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11.盗賊の 血しぶきと共に クリス舞い

予定より一日遅れましたが、その代わりちょっと長いです。

「ほな、いよいようちの番やな!」


 お忍び中の王様のルディさんに対して冒険談を語っていた私たち。トリとなったクリスが、スツールの上で胸を張っていた。


 彼女の名前はクリスティン、通称クリス。外見は北方系で、ストレートのプラチナブロンドに透き通るような肌、青い瞳を持ち、()()()()()()()()妖精のように可愛い女の子だ。喋るとバリバリの西方系訛りで、性格もそっち寄りなんだけどね。


 盗賊ギルドマスターのお嬢で、隠密行動や解錠などの技能を習得している。冒険者としては斥候とか軽戦士とかの扱いになるのかな。装備は短剣と、割とタイトでミニの真っ黒なソフトレザー、そしてフード付きのマント。背も高いし、出る所も割と出ているし、本来ならセクシーなんだろうけど、内面的にその手の要素が皆無だから、そういう雰囲気は残念なくらいになかったりする。


 私たちの冒険談も三話目となってきたからか、目を引く容姿のクリスが話し始めたからか、ルディさん以外の聴衆も増えてきたようだ。拍手が出たり指笛を吹かれたりして、更にクリスのテンションが上がってきたように感じる。


 そしていよいよ、クリスの冒険談が始まったのだった。


「とある商人を護衛してイレルダまで行っていたうちら、その帰路の話なんやけどな――」



              ◇   ◇   ◇



 イレルダからの帰路は、別の村々に立ち寄りたいとの事で往路とは異なる道を通ることになった。道中、特に問題は起きていなかったんだけど、3日目に低い山を越えているところで、やっぱりそれは起きてしまった。


 ぐねぐね曲がる峠道を荷馬車に同行して進んでいる途中、最初にそれに気づいたのはクリスだった。


「――これは、()よるな」


 次いで、シャイラさんも目を細めてぼそりと呟く。


「ああ、なにかちりちりしたものを感じる」


 ちなみに私にはさっぱり分からない。マリアも同じようだ。


「ま、たぶん、盗賊やわ。もし、せやったら、こないだアニさんから借りたアレ、試してみてもええかな?」


 クリスの提案に、私は少し考えてから返事する。


「う~ん。まあ、弱そうだったらね」


「了ー解。楽しみやわぁ。はよ出てこんかな」


 なんて言っているうちに、道幅が若干広くなった場所を通りかかったときに、脇から飛び出してきた人影があった。


「ひゃっはぁっ! 待て待てぇ!」


「おらぁ、ここで止まりやがれぇ!」


 私たちの進路を塞ぐように出てきたのは予想通り、薄汚れた不揃いの革鎧を着た盗賊共だった。全員徒歩で、荷馬車の前方に10人ほど、半包囲するように飛び出してきている。


「ひゃあっ!?」


 荷馬車を操っていた商人さんは、慌てて荷馬車を停車させる。


 少しだけ立派な装備――でもやっぱり薄汚れた小札鎧(ラメラ―)――を身につけた男が一歩前に踏み出してきた。ま、親分なんだろう。


「おうおう、俺たちの縄張りをタダで通ろうってんじゃないだろうな! 命が惜しければ、それなりの物を置いていって貰おうか!」


 そして全員の顔をじろりと見渡してから、下卑た笑い顔を浮かべる。


「護衛が居るようだが――女子供じゃねぇか。そいつらでも構わんぜ?」


「親ぶぅん、二人は上物っすけど、あとの二人はちーと早過ぎゃしやせんかね?」


「違えねぇ。ま、世の中にゃ、こんなちんちくりんが好きな物好きも居るって事よ」


 なんて言いながら笑い出す盗賊ども。ちなみに、私たちは同い年の四人組パーティ。上物二人と発展途上の二人がどういう配分になるかは、まあ、そりゃ、分かる、分かるけどね?


