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13.王様から 次の目標を 依頼され

 ちょっと情報過多な回となってしまったかも知れません。

 この辺りで、このプレビューは一旦終わりとなります。

 王様が私に対して治外法権を与えても問題ないとする理由。それは、私を()()()人間に育てられたからだと言う。


 私を育てた人間と言えば、それはフライブルクでは高名な錬金術師である、リチャード・ロンさんだ。


 私が4歳の頃、住んでいた村が邪教集団に襲撃されてしまい、生き残ったのは私と妹のアレックスの二人だけになってしまった。そして私たちは、事件の直後に村を訪れたリチャードさんに拾われて、16歳になる今まで彼の館でお世話になっていたのだ。


 それにしても、なんでリチャードさんは王様にそこまで信頼されているんだろう?


「え……リチャードさんをご存じなんですか?」


 不意に出た名前に、思わず問い返した私に対して、王様は笑みを浮かべながらあっさりと答えた。


「ご存じも何も、オレが冒険者だった時の元パーティメンバーだ。魔導具マニアの人嫌いは変わってないだろ?」


「へ!?」


 私は驚きの余り腰を浮かす。


「オレがいわゆる勇者的な事をやっていたのは知っているだろう? その頃からの付き合いだ」


 今から25年前のこと。この国は南にある"混沌の大陸"からの侵攻を受けた。


 混沌の大陸は土地が痩せていて亜人が多く、その名の通り、弱肉強食で小さな部族単位が争う混沌に満ちた土地だ。しかしその時は大皇を名乗る指導者が総ての部族を統一し、こちら側に侵攻してきたのだ。


 その頃の王様は三男坊で王位を継ぐことは考えられていなくて、地位を隠して冒険者として生活していた。でも結局、王様を含んだパーティの活躍により、彼らの侵攻を頓挫させたんだそうだ。


 そして、その時のパーティメンバーは、剣士、賢者、召喚術士兼魔術師、魔獣使いに神官戦士の5人。五英雄と呼ばれていたが、剣士の王様以外は直後、表舞台から姿を消してしまい、名前も伝わっていない。


「え、でも、25年前ですよね?」


「そうだな」


「リチャードさんの見た目、いいとこ30前ですよ!? そりゃまあ、私が物心ついた頃から変わってないんですけど」


「ああ、あいつ、あの頃から歳食ってないんだよな」


 王様は頭を二、三回掻いた後、腕を組んでそのまま話を続ける。


「まあ、なんとなく理由はわかるが、不確かなことは言いたくないからな、詳しくは本人に聞いてくれ」


 そして話を変えながら、更なる一撃を加えてきた。


「あとは、お前さんが――怒るなよ?――正義の味方(ハニーマスタード)をやってたからかな」


 それを聞いて私は椅子から転げ落ちかけた。


 そう、私は最近まで、正体不明の謎の魔法少女「ハニーマスタード」に変装し、街の正義を守るために活動していたのだ。


 でも、今はやってない。邪教集団との一件で正体バレちゃったし、変装していたのは、普段の姿では強力な魔法を隠してたのもあったけど、もう隠す必要はなくなったから。


 第一、魔法少女って言うのは、子供の頃のアイデアだったし、辞めた今から思うと、正直……恥ずかしい! あの頃の話を持ち出されると、部屋の中をゴロゴロ転げ回りたくなるくらいに! ほら、14歳くらいの頃によくなる流行病(中二病)みたいな奴!?


 それにしても、王様まで魔法少女(ハニーマスタード)のことを知ってるのか……ま、まあ、フライブルクの人間なら誰でも知っているんだから、不思議じゃないんだけど。


「わ、分かりました。もうそれ以上言わなくて結構です」


 かろうじて座り直して頭を抱える。



              ◇   ◇   ◇



「すまん、ちょっと話が()れたな」


 のたうち回る私をニヤニヤ見ていた王様は、ひとつ咳払いをして真面目な表情に戻っている。


「Cランクに上げさせたのも理由はある。まず、単純にお前さん達の実力とランクとのギャップを少しでも埋めたかった事だ。延々とEランクだのFランクだのの仕事をさせるのがどうにも勿体なくてな。口を出させて貰った」


「冒険者として新米なのは間違いないんですから、もう少し下積みを重ねたかったんですけど……」


 口をとがらせて控えめに抗議する私に、王様はあっさりと否定する。


「そりゃ贅沢な話だな」


「贅沢、ですか?」


「ああ。力がある人間がわざわざ新米向けの仕事をする必要は無い。本当の新米の仕事を奪うことにも繋がるからな。ま、もっとも、新米が受けたら大惨事になるような仕事ばかりだったから、結果オーライではあったんだが」


 まあ確かに、本当の新米冒険者が請けたとしたら、結果として依頼人ごとまとめて全滅しかねない仕事ばっかりだったけど。


「まさか、王様が手を回したわけじゃないですよね?」


「オレが!? いやいや、神様じゃあるまいし、不死の王やトロル、盗賊団を都合良くぶつける事なぞできる訳がないだろう」


「まあ、そりゃそうですよね」


 私の同意に頷きつつ、王様は二つ目の理由を口にした。


「そして二つ目の理由は、こうやって依頼を出したかったから、だ」


「指揮下にあるのはダメで、依頼なら問題無いんですか?」


「冒険者なら、依頼を断る自由があるからな。他国からの依頼を請ける自由もあるぞ」


 うーん、よく分からないけど、そんな物なんだろうか。


 沈黙している私を、納得したと受け取ったのか、王様は突然、とある街の名前を持ちだして来た。


「――所でお前さん、クエンカと言う街を知っているか?」


 私は聞いた事のある名前に、少しの間考えを巡らせる。


「ええと、確か、迷宮都市、でしたっけ?」


 この王都からはちょっと――片道3週間ほどの旅路――離れた街だ。街の近くにダンジョンがある事で有名かつ、それで経済が成り立っている。このダンジョンと言うのは、単なる地下牢という意味ではなく、無限にモンスターがわき出してくる迷宮を意味している。つまり、それを目当てにやってくる冒険者を受け入れたり、産出した物品の取引で賑わっている街だ。


