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6.冒険者 ランクはこれで 上がるかな?

「では、いよいよお楽しみの報酬のお支払いですね!」


 ようやく調子を取り戻したニーナさんは、カウンターの下からじゃらじゃら音を立てている革袋を取り出して来た。


「こちらが報酬の銀貨100枚です。この場で数えてくださいね。後から足りないって言ってもダメですよ?」


 カウンターの上に広げられた銀貨は、クリスとマリアによってあっと言う間に数えられ、それぞれの取り分を公平に仕分けられていった。


 助っ人で入ってくれていたエマさんとリアムさんとは、頭割りの――実際には少しだけ安い――二人で銀貨32枚という約束になっていたので、その分をまとめてお渡しする。


 ちなみに、私たちの取り分は残りを4等分だから、一人銀貨17枚と言う事になった。まあ、ざっくり言って、2週間くらい過ごせる金額かな?


「エマさんもリアムさんも、ありがとうございました」


 依頼料を渡しながら、エマさんとリアムさんに頭を下げる私たち。


「ああ、今回の旅は色々面白い物を見せて貰って、楽しかったよ」


「正直言って、自分の常識が根底から覆されたわ。魔術の可能性はまだまだ残されているって分かったのは、本当、あなたに逢えて良かったと思う」


「こちらこそ、冒険者の心得、ありがとうございました!」


 エマさんとリアムさんも、にこやかに私たちと握手を交わしたのだった。


 と、一段落ついた所で、改めてリアムさんが口を開く。


「で、本来なら、初心者育成支援クランである"(あかつき)明星(みょうじょう)"として、君たちをクランに勧誘するところなんだが……俺たちの支援はもう要らんよな?」


 特に冒険初心者の場合は、こういったクラン、つまりプライベートの互助組織に入って支援――訓練や手伝いと言った人的支援の他、割安な装備、消耗品の支給も含む――を受けるのは、不安定な立ち上がりの時期を生き延びるのに有用である事はよく分かる。


 でもまあ私たちの場合は、初体験の今回こそ、念のためにお手伝いをお願いしたんだけど、本来ならば十分な戦力は持っているからねぇ。


 私の表情を見て、支援は要らないのだと感じたのだろう。リアムさんは私の返事を待たずに、そのまま言葉を続けている。


「どちらかと言えば、逆に新米共への支援の方をお願いしたいくらいではあるんだが……君たちの場合、戦力としては問題なくても冒険者としての経験は浅いから、これも不適切ではある気がする。それに、せっかく冒険者になったんだから、しばらくは組織に縛られずにやってみたいだろ?」


「そうですね、お誘いは嬉しいんですが……」


 私の返事に、リアムさんは笑みを浮かべながら大きく肯いた。


「まあ、だろうな。――ともあれ、うちのクランの扉はいつでも開いている。別に加入とかに関係無く、暇なときにでもぜひ遊びに来てくれ」


「はい、ぜひ!」



              ◇   ◇   ◇



 リアムさん、エマさんは、私たちと挨拶を交わすと、再び彼らのクランハウスに帰っていった。


 私は、もう一つ確認しなきゃならないことが残っている事を思い出し、ニーナさんに声を掛ける。


「あ、そうだ、ニーナさん。冒険者のランクって、今回の依頼でどうなるんです?」


 冒険者のランクは、すなわち収入に直結するので、やっぱり上げられる物なら上げておきたい。

 ちなみに、この王都の冒険者組合におけるランクの定義は、SからGの8段階あり、それが意味するのは、1パーティでどの程度をモンスターが安定して倒せる事。最初のGは無条件だけど、ゴブリンの集団を倒せるようならFになれると言うわけだ。そして最後のSは、ドラゴンを倒せる事が条件になっている。


「はい、それじゃ、ランク確認作業を始めましょうか」


 ニーナさん、私たちの台帳を取り出して更新の準備を始めたようだ。


「今回の最大の障害は、不死の王(アンデッドロード)でしたね」


「ですね」と、小さく肩をすくめながら返す私。


「念のための説明ですが、依頼中に強いモンスターを倒したとしても、それがその依頼に直結しないモンスターであれば、カウントはされません」


 ニーナさんの説明を聞いて、私は(うなづ)いた。そりゃそうだ。でないと、依頼途中に美味しいモンスターが出たら、依頼そっちのけで倒しに行ってしまうだろう。


「ただ、今回に関しては、明らかに依頼に直結したボス的存在である事から、計上の対象となります。また、依頼書にないモンスターという事で、その正体に疑いがある場合も対象外になる可能性がありますが、今回は問題ないでしょう」