「――さ、とっとと降伏すれば痛い目は遭わないが、どうするね?」


 親分の降伏勧告に、私は右手に持った杖でかつんと地面を叩き、満面の笑みを浮かべて言い放った。


「地・獄・に・落・ち・ろ♪」


「ま、そうだろうな。――仕方ねぇ。少々痛い目に遭って貰おうか!」


 親分の命令に応じて、手下共は抜刀した小剣や長剣を片手に、じりじりとこちらに迫ってきはじめた。


 私は周囲の様子を素早く確認し、頭の中で素早く作戦をまとめる。――正直、この馬鹿どもを魔法で吹っ飛ばしたい気分ではあったんだけど、クリスとの約束もあるしね。今回は彼女に頑張って貰おう。


「シャイラさんとマリアは防御重視で」


「分かった」


「了解です!」


 そして、懐から取り出した鈍く光るバングルを、そっと左手首に通しながら、クリスに指示を出した。


「クリスは遊撃。好きにやっちゃって。でも、手下一人は生かして残すこと。マナ全力使用解禁!」


「はいな!」


 最後に、背後の御者台に座っている商人さんに声を掛ける。


「そこに座っていて下さい。大丈夫、すぐ済みますよ」


「あ、ああ……」


 流石に盗賊共から目を切れないので、様子を見ることはできないけど、まあ、(うなづ)いているっぽいかな?


 そして私は、じりじりと迫ってくる盗賊達を見据えて、鋭い声で戦闘開始を告げたのだった。


「――戦闘開始(アクション)!」



              ◇   ◇   ◇



 前衛に立ったマリア、シャイラさん、クリスの3人には、それぞれ3人ずつの盗賊が向かってきていた。親分だけは少し下がったところで腕組みをして、余裕を持った表情で眺めている。


 それぞれ1対3ではあるんだけど、まあ、やっぱり、盗賊共の腕前は大した事がなさそうだ。左のマリアは両手斧を牽制がてら軽く振り回したりはしているけど、大振りにも関わらず盗賊どもに飛び込む隙を与えていない。中央のシャイラさんは、打刀を片手持ちとし、左手は盾を構えて、正統派の剣術で盗賊どもの攻撃を上手にいなしていた。


 さて右端のクリスの方は言うと、右手に短剣を構えて僅かに腰を屈めて立つ彼女に向かい、3人ほどの盗賊がニヤニヤ下卑た笑みを浮かべ、右手に持った剣をちらちら見せびらかすように振りながら近づいてきていた。


 クリスは、軸足をぐっと少し踏み込んだ。そして「フッ!」と言う小さな気合いの声と同時に、彼女の姿がふっとかき消すように消えてしまう。


「なにぃ!?」「消えた!?」「どこに――ぐっ」


 次の瞬間、クリスは一人の盗賊の背後に現れていた。彼女の右手の短剣は、すれ違いざまに盗賊の首筋を切り裂いていたようで、その盗賊は大量の血をまき散らしながら、バッタリと倒れ込んでいる。


 これは魔法なんかじゃない。彼女自身が身につけた、自らのマナによって瞬間的に身体能力を強化する、"ブリンク"と呼ばれる「必殺技」だ。彼女の場合は、フェイントと想定外の速度のジャンプの合わせ技で、相手の後ろに回り込む事が多い。


「こ、このっ!」「させ――がぁっ!」


 残り二人が慌ててクリスの方を向き直るも、再び彼女の"ブリンク"によって後ろに回り込まれ、また一人、血を吹き出しながら倒れていく。


「畜生! ちく――あぁあ」


 最後の一人はクリスの"ブリンク"を警戒して、左腕で首筋をかばいながら、右手の短剣を振り回していたが、がら空きの後頭部にうなじから短剣を突き立てられ、一瞬ビクンとなったものの、そのまま糸が切れたように崩れ落ちていった。


「これで、みっつ!」


 あとは一方的だった。


 シャイラさん、マリアと戦闘中に側背から襲いかかっている事もあり、抵抗する間もなく切り倒されていく盗賊ども。後方にいた親分が介入する間もなく、一人を残してあっさりと全滅していた。


