表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/32

とある会長のことばより 後編

「娘さんの日記には、ほかの名前、なかったと思いますが?」


「あったさ。──外所(とどころ)さん、キミだよ」


 ハァ! ? 外所は、ワハハと笑った。


「なるほど、確かに」


「私は疲れはてていた。そんな私に、近づいてきたのは君の方だ、外所さん」


「……だったかな?」


「ほんのイタズラていどで、娘さんの復讐してみません? 君はそういった。おど


かしてやりましょうよ、とね」


 外所は曖昧あいまいな笑みを見せた。私は盗撮した舞洲涼子まいすりょうこの別の写真を出した。


「ホラ、舞洲涼子の写真だよ」


「それが?」


「イタズラていどのつもりが、私は殺人者になった。なぜなんだろう? 確かに、


娘のうらみは晴らしている。しかし、私は、殺人をおかせる人間だったのだろ


うか?そう考えた、最近」


「フフ、で、結論はでました?」


「私はあやつられていたのだと結論づけた。違うだろうか? 外所さん?」


 外所は頭をふった。


「いってる意味はわかります。他に? なにがわかりました?」


「この写真、舞洲涼子と一緒に写っている男は君だろ?」


 外所はなにもいわずにただ笑っている。そして悪びれる様子も見せず、髪をかき


あげた。


「知ってたんですか? まいったな」


 私はひとつ息を吸い、そして吐いた。


「ここから先はすべて私の想像だが、話してもいいかな?」


「どうぞ」


「まず、この3D映写機だが、おどしに使うにしても大した効力を発揮すると


は思えない」


「イタズラですから」


「殺人がか?」


「殺しましょうなんてボクはひと言だっていってない」


「確かにね」


「なにがいいたいんです?」


「娘にいってくれたんだよな? 人生は楽しくなければ嘘だと」


「ええ」


「私の憎しみをあおり、殺しをさせるのは楽しいかね? バカげた映写機も、単に


君が使ってみたかっただけなんだろ? 楽しみたかっただけなんだろ?」


 外所はなにも答えない、しかし、嬉々(きき)としている。


「娘の死。一番の原因は鷲尾ではない、舞洲涼子だと教えてくれたのは君だ。でな


ければ私には知りようもなかった」


「事実ですよ。舞洲にがれていた鷲尾は、彼女にいわれるがままに娘さんに


イジメを繰りかえした」


「ところがそれを教えてくれた君と、舞洲はつきあっている。しかも私に殺させよ


うとしている。なぜだろう?」


 外所はただニコニコと微笑ほほえみをうかべている。


「じゃまになったのかな、舞洲涼子が。子どもでもできたとか? 最初から彼女の


殺害が目的だったのかな?」


「想像、たくましすぎません?」


  私も笑う。


「いやいや、こんなもんじゃないさ。もっともっと想像は広がったよ。中学時代、


娘が生きていたころから舞洲と君はデキてたんじゃないか? だとすれば舞洲と


鷲尾を間接的にあやつり、娘にイジメを仕かけたのは君。私を殺人へと誘導した


ようにね」


「話としてはおもしろいですね」


「おもしろいだろ? クラス中に連鎖れんさし、浸透しんとうしたいやがらせやシカトの中


で、娘を助けてくれたのはいつも君。敵だらけの中、白馬の王子様がつねに無傷で


いられた理由もこれで説明がつく」


「自作自演か……おそまつですねぇ」


「そうでもないさ。世間知らずのバカな娘はコロリとだまされたんだ。外所さん、


娘はね、君を信頼しきっていた。君という存在があるかぎり生きていられたはず


なんだ。が、とすると、逆もありうる」


「あるでしょうねぇ」


私は初めて外所をにらみつけた。


「娘になにをした?」


 ──沈黙。外所は計算している。ここでそれをいった方が、おもしろいかいな


を。


「それを聞いてどうするんです? 親父さん」


「ただ真実を知りたいだけだ」


 フフ……外所はまた笑った。


「しかし、そんな妄想をもちながら、なぜ、今までだまってたんです? ふたりも


殺しちゃって」


「だからいったろ、気づいたのは最近だと。それに、あのふたりが憎い気持ちに変


わりはない」


「だったら告白は、舞洲涼子をったあとにすればよかった」


「そうはいかん。舞洲をったら君は私に興味をなくす。私からはなれてしま


うだろ?」


 ほう……。外所は感心したかのように目を丸くした。


「親父さん、すごいな! よく、そこまでボクのことがわかりますね!! あなた


のこと、少し見くびっていたみたいだよ」


「そりゃどーも」


「楽しませてくれたお礼に話してあげる」


 外所は、話した方がおもしろいと判断したようだ。私はだまってうなずく。


「そう、舞洲とは中学のときからつきあってたよ。でも、あのころアイツ、ガリガ


リでね。しかも生意気ときてる。顔はいいんだけどね。でね、女女(おんなおんな)したフックラ


したのが欲しくなったわけ」


 私は言葉が見つからなかった。それが中学生の考えることか!?