 ニーナさん、後ろの棚から大きな分厚い事典を取り出し、ページを繰り始めた。


「で、不死の王(アンデッドロード)のモンスターレートですが……えーと、アンデッド、アンデッド……あ、ありました」


 ちなみに、モンスターレートとは、モンスターの強さを表した指標。モンスター事典を作った人が適当につけたものらしいけど。


不死の王(アンデッドロード)のモンスターレートは……21ぃ!?」


 Sランクの基準であるドラゴンのモンスターレートは、種類によって異なっているけど、13から17。20台ともなると、古代竜の(たぐい)が軒を連ねている。こうしてみると、不死の王(アンデッドロード)ってやっぱり最強クラスだったんだなぁ。


「この酒場の依頼で倒された最強クラスですね……一応、最高記録では、今の国王陛下が冒険者時代に、モンスターレート24の古代金竜を倒しているらしいですが。初冒険で、となると、当たり前ですがぶっちぎりで新記録です」


 そりゃそうだ。初冒険でそんなのとポロポロ遭遇してても困るし、あっさり倒してたらもっとおかしいよね。

 と言うか、今の王様が若い頃に冒険者やっていたのは知っていたけど、この宿を使ってたんだ。確かに、王様から直々にここをお勧めされたんだけど……


「えーと、そうなると、Sランクをぶっちぎっている事になりますよね?」


 私の質問に、少し困った顔をするニーナさん。


「ええ。ただ、倒し方や、誰が貢献したかも関係して来るんですよ。今回、倒すのに貢献したのはアニーさんだけで……あと、奇襲だったんですよね?」


「はい、流石に正面から正々堂々では無理ですよ。向こうが"雷撃"……いや、"爆裂弾"を撃って来てただけで、あっさり全滅ですね」


「相手の力を発揮させずに倒した訳なので、それだとそのランクの評価はできないんですよ。あくまで、正面からぶつかって倒せるかどうか、が評価基準なので」


「ですよねー」


 まあ、そうだよね。奇襲とかだまし討ちで倒しましたー、とか言ってても、いざ正面から戦ったら負けるんじゃ、対等とは言えないわけで。


 私が少しがっかりしているように見えたのか、ニーナさんは少し笑みを浮かべてフォローを入れてきた。


「勿論、倒した事自体は記録しますから。それが積み重なっていけば、いずれは評価対象にはなりますよ!」


 ニーナさんは、「それに……」と言葉を継いで話を続けた。


「うっかり、アニーさんだけSランクになってしまうと、個人を対象にした指名依頼が来てしまいますよ?」


「うーん、それは困るかなぁ」


 私は苦笑しながら、皆の方を見渡した。


「それに、私一人だけじゃ満足に冒険はできないし。シャイラさんの剣技、クリスの斥候能力、マリアの防御力、全部揃ってないと力は発揮できないよ」


 皆、私と目が合うとニコリと笑ってくれている。ニーナさんは、そんな私たちを微笑ましそうに眺めていた。


「そうですね。それでいいと思います。――で、残りの査定なんですが。ゴブリン、ではなくて、ゴブリンゾンビに関しては、ゴブリン以下ですからね。残念ながら、いくら倒してもGランクのままです」


 ニーナさんは、そこまで喋るとモンスター事典をパタンと閉じた。


「と言うわけで今回は、残念ながら皆さんの昇格はナシ、です」


 大物を吹っ飛ばした割には、昇格なしという残念な結果にはなってしまった。まあ、最初の冒険だし、不死の王(アンデッドロード)以外は雑魚だったからね。仕方ないか。


「まあ、そうなりますよね」


「仕方ないな」


「次回に期待、やね」


「がんばります!」


「もちろん、依頼成功は記録には残りますから。ともあれ、被害なしでの初依頼の成功、おめでとうございます」


 口々に前向きな言葉を述べる私たちに、ニーナさんはフォローを入れてくれたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 依頼報告を終えた私たちは、カウンターからテーブル席に移って夕食を食べ始めていた。


 食べ始めて間もなく、私たちの目の前に一人の男性がやってきた。50代くらいだろうか。平服を着て剣を腰から下げた、白髪交じりの戦士さんだ。


 あれ、でも、どこかで見たような……


「よう、初めての冒険、お疲れさん」


「へ、へいっ!(もぎゅ)」


 私は、「陛下」と叫びかけた口を慌てて手で押さえる。そう、私たちの目の前に立っていたのは、この国を治めるロドリック王その人だった。

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