「マリやん、そいつはよろ!」


「はぁい!」


 背中側に回ってガンとマリアの方に蹴飛ばされた盗賊は、素手になったマリアに組み伏され、哀れあっさりと絞め落とされている。



              ◇   ◇   ◇



 親分は、首を二三度振りながら、ゆっくりと腰の幅広剣を抜き放った。


「この僅かな時間で、あっさりと全滅……か。訳が分からねえ」


「降伏勧告なんかしないからね。あんたはここで死になさい」


 情報収集用の捕虜は確保しているし、連れて帰っても死罪は間違いないからね。


「じゃ、クリス、最後よろしく」


「ほいほい」


 クリスは右手に持った短剣を一度振るって余計な血を落とすと、再び親分に向かって構え、攻撃の体勢を取った。


 そしてじりじりと近づいていき、ボスの幅広剣の間合いに入る直前に、「しっ」と言う気合いの声と共に姿を消す。


「――流石に見せすぎなんだよおっ!」


 クリスが跳ぶ方向を読んだのか、背後に向かって幅広剣を振り回す親分。流石に親分をやっているだけに、手下共よりは剣筋が鋭そうだ。


 ぎいんっ!


 出現したクリスの短剣と、親分の幅広剣が衝突し、火花を出しながらイヤな音を立てている。


「うわっちゃっちゃっ!」


 クリスは弾かれた勢いのまま、軽くバックジャンプして距離を取る。


「ええ仕事するやん。これで、どうや?」


 もう一度姿を消したクリス。親分は再び幅広剣を振り回すが――


「なっ!?」


 クリスが姿を現したのは、親分の直上、つまり空中だった。彼女自身は逆立ちした状態で出現し、そのままボスの頭を両手で突いて、倒立状態のまま一瞬静止する。

 そして次の瞬間、クリスは長い脚を大きく曲げて、音も無くボスの背後に降り立ったのだった。


「して、やられたか。ふん、見事なもんだ」


 諦めたのか、抵抗せずに背後のクリスに向かってぽつりと呟く親分。


「おおきに。ほな――」


 背中側から親分に密着したクリスは、左手を親分の喉に回すと、まさぐるようにゆっくりと撫で回している。


「さいなら」


 そう告げた瞬間、右手の短剣で親分の喉笛は切り裂かれたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 ま、そんな感じで、クリスによる八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍だったんだけど……


「こう、ばーっと跳んでな? 後ろに回ってずばばーって感じに、うちが全員倒して回ったわけなんよね。最後の親分だけは、まあ、ちーっとばかり手強かったけど、それでも、びゅん、ひょい、ざくーって感じで」


 クリスの説明だとこんな風になってしまっていた。聴衆の皆は、状況が理解できずに頭を抱えてしまっている。


「流石のツッコミ君も、これにはツッコミようがないようね!」


「いやいやいやいや、ツッコもうにも、何が何だかサッパリわからんぞ。ばーっと跳んで、後ろに回る? そんなのあり得るのか?」


 いつの間にやらこちらを向いていたエリック(ツッコミ)君に水を向けてみたが、流石に頭を抱えたままだった。


 と、しばし考え込んでいたルディさんが、ようやく顔を上げた。


「クリスティン君が言っているのは、マナを使った"(スキル)"の事かな?」


 ルディさんの発言に、観客の反応は分かれていた。若手は首をひねったままなのに対し、中堅以上の、特に戦士系の人達は驚きの顔を見せている。


「流派によって奥義とか秘技とか色々言われているが、剣技を極めたその先を目指した時に、自らのマナを使用して肉体の限界を突破する技が存在する。クリスティン君はその域に至っていると言うことなのか」


「いやまあ、剣技って言う意味でしたら、うちはまだまだナンですけどね。でもまぁ、"技"に関しては師匠(ししょー)が身近にいたもんで」


 流石に、苦笑して頭を掻くクリス。あ、ちなみに、マナを使った"技"の師匠役は私だったりする。護身用に習っていた武術の方で、弱い体力を補うのと、無駄に多いマナを有効利用するために先行して教えて貰ったのを、更に皆に伝授したって感じかな。