不死の王(アンデッドロード)ヴィルヘルム・フォン・ホーエンハイム。クエンカは彼の縁者の旧領の一つである事が分かったのだ。そして、このダンジョンの主は、吸血鬼(ヴァンパイア)、それも自ら変化した真祖という話だ」


 不死の王に真祖の吸血鬼、いずれも人間から変化できる高位のアンデッドだ。つまり、その吸血鬼も、不死の王の縁者である可能性がある、と言う事?


「なるほど、確かに怪しいですね。そいつの名前は分かっていないんですか?」


「残念ながら。ダンジョンとしては、中層までならそこそこ稼げるらしいのだが、最深部に向けて急激に難度が上がる割りには実入りが少ないらしくてな。わざわざ最深部まで行った人間は余りいないようだ」


 まあ、手前でそこそこ稼げるのなら、無理する必要はないよね。高ランクなら高ランクなりにもっと実入りの良い稼ぎ場が他にあるだろうし。


「で、中層部以降に潜るには、王都の冒険者ならCランク以上に限定されている。クエンカ領主が決めた規定だからな。オレが横車を押すのはちょっと難しい。だから、Cランクに上げた方が早かった、と言う訳だ」


 その街が商業として成り立っているのであれば、確かにランク制限は自然な規定ではあるだろう。無闇に突入して死なれたら、ダンジョンで稼いで街でお金を使ってくれる人が減るって事だからね。


「勿論、最深部はCランクがたどり着ける難度ではないが、お前さん達なら問題無かろう」


 王様はそこまで一気に喋ると、さて、と一息ついた。


「オレからの依頼は、最深部まで踏破して、ダンジョンの主に面会する事だ」


「討伐じゃ無いんですか?」


「討伐して、もしダンジョンが機能停止してしまったら、クエンカが干上がってしまうからな。――と言うか、真祖なら、不死の王と同じくらい強いんだぞ?」


「あはは、確かに倒すのはキツいですね。なるべく穏便に進めますよ。――で、依頼の報酬はどうなるんです?」


 冒険者として、依頼があれば報酬を確認するのは大事な仕事だ。私は指でお金を表す仕草を作って王様に見せた。


「報酬か……スマンが、指揮下に置けない以上、国庫からは出せんのだ。つまり、オレのポケットマネーから、と言う事になるのだが……」


 一転して渋い顔になる王様に、私はしれっとした表情で追撃する。


「出元は何でも結構です。お代さえ頂ければ」


「分かった。成功報酬で金貨50枚。期限は定めない代わりに、手付け金はナシだ。この情報と、Cランク昇格の推薦が手付けだな」


「頼んでもないCランク昇格を恩着せがましく言われても困りますぅ。それにそれ、Cランクでも10日間くらいしか拘束できない額ですよね? 真祖の吸血鬼のモンスターレートは幾つでしたっけ?」


 私の指摘に、王様は腕を組んでしばらくの間、(うな)りながら考え込んでいた。


「ぐ……む……分かった。金貨80枚に、手付けがワレンティアまでの往復乗船券だ!」


 クエンカそのものは内陸にあるけど、途中のワレンティアまで船で行ったら、徒歩3週間が、船旅2日徒歩7日まで短縮できるからね。まあ、この辺が妥当な線か。


「毎度!」


 もみ手をしながら笑顔で承諾する私を、王様はあきれた顔をして眺めている。


「お前さん、三件目の依頼でえらくたくましくなったな。クリス君の影響か?」


「せっかくCランクに上げて頂きましたし、私が勝手に安請け合いする訳にもいきませんからね」


 お金の交渉はクリスの方が上手なんだけど、今は私一人だけだからね。頑張らないと。


「うーむ、依頼を受けて貰ってからCランクに上げるべきだったな……」


 王様は、渋い顔をしながらぶつぶつ呟いている。と、そのとき、扉がノックされた音が響き渡った。


「なんだ、もう時間か? 入れ!」


 王様の声に従って入ってきたのは、執事のルーカスさんだった。静かに室内に歩み寄ると、私に黙礼をした後、王様に声を掛ける。


「陛下、そろそろ次の予定が」


「えいくそ、仕方ないな」


 やはり王様は多忙なようだ。王様らしからぬ汚い言葉で――逆に言えば、冒険者らしい言葉で――そう言い捨てながら立ち上がり、ルーカスさんと共に戸口に向かっていく。


「すまんな、バタバタして。そういう訳だからな、よろしく頼むぞ。手付けはルーカスから受け取ってくれ」


「はい、分かりました。準備ができたら出立しますね」


 戸口から去りかけた王様だが、扉を閉める寸前に、もう一度戻って顔を覗かせてきた。


「お前さんは自分が思うまま、自由に振る舞ってくれればそれでいい。ともあれ、冒険談を楽しみにしているぞ」


 そんな訳で、私はクエンカ行きの依頼を受けたのだった。さて、宿に帰ったら皆に説明して、遠出の準備を始めなきゃ!

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