表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/33

24.ピンチでも どかんと一発 大逆転?

 黄銅の戦車団の戦士が助っ人に入ったりと、パターンを変えて何回も試作していたので、えらく時間がかかってしまいました。

 ドッペルゲンガーと彼が召喚した魔族達との戦いは続いている。私はまず厄介なインプを一掃し、いよいよドッペルゲンガーとの戦いを始めようとしていた。


「さ、これからが本番よ!」


 とは言うものの、ドッペルゲンガーに対する勝ち筋を考えないといけない。


 高位魔族となると、ただの生物を超えた存在になってしまっていて、異常な堅さと頑丈さ、回復力を併せ持っていたりする。生物ならたとえドラゴンでもクビを撥ねちゃえば死ぬのが当たり前。でも、こいつらは平気でそのままクビをくっつけて戦闘続行しかねないのよね。


 つまり、彼らの生命力だかエネルギーだかをすべて削りきるまでは死なない、と言った方が良いのかな。


 なので、シャイラさんのジゲン流のような、防御無視で攻撃一辺倒の剣術だと、振り切った後に反撃を受けかねないので、ちょっと引き気味に戦わなきゃならない。ま、シャイラさんはその辺りは(わきま)えているから、大丈夫だろうけど。


 マリアとクリスをチェンジしたのは、その相性のせい。馬鹿力で超攻撃力を持つドッペルゲンガー相手ではマリアの防御力は生かせないし、マリアの攻撃だと当たっても外れても隙が大きい。それに、いざ大ダメージを受けた時の回復にはマリアがいないと困るしね。なので後ろに回って貰っている。


 それに引き替えクリスは、避けるのが得意だし、その短剣は大ダメージは無理でもちくちく削るのには最適、と言うわけ。



              ◇   ◇   ◇



 攻撃パターンを変えた結果、私たちは今のところ順調にドッペルゲンガーを()()()いた。


 シャイラさんがドッペルゲンガーに近づくと、ドッペルゲンガーの方から彼女に攻撃を仕掛けるが、大きく踏み込んでいないその攻撃は浅い。彼女は両手に構えた打刀でその攻撃を軽々といなし、ドッペルゲンガーの上半身が僅かに流れた瞬間、脇腹を軽く薙いで深追いする事無く引いていく。


 それとほぼ同時にクリスもドッペルゲンガーの斜め後ろからするすると近づいていき、肩甲骨の辺りをさらりと薙いでいった。


 ドッペルゲンガーの斬られた脇腹と背中は、一瞬血が吹き出るが、みるみるうちに治っていく。もっとも、斬られた服はそのままだから、次第にその服はぼろぼろとなり、上半身はほとんど裸に近くなっている。おっさんの裸なんて見たくもないけどね。ズボンは攻撃しないようにしておこう。


「むっ、ちょこまかとッ……!」


 最後に斬ったクリスに対して怒気を発し、ドッペルゲンガーは彼女に向かって踏み込もうとしていた。


 そこで私は何気ない素振りでクリスの逆側に回り込み、ドッペルゲンガーの背後に檻がない場所に移動する。


「"マナよ、天空の怒り、稲妻となりて我が前の者どもを討ち倒せ"――」


 私の詠唱を聞いたドッペルゲンガーは、ちらりと私の方を見ると、悔しそうな表情でクリスの追撃を諦め、再び私から見てドッペルゲンガーの背後に檻がある場所に戻ってしまった。これでは貫通してしまう"雷撃"を撃つことができない。私は仕方なく魔法を解除する。


 こんな感じでちびちびと削っている次第だ。鎖で繋がれた猛獣相手にちょっかいを掛けているような状態だけど、相手が巨大な攻撃力を持っている事には変わりはない。ワンチャンでひっくり返らないよう、気をつける必要があった。


 ただ、理由はわからないけど、ドッペルゲンガーは私の攻撃を異常に警戒していて、腰が無茶苦茶引けている。もし、私からの攻撃を無視して思いっきり踏み込まれていたら、シャイラさんでもクリスでも食らって大ダメージを受けてしまう可能性は高かっただろう。


 周辺で戦闘中の他の冒険者達を見ると、インプがほぼほぼ片付いた事もあって、どのパーティも比較的優位に戦闘を進めているように見えた。流れ弾が一番怖いグレーターデーモンは、"炎の息吹"や"雷撃"、"炎の槍"といった、喰らうとヤバげな魔法を撃っているようだけど、ドッペルゲンガーを巻き込むのを嫌っているのか、幸いにもこちら側に向けて撃ったりはしてきていなかった。


「こうなれば――」


 おっと、今度は左手を前にして攻撃魔法を使う体勢に入ったようだ。


 彼らの魔法は私達のものとはシステムが違うようで、ちょっと集中するだけで無詠唱で効果が発動するような代物だ。でも、流石にここまで接近戦だと、無詠唱でもその隙は致命的!