「ただ抱くのもつまらないから、デブをメスぶた奴隷に調教しようと思ってね」


 外所が悪魔に見えた。


「ところがさ、ああ、いっておくけどボクの方からなにかしたわけじゃないよ。あ


なたの娘さんから抱きついてきたんだ。大好き!ってね。そうそう、ところがさ、


一度やってみたら、やっぱデブはダメなんだよねー。肌にあわないっての? もう


アキマヘンてわけ」


 私はこぶしを握りしめた。


「それでどうした?」


「お前はもういらないや。デブは豚の国にいって暮らしな、そういってやった」


 外所はこともなげにいってのけた。


『外所クンが大好き!』と書いた日記を、泣きながら破りすてる娘の姿がよぎ


った。


「親父さん、あれ、泣いてる? あはは、ショックだったー? ボクもショックだ


ったよ! まさか、死んじゃうとは思わなかったからねー。いい迷惑だったよ」


 迷惑? 迷惑だと!?  私は目をあげるとポケットからナイフを抜いた。


「あれれ? ナイフ!? 暴力はいけないな」


 私はなにもいわずにナイフを振りまわす。許せん! 許さん!!  よし、今


だ!!


 ──グキ! うわぁ!!  手首の骨を折られ、ナイフを奪われた。


「望みとおりに真実を教えてあげたのに。興奮すると血圧あがるよ、親父さん」


 私は首筋をうたれ、腹をけられ、顔を殴られた。鼻が折られ、吐血とけつした。


「そーだ、親父さん。ひとついってなかったことがあったよ」


 私は腹を押さえてうめききながら、彼を見あげた。


「鷲尾がね、ボクに手出ししなかった理由。舞洲にれてたのは本当なんだ、


で、つきあっていたボクに一度、突っかかってきてね……」


 ククク、外所は口元を押さえて笑う。


「半殺しのめにあわせてやったよ。本気だしちゃった」


ゾッとするような目をしていた。


「ま、いーや。舞洲のことは自分でなんとかするよ」


 外所は何度も何度も私の腹と背中をけった。死ぬほどの苦痛が襲い、悲鳴を上げ


た。おそらく内臓はグシャグシャになってることだろう。


「親父さん、今まで楽しかったよ。でも、もういらないから。娘さんの所へいっち


ゃいな!!」


  外所は私のナイフで、私ののどを切りさいた。生あたかい液体が大量に私


の胸にあふれ出した──。


 ♪♪♪♪ その場に不にあいな軽快なメロディが響いた。


あん?   知らない番号だ。スマホを見た外所はでるべきか一瞬、躊躇ちゅうちょした。


なにしろ殺人の直後だ。が、彼は出た。それも一興いっきょうだと考えたのだ。


「もしもし?」


『死んだ?』


「なんだって?!」


 女の声だ。


『死んだの? あの人』


「誰だ?」


『……そこで死んだ男の妻よ』


「なんだって!」


 落ち着け! 落ち着け!! ありえない!!


『その人に盗聴機をもたせていたの。そこでの会話は全部録音させてもらったわ。


でもよかった! 外所クンが、ちゃんと夫を殺す意志をしめす言葉をいってくれ


て。バカでしょ? その人。興奮していきなりナイフを振りまわしはじめたとき


は、どうしようかと思ったわ!』


 なんだ? なにをいっている、この女……。


『元々ナイフは夫の物だし、正当防衛で逃げられちゃったら、あの人、犬死いぬじ


だもんねぇ。今朝けさね、ちゃんと死んできなさい!ってあの人を送りだしたの


よ。でないと外所クン、なかなか本音を見せてくれないから』


 キレた!


「なにいってんだアンタ!! コイツのカミさんは気がくるって──」


 くるって? 確かにこの女、くるってる。


『そーよ、くるったの。娘が死んでバカみたく泣きすぎたみたい。哀しいとか切な


いとかって感情が欠落しちゃったんだって。お陰さまでサバサバしたもんよ。でも


ね憎しみだけは消えなかった。そこへ外所クンが現れたのよ。あの人から話を聞い


てピーンときたわ!! あの人の仮説の大半は私が考えたことなの。あのうすらボ


ンヤリに思いつける話じゃないでしょ?』


 なるほど! あの親父にしては、できすぎだと思ったが……なるほど!!


「で? お母さんは、どうしたいの?」


 女はあはは、と笑った。


『どうしたい? そんなこといってる場合? 私は外所クンの殺人の証拠を握って


るのよ』


 確かに!!


『殺しにいらっしゃいな。親子三人まとめて地獄へおくってよ』


「そうはいくか。警察でも待機させてるんだろ?」


『まさか!! 外所クンを法にゆだねるほど優しくはないのよ、私。こないのなら


いいわ、コッチからいくから』


「…………」


『外所クン?』


「……なんだよ!」


『アンタとアンタのまわりのすべてを、滅茶苦茶めちゃくちゃにしてやるからね……


おもしろそうでしょ?』




 えー、ただいまご覧いただきましたビデオ、この物語は多少の誇張こちょうも交えた


フィクションであります。憎しみの連鎖は途切れることはない。憎しみはさらなる


憎しみを産むということが少しでもおわかりいただけたでしょうか? しかしなが


ら、故意による突然の悪意がおとずれ、ふたたび私の家族をおびやかし、傷つけ


る。これまでつちかってきたしあわせのすべててが暗転してしまうような突然の転


機を、無理やり誰かに押しつけられるようなことがもし、またあれば、私は全力で


その者をたたきつぶしてやります。必ず、たたき殺してやります! 必ず!!


            (とある「()()()()()()()」 会長のことばより抜粋)


                                (終)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