「それにしても……結構消費量は大きいから、普通は3~4回も使ったらマナ切れに陥るものだが、大した物だな」


「あははははははは……」


 再び、笑って誤魔化すクリス。実はこれも裏技を使ってしまっている。確かにルディさんが言う通り、どちらかと言えばマナ容量は少ない方に入るクリスの場合、この技が使えるのは2回か、頑張っても3回止まりだ。今回はその上限を突破してみるテストを行ったのだ。使用したのは、マナトランスファーとマナレシーバーと言う二つの魔導具。マナトランスファーを装備した私から、マナレシーバーを装備したクリスにマナを送り込み、彼女の上限を超えた機動を可能にしたというわけだ。


 ま、そんな話をルディさんにだけならともかく、不特定多数にわざわざ打ち明けたりはしないけどね。とりあえず、話を変えてしまおう。


「ともあれ、襲いかかってきた盗賊どもは、これで一掃する事ができました」


「そういえば、一人残したんだったな?」


「ええ、逃してやる事を条件に、アジトの場所を聞き出して、ついでに留守居役を騙して奇襲する手伝いをして貰いました」


「逃がした、のかね?」


「アジトが奇襲で無く強襲になったとして、捕虜を人質として持ち出されると厄介ですからね。盗賊一人を野に放つのもシャクですが、仕方ないでしょう」


 悪党との約束は守る必要ないと言う考え方もあるけど、流石に自分から言い出した約束は、ね。


「私たちを捕虜としてアジトに連れて行き、本隊はまだ街道で見張ってるって(てい)にしました。ま、居残りはたったの2人だったので、すぐ片付きましたけど。捕虜も無事でしたし」


「そうか。まあ、捕虜が無事だったのは良かった。――それにしても、見事なもんだな。しっかりアジトからの荷物奪還と捕虜解放までやってのけるとは」


 笑みを浮かべながら誉めてくれているルディさんに、私は肩をすくめて返しておく。


「依頼人さんが寄り道を快諾してくれたからですよ」


 私たちの依頼は、商人を護衛する事だから、アジト襲撃は越権行為だ。でも、捕まえた盗賊によると、他に馬車や荷馬車が拿捕されていて、捕虜や物資がアジトに残っているとの事だったので、私たちの進言でアジトも襲撃する事を決めたのだった。


「私はまだ無名の商人ですからね。こうやって他の商人に名が売れると、今後の商売もやりやすくなるって物ですから」


 とまあ、こんな感じでお互いの利益が一致したため、今回の依頼はオマケも含めて大成功に終わったのだった。



              ◇   ◇   ◇



 なお、今回使った、魔導具を使用してクリスのマナの上限を破らせる方法については、二つの理由から、緊急時のみに限る事になった。


 無制限なマナ使用に慣れてしまうと、この魔導具が使えない時にうっかり同じ事をやったらマナ不足でぶっ倒れてしまう事が一つ。


 そしてこの"技"は、使ったら使った分だけ、肉体に負担が掛かってしまう事がもう一つの理由だった。


 つまり、結局クリスは、その日の晩から極度の筋肉痛で丸一日ベッドの上から動けなくなっちゃった、と言う訳で。


「あかぁん、あちこち痛くて動かれへん……マリやん、魔法で治してくれへん?」


「筋肉痛は、筋肉が成長する為に必要なものですから! 治しちゃったら筋肉が喜びませんよ、勿体ない!」


「まあ、ご飯は酒場から持って来てあげるから、今日は諦めて寝てなさいな」


「そんな殺生なぁ!? シャイラはん、何とかならへん!?」


「うむ、我が師匠秘伝の湿布を張ってあげよう。これで明日にはスッキリさ」


「うう、遊びに行きたかったのに……」


 ま、その湿布のお陰か、翌日には普通に動けるようになったんだけどね。

 フライブルクの魔法少女開始時と、現在の身長とサイズの設定は以下の通りです。


     13歳      16歳

アニー  148cm/A  153cm/B

シャイラ 160cm/C  175cm/D

クリス  155cm/B  168cm/C

マリア  140cm/A  145cm/A


 クリスはもっと小さくても良かったのかも知れませんが、お母さんが背が高い北方出身なので、そこそこ高めです。本来、インド系はそれほど背は高くないのですが、シャイラさんは男前にしたかったので、一番背が高くなっています。

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