「はッ!」「貰いっと!」


 シャイラさんの斬撃で左手首から切り落とされ、背後をすり抜けたクリスの攻撃は、ドッペルゲンガーの首筋を薙いでいた。


「むうっ!?」


 首筋から吹き出した血をそのままに、斬り落とされた左手首を剣を持ったままの右手で押さえる。口の中でなにやら唱えているようだけど、流石に手首から先がないと回復には時間がかかっっているようだ。もちろん、その隙を逃すような二人じゃない。


「隙あり!」「もいっちょ!」


 再び、シャイラさんとクリスがドッペルゲンガーに斬りかかろうとした所で私の耳に入ったのは、ドッペルゲンガーが声高らかに唱えた一つの詠唱だった。


『Պայթեցում!』



              ◇   ◇   ◇



 その声を聞いた次の瞬間、ドッペルゲンガーを中心に強烈な衝撃波が広がっていた。クリスとシャイラさんがなすすべなく吹き飛ばされているのを見た瞬間、私の胸にも蹴飛ばされるような強い衝撃を受けて、ふわりと脚が浮いてしまう。


 景色が急速に遠ざかっていく中、私は次に訪れるであろう地面に放り出される衝撃に備えて身を縮め、両手で頭を護ろうとしていた。


 ただ、その衝撃は思ったより早く、そして穏やかなものだった。それでも堅い物に叩きつけられた背中からの衝撃により、一瞬息が止まる。


 そして、勢いのまま地面の上を転がっていったものの、私はそれ以上の打撃を受けることはなかった。


 ようやく止まって地面の上に仰向きに倒れた所で、背後、つまり私の下から声が掛けられた。


「痛てててて……アニーさん、大丈夫ですか?」


「マリア!? ごめん、かばってくれたの」


 どうも吹き飛ばされた私はマリアに衝突し、彼女に抱き留められながら二人で転がっていたようだった。


「ああ、わたしは大丈夫です、頑丈ですから! それよりも、怪我してないかどうか確認して下さい!」


 私は彼女の上から降り、杖を頼りにゆっくり立ち上がりながら自分のダメージを確認する。


 両手両足、オッケー、折れてない。でも、ちょっと挫いたかも。立ち上がると足首に鈍い痛みが走ってる。胸は……肋骨の一本か二本はイってるかな。息を吸い込んだら少し軋む感じがする。深呼吸でもしたら響きそうだ。


「骨は折れてないかな。マリアは大丈夫?」


「はい、大丈夫です! 正直、遠かったし、アニーさんの影にもなったので……」


 マリアは大丈夫そうだ。私はまあ、正直あんまり大丈夫じゃないんだけど、それよりも、至近距離であれを喰らったクリスとシャイラさんは?


 周囲を見渡した私は、私の倍ほどの距離を飛ばされた所で倒れ伏している二人を見つける事ができた。意識は無いようだけど、少なくとも、大きな外傷は受けていないように見える。


 衝撃波だから、外傷はなくてもマズイ場合もあるし、一刻も早く援護に回りたい所だけど……今はまず、ドッペルゲンガーの対処を急がないと!



              ◇   ◇   ◇



 ドッペルゲンガーは、先程の技を使った場所から移動する事無く、一人立ち尽くしていた。


 斬り落とされた左手首に右手を重ね、なにやら呟くとみるみるうちに左手首が生えてくる。生えた左手を結んだり開いたりして動きを確認した後、ふと視線を上げて私の方を見つめてきた。


「ただの"爆轟"一発でこの有様とは……少々、買いかぶっていたようですね。人間とはなんと脆弱な事か」


「あんたみたいなデタラメなのと比べたら、脆弱なことは否定しないけどね」


 私はとりあえず軽口を飛ばして様子を見る。こちらから何かを仕掛けるのは難しい現状じゃ、相手が何を考え、何をしようとしているのか読み取っておきたい。


 ただ、ドッペルゲンガーは、私の言葉を聞いているのか聞いていないのか、ぼんやりと私の背後で繰り広げられている戦いを眺めていた。


 グレーターデーモン3体中1体は既に打ち倒され、レッサーデーモンも半減しているようだ。既にドッペルゲンガー以外の戦いの分水嶺は過ぎていた。


「ふむ、我が手勢もかなり減らされてしまったようだ。囲まれでもしたら流石に厄介なのでね。そろそろフィナーレと参りましょうか」


 右手の魔剣を腰に差したドッペルゲンガーは、そのままふわりと浮き上がった。


 三階くらいの高さで止まり、両手を前に出して精神の集中に入る。


「最初からこうしていれば良かったのだな。たかが人間風情に、これを止める(すべ)なぞ無いのだから」


 直後、彼の目前に巨大な赤黒く光る紋様環が彼の目の前に現れ、そこに白く輝く炎が瞬きながら出現し、成長を開始しようとしていた。


 その姿を見た私は、冷や汗がたらりと落ちるのを感じていた。


 ま、まずい。明らかに、どう見ても、最後っ屁のど派手な攻撃魔法だ。発動を一刻も早く止めないと、広場ごと一掃されかねない!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