丈夫なの?―

 ―うん。予定が十三時からだから、ちょうどかな―

 ―帰り遅くならない?―

 ―仕事終わりのお父さんと合流するから、大丈夫―


やはり、時間を変えることもできそうにない。


 ―そっか。じゃあ、江柄公園に十五時で。待ってるね―

 ―うん。また明日!―

 ―また明日―


場所も、時間も変えられないのなら、自分で変えていくしかない。もっと美しい最期を迎えてあげられるように。

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