12.Cランク 認定されども 罠かしら?
詰め込みすぎて7千文字を越えたので二分割しました。
当初構想では、王様との謁見の後に交わされる予定であった会話を含んでいます。編成をコロコロ変えたので、読者の方に与えた情報に過不足があったりしないか、ちょっと心配しています。
先の冒険から数日後。まだ骨休みにごろごろしていた私たちは、おやつでも食べようかと、冒険者の宿「歌う鷲獅子亭」の酒場に顔を出していた。
私たちの顔を見た受付嬢兼看板娘のニーナさん、手をぶんぶんと振って私たちをカウンターの方に呼び寄せたかと思うと、いきなり勢いよく私の手を両手で握りしめた。
「皆さん全員のCランク、認定されましたよ!」
突然の報告に、目を丸くする私たち。
「は、はあ、ありがとうございます。ちょっと、展開が早すぎるような気もしますけど」
「ほんと、良かったですね! やっぱり、Cランクからは随分違うんですよ。認定には他の酒場の承認も必要など、それなりに高い関門があるわけですが、それをくぐり抜けているだけに利益の方も段違いで――」
うーん、数日前まで新米パーティ扱いだったのに、Cランクと言えば中堅最高位。なんだか、あっと言う間に出世してしまった気がする。私はCランクの事について語ってくれているニーナさんを見ながら、彼女とお忍び中の王様であるルディさんとの間で、数日前に交わされた会話を思い出していた。
◇ ◇ ◇
「――なるほど、アニー君が超Sランク、マリア君はEランク、シャイラ君がDランク、クリス君が……盗賊10人なら、Dランクかな。それぞれソロでそれらの敵を倒したという事か」
「そうなんですよ、ルディさん。それで、この娘達のランク評価をどうしようか考えあぐねているんですよね」
べったりとカウンターの上に倒れ伏して、頭を抱えるニーナさん。それに対してルディさんは、しばし考えた後に肩をすくめながら回答した。
「ふむ。パーティとしての評価は、ソロの場合の1ランク上で考えるべきだが……いっそのこと、全員まとめてCランクでいいんじゃないかな?」
「え、まだ依頼を二つこなしただけの新人パーティが、いきなりCランクなんですか?」
新人パーティに対するいきなりの中堅最高位の推薦に、ニーナさんは怪訝そうな顔をしている。ちなみに、ここ王都の「冒険者の酒場」組合の認定制度の場合、冒険者にはGからSまでのランクがある。Dランクまでは、組合員である各酒場が自由に認定する事ができるんだけど、Cランク以上は、組合の定例会で承認されて初めて認定されるんだとか。だから、他の組合員を納得させられる材料が無いとダメって事なんだろうね。
「その、新人パーティという所だがな」
ルディさんは、ごほんと一つ咳払いをして、話を続けた。
「お嬢ちゃん、フライブルクの邪教騒動は知らないか?」
「昨年末から今年頭の話ですよね? 確か、邪教集団の暗躍で、フライブルクにデーモンが大量出没して、魔界に沈みかけたんでしたっけ」
「あれを解決したのは、こいつらだぞ?」
「え゛?」
目を見開いて固まるニーナさん。ルディさんはそれに構わず言葉を続けている。
「大量発生したデーモンどもを率先して倒しまくり、最後の最後で降臨した、六大上級魔神の一人、バフォメットすら仕留めたと聞くが」
「いやいやいやいや、ルディさん」
後ろで話を聞いていたツッコミ君が席を立とうとする前に、私がツッコミの声を上げてしまう。
「そりゃまあ、私がバフォメットに止めを刺した事は否定しませんけどね。私たちだけの力じゃ、勝てませんでしたよ」
バフォメットが憑依した先であるシャイロックさんが、"自殺"に協力してくれたから滅ぼせたけど、そうじゃなかったら、とてもじゃないけど倒せてないし。
後ろでツッコミ君が、「止めは刺してるのかよ……」とか死にそうな声で呟いているけど、ま、気にしない。
「並の奴なら、バフォメットがどんな状態であっても毛ほどもダメージを与えられんぞ? だから、まずはCランク、と言う訳だな」
「わ、分かりました。ともあれ、店長に相談してみます」
「ああ。丁度今週、定例会があるだろう。オレの推薦だと言ってくれて構わない」
とまあ、私たちは割と置いてきぼりで、ルディさんとニーナさんで話が進んでしまっていたのだった。
◇ ◇ ◇
「アニーさん、アニーさん?」
おっと、回想中に話が進んでいたようだ。ニーナさんが首を傾げながら、私の顔を覗き込んでいた。
「あ、ごめんなさい、ちょっとぼーっとしてました」
「ちょっと勢いよく喋りすぎましたね。――えっと、Cランク以上は様々な権利もあるんですが、その代わり、義務も発生しちゃうんです」
「義務、ですか?」
「ええ、王城から指名依頼が来る事があるんですよ」
ニーナさんは、少し言い淀んだが、少し肩をすくめながら言葉を続けた。
「その、実は早速、アニーさん達のパーティに、王城から指名依頼が来ちゃってまして」
王様であるルディさんがゴリ押しした結果、指名依頼が出せるようになった。――と言うことはまさかルディさん、私たちに依頼を出す事が目的だった?
