純金魚すくい
ある時ぼくは、神社の鳥居の近くに金魚すくいの出店があるのに気がついた。今日は縁日でもなんでもないのにと不思議に思ったぼくは、その出店を覗いてみた。
たくさんの金魚が水槽の中を泳いでいる。だけどその金魚のほとんどが、ピカピカの金色をしていた。
「ぼうや、やってみるかい?」
パイプ椅子に座っているおじさんが、ぽいを手に持ってにこやかに笑っていた。
「初めてのお客だからタダでいいよ」
金ピカの金魚は、かなり手強かった。動きも素早いけど、なにより普通の金魚よりもいくらか重い感じがする。何個もぽいをもらって、ようやく一匹すくうことができた。
「おめでとさん。また遊んでくれよ」
僕は小さなビニール袋に金魚を入れてもらって、そのまま家まで持ち帰った。
帰宅してお父さんに金魚を見せてみると、とても驚いた様子だった。
「おい、この金魚、本物の金じゃないか?」
見てみると、ぼくがすくった金魚はいつの間にか金色のアクセサリーみたいな物に変わっていた。
お父さんが友だちに調べさせたところ、なんと本物の純金でできているらしい。売ったらそれなりの金額になるみたいだ。
この話はSNSを通じて、あっという間に拡散してしまった。ぼくが再びあの出店に訪れた時は、たくさんの大人が集まっていた。金魚をめぐってケンカをしている人までいる。
ぼくは怖くなり、しばらく出店に行くのをやめた。
それから半月ぐらい経って行ってみると、今度はあのおじさん以外に誰もいなかった。
「やあぼうや、久しぶりだな。どうだ、もう一度やってみるかい。金魚はほとんどいなくなっちまったけどね。なんとまあ大人の浅ましいことよ、あんな小さなもん売ったって……あ、お金はいいよ。ぼうやが最後のお客だからな、サービスだ」
水槽を見ると、中には赤い金魚が二匹しかいない。
「そいつも我々の研究成果なんだけどね……。まあ、君がすくってくれよ」
今度の金魚すくいは、あっけないほど簡単だった。金魚を袋に入れてもらって、ぼくは帰ることにした。
帰宅して、たまたま家に来ていた生物学者の伯父さんに見せてみると、今度も驚かれてしまった。
「これは絶滅したはずの品種じゃないか!」
その後で調べてもらったところ、その金魚はとうの昔に絶えたはずの純系の品種だったらしい。純金よりも、何倍も価値がある金魚だったのだ。
ぼくはその後、お礼を言いにあの神社へ行ってみたけれど、金魚すくいの出店はもう影も形も無くなっていた。
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