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9.孤独との戦い

 レオンは花瓶を持って、裏庭へと急いでいた。


 すると、前方から見知った人影がやって来る。


 ディアナの父、アウレールだ。


 レオンは軽く会釈をして通り過ぎようとしたが、前方を塞がれてしまった。


 アウレールは機嫌を損ねたように、眉間に皺を寄せていた。


 レオンに緊張が走る。


「……レオン。君は随分、ディアナと仲がいいようだな」


 その瞬間。


(終わった)


 庭師の青年は悟った。


「悪いがレオン。やはり君はうちの屋敷の担当から外れて貰おう。事務所でブーケを作る裏方に回ってくれないか。親方にも話しておくから」


 やはり、この時が来てしまった。


 レオンは顔を上げ、その鈍色の瞳で、まっすぐアウレールを見つめる。


 出入り禁止になるのならば、もう遠慮はいらない。


 青年は覚悟を決めた。


「分かりました。であれば、ひとつだけお願いがあります」


 アウレールは庭師からの思いがけない反撃に目を見開く。


「何だ……言ってみろ」

「現状、ディアナ様は孤独です。そろそろイルザ様も嫁入りします。この屋敷にはディアナ様と年の近い男女がひとりもいない。そういう環境の中で、どれだけお嬢様が心の行き場を失くして苦しんでいるかを、今一度考えてあげて欲しいんです」


 アウレールが固まっているのをいいことに、レオンは更に言い募る。


「商会同士というのは敵同士ということもあり、どうしてもその子女は交友関係が狭く、孤独に陥ります。貴族のような昔ながらの社交場も少ない。嫁入りするまでは、毎日毎日勉強と裏庭の花を眺めるしかやることがない。そういった環境の中で、話し相手がいなくなるのは、辛いことです。だから、お嬢様をそういった社交界に出して差し上げるか、新しい友人を作れる場所を必ず提供して下さい──私が去った後にでも」


 アウレールが眉間の皺を深くし、こちらに向かって来る。


 その手が振り上げられた。


 一発ぐらいなら、殴られてやってもいい──


 レオンが目を閉じた、その時だった。


 アウレールの手が、ぽんとその肩に乗ったのだ。


 青年は目を開き、肩にかけられた手を眺め、呆気に取られた。


 アウレールは真剣な表情で、ぽつりと言葉を落とす。


「……済まなかった」


 レオンはどきどきしながら口を結ぶ。


「君はそこまで真剣に、ディアナのことを考えてくれていたのだな」


 次々に、思いがけない言葉が降って来る。


「私は君を見くびっていたようだ。そこら辺の恋に浮かれた若者と同じだと。しかし、君は……」


 アウレールは声を詰まらせた。


 レオンは青ざめながら、次の言葉を待っている。


「君には悪いことをした。明日以降も、うちの屋敷の剪定を頼む」


 レオンはようやく息を吸った。


「はい」

「ディアナの話し相手になってやってくれ」

「……はい」


 レオンは再び花瓶を持つと、その足で真っすぐ裏庭へ向かう。


 裏庭では、緊張の面持ちのディアナが、レオンを今か今かと待っていた。




 アウレールは踵を返し、妻カミラのいる部屋まで戻った。


「やっぱりあの庭師さん、辞めさせちゃうの?」


 カミラの問いに、アウレールは首を横に振る。


「あら……」


 アウレールはカーテンを開け、裏庭を眺めた。


 レオンと花瓶に花を活けながら、はにかんで嬉しそうな末娘を見つめる。


「カミラ」


 アウレールは妻に問うた。


「お前は嫁入りの前──恋をしたことはあるか?」


 カミラは笑顔を貼り付けたまま夫の顔を眺め、何も答えなかった。


 アウレールは色々と悟った。


「……そうか……」


 カミラも窓辺に歩いて行く。


「イルザは、今まで恋をしたことがないそうです」

「ほう」

「ですからこの先、夫を愛せるのかと不安がっておりましたわ」

「そうか」

「あの、あなた」

「……ああ」

「あの庭師さんはとても真面目な男の子なの。きっとディアナにしょうもないちょっかいを出すような人じゃないわ」

「……私も、彼と話して、今しがたそう思ったところだ」

「いずれあの子も大商会に嫁入りして、自由がなくなる身です。気持ちくらいは、今は自由にさせてあげてもいいんじゃないでしょうか」

「……カミラ」

「はい?」

「お前が恋していたのは、どこのどいつだ」

「ふふふ。それは、墓まで持って行く程度の秘密です」

「ははは……そ、そうか……」


 明るい裏庭。


 庭師の青年はただ黙って、令嬢の花を摘む手を眺めていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] よし、これで堂々とイチャイチャ出来るな!
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