「これは……ハメられたかな」
ぼそりと呟いたが、幸い、ニーナさんの耳には届かなかったようだ。
「ちなみに、これ、断ったりできるんですか?」
「んー、断れない事はないですが、理由次第では、斡旋停止や、降格等のペナルティがついちゃいますね」
苦笑しながら話すニーナさんに、私は、ですよねー、と返すしかない。
「分かりました。えーと、どこに行けばいいんですか?」
「どんな時間でも構わないので、目立たないようにアニーさん一人で王城のルーカスさんを訪ねて欲しい、内容はそこで説明する、だそうです」
ルーカスさん、確か、王様に謁見するときに、私たちの世話をしてくれた執事さん、だったかな? ともあれ、話を聞くしかなさそうだ。心を決めた私は、カウンターに座っている他の面々に顔を向けた。
「何だか分かんないけど、とりあえず行ってみるよ。わたしのせいで皆を巻き込んじゃってたら、ごめん」
「なに、お陰様で波瀾万丈の人生を送れているからね。一蓮托生だよ」
「せや。こんな面白くなりそうな話には、一枚噛ませて貰わにゃ、ね」
「正義のためなら問題なし、です!」
肯定的に受け取ってくれるのは、ホント、助かるかなぁ。
まあ、ここ数回の冒険行で、私だけじゃ無くて、他の皆も十分新米離れしている事が分かったし、これは私だけの責任じゃない、のかも知れないけど。
◇ ◇ ◇
「それでは、ここで少々お待ち下さい」
通用門の衛兵さんに用件を伝えると、私は応接室に案内された。しばらくの間、ぼーっと待つしかなかったのだけど、思ったより早く、応接室の扉がノックされたのだった。
「あ、はい、どうぞ!」
「邪魔するぞ」
てっきりルーカスさんかと思ったら、違った人が入ってきていた。謁見の時の礼装でも、変装した姿でもない、高級そうな普段着を着ていたけど、入ってきたのはまごう事なき、国王のロドリック陛下その人だった。
「陛下!?」
私は慌てて起立して礼をしようとするが、王様は手で抑えるような仕草をする。
「ああ、この格好は気にするな。ここには他に誰もおらんからな、冒険者のルディがここにいると思って構わん」
そして王様は私の対面の席にどっかりと腰を下ろした。
いや、そうは言われても、やっぱり今の王様の格好を前にしたら、冒険者姿の時と同じ対応は難しい訳で。私はおずおずとなるべく行儀良く腰を下ろす。
「あ、あの、ルーカスさんは?」
「流石に、オレの名で呼び出すと目立ちすぎるからな。とりあえず名前を借りたまでだ。ただ、公務の間に抜けてきただけだから、余り時間が無い。すまんが手短に済まさせて貰うぞ」
「は、はぁ」
どういう反応を示したらいいのか分からない私を尻目に、ルディさんは腕を組んで話し始めた。
「まず、お前さん達の処遇について、だが。すまんな、王都に呼び出して以来、きちんと説明をする機会がなかった」
確かに、わざわざフライブルクから呼び出された挙げ句に、謁見一つでそのまま放り出されて、冒険者にでもなれば?、みたいな感じだったからねぇ。
「仕官させずに、冒険者として送り出した事だが……外交が絡んでいてな。まずは野に放たざるを得なかったのだ」
王様が語ったところに寄ると、つまり、私という強大な破壊力を持つ人物が突然、この国の指揮下に戦力として加わると、周囲の国はそれに脅威を感じて、連合して敵に回る可能性すら考えられたそうだ。なので、まずは指揮下に無く、行動を抑えることができない、と言う体裁を整えなければならなかったんだとか。
「だからお前さんは、山を割ろうが谷を埋めようが、罪に問われたり賠償請求される事はないぞ」
「それにしても、いささか乱暴に過ぎませんか? 仮に私が、気分のままに街を爆撃しまくっても、それを罪に問うことは無いって事ですよね?」
あきれた表情の私の質問を聞いた王様は、にやりと笑って返事した。
「でも、やらないだろ?」
「それはまあ……やりませんけど」
「お前さんを信用しているからさ」
「信用って……根拠、あるんですか?」
王様は少し腕を組んで考えてから、あきらめたように口を開いた。
「うーん……仕方ないな。言ってしまおう。お前さんがあいつに育てられたから、だよ」
王様から出た意外な人物に、私は驚きを隠せなかった。
あいつって……リチャードさんの事? なんで王様がリチャードさんの事を知っているんだろう?




