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1.初仕事 定番ならば ゴブリンね

本小説はパイロット版のプレビュー用です。検索公開予定はありません。


正式なパイロット版公開は別小説として公開する予定です。


ただ、そのためのプレビューですので、感想等は遠慮無くお寄せくださいませ。


※当初、第3話の部分から物語を開始していましたが、流石にパーティメンバーの説明不足で、かつ、説明できる部分が近場になさそうなので、初冒険のエピソードの大部分を入れる事にしました。大部分は2年前に書いた場所なので、若干違いがあるかも……

 先行していた斥候のクリスが立ち止まり、無言でその右手を挙げた。敵発見の合図だ。


 私と、同行している一行は、軽く身体を屈め、次いでクリスが指差した方向を確認する。――確かに洞窟の前には、ゴブリンらしき小柄な人影が二つ、立っているように見える。


 ここは王都近郊の村――から、更に小一時間ほど山道を歩いた山の頂上付近。私たち一行は、ここにある遺跡近辺でゴブリンが出没しているため、退治して欲しいと言う村からの依頼を受け、王都からやってきた冒険者だ。


 最初に私について説明しておこうかな。


 私の名前はアニー・フェイ、魔術師の帽子(ウィザーズハット)と、外套(クローク)を身に纏った16歳の女の子の魔術師。今の立場は、最下級であるGランクの新米冒険者。まあ、3ヶ月前まではフライブルクという地方都市で冒険者学校の学生やってたからね。


 もっとも、ちょっとばかり並外れた魔力を持っていたり、普通の人は知らない魔法を知っていたりで、弱いって訳じゃなかったりする。悪魔崇拝教団が降臨させた魔神を退治したりした事もあるし。


 その魔神退治が原因で、いきなり王様から褒美をやるから出てこいなんて命令が来て、王都にやってきたのはいいんだけど……ロクな物はくれないわ、「しばらく冒険者やってみろ」とか言われて放り出されるわ、割と散々な扱いをされてしまった。まあ、もともと、卒業したら冒険者やるつもりではあったからいいんだけどさ。


 そんな訳で、冒険者学校時代の同級生で組まれた、私たちのパーティ――魔術師の私の他に、斥候のクリス、剣士のシャイラさんに神官戦士のマリア――は、近郊でのゴブリン退治を栄えある初仕事に選んだというわけだ。



              ◇   ◇   ◇



 なんて事を考えているうちに、クリスが戻ってきた。下に落ち葉が積み重なっている木立の中を歩いてきたにも関わらず、殆ど足音をさせていない。さすがは盗賊ギルドマスターのお嬢と言う所かな?


 そしてクリスは、私たちに向かって渋い顔をしながら囁きかけてきた。


「なんか変やで、あいつら」


 ちなみにクリスは、黙っていたらお人形のように物凄ぉく可愛いんだけど、なんていうか、西部ナマリがきついのと、お笑いに対してキビしい一面があったりする。


 それに対して答えたのは、剣士のシャイラさん。


「変とは? 確かに、なにやらゆらゆらしているようだが」


 シャイラさんは、紅茶の国(バーラト)出身の美人剣士さん。実家はかなりの良いところらしいんだけど、お家騒動に巻き込まれてこっちに逃げてきたらしい。


「なんて言うたらええんか分からんけど、あいつら、死んでるようにしか見えんで」


「それはズバリ、アンデッドですね!」


 元気な声で囁くと言う器用な真似をしているのは、至高神の神官戦士であるマリア。比較的小柄ではあるんだけど、その膂力は計り知れず、巨大な両刃斧を担いで、フルプレートを軽々と着込んでいる。


「うーん、ゴブリンゾンビと仮定して……それは、いい話でもあるけど、悪い話でもあるかなぁ」


「と言うと?」


 考えながら漏らした私の台詞に、シャイラさんが説明を促した。


「いい話としては、ゴブリンゾンビであれば、ゴブリンの長所である素早い動きとずる賢さのどちらも持ちあわせていない、ぬるい動きの小柄な人型しか残らないって事」


「では、悪い話は?」


「ゴブリンゾンビは勝手にできるものじゃない。恐らく、奥には死霊術師(ネクロマンサー)が居ると思う。たぶんそれなりに高レベルの魔術師。なので、ここで中止して撤退するのも賢い判断かな」


 そして念のため、初冒険の助っ人として入ってくれた、二人の先輩冒険者に確認する。


 一人はチェインメイルの上にブリガンダインを身につけて、ブロードソードを腰に佩いた30前くらいの赤毛の戦士、リアムさん。

 もう一人は、魔術師の杖、漆黒の魔術師の帽子にローブ、つまり、絵に描いたような魔術師装備を身につけ、丸眼鏡にくすんだ金髪をもつ妙齢の女性魔術師、エマさんだ。


「私の状況判断、間違ってないですよね?」


「そうだね。その判断は正しいと思う。――さて、どうするかな?」


 リアムさんの質問に対して、私は自分の考えを説明した。


「想定外の高レベル魔術師との戦闘は、確かにかなりリスクがあります。でも、ここで見逃せば、将来的に麓の村まで襲われる可能性が高いかな。なので、ここで倒しておくべきでしょう」


「確かにそうだね」


「しゃあないな」


「ゾンビも死霊術師(ネクロマンサー)も許せません!」


 私たちの判断にフライブルク組の皆は口々に賛成してくれる。


「そうか……まあ、オレ達もいるし、なんとかなるだろう」


「そうね。死霊術師(ネクロマンサー)なら私の"雷撃"で何とかなると思うわ」


 その判断を聞いて、リアムさんとエマさんも同意してくれた。

 なるほど、エマさんは"雷撃"が使えるんだ。さすがはヒドラが倒せると言われるBランク? "雷撃"が使えるのなら、確かにヒドラを倒せるだけの火力は持っている事になるかな。



              ◇   ◇   ◇



 戦う事を決めたので、まずは見張り……の役に立っているかどうか分からないけど、洞窟の入り口に立っているゴブリンゾンビを、一応念のため奇襲で倒してしまう事にした。


「クリスは左を、シャイラさんは右のを狙ってください。わたしは、どちらかが外してしまった時のために魔法を保留しておきます。後の人達は待機で」


「りょーかい。ほな、うちのタイミングで放ってええかな?」


「ああ、スリングはタイミングが難しいからね」


 クリスは投石帯(スリング)に懐から取り出した石を挟んでくるくる回し始める。

 スリングって嵩張らなくて、威力が高いのは良いんだけど、とにかく当てるのが難しい。でも、器用なクリスはかなり上手に当てる方だ。


 シャイラさんはショートボウに矢をつがえて、右のゴブリンゾンビに向けて弦を引き絞った。


「"マナよ、矢となりて我が敵を討ち倒せ"――」


 私は小声で"魔法の矢"の詠唱を開始、発動前で保留しておく。


「ほな行くで」


 クリスが一言言ってから、振り回していた石をゴブリンに向けて解き放った。シャイラさんはそれに併せて矢を放つ。


 両方とも見事に頭部に命中、いずれのゴブリンゾンビも声もなく倒れ伏した。


「お見事」


 私は用意していた魔法を解除して、音が出ないように拍手する。


 誰も居なくなったようなので、私たちは洞窟の入り口まで移動した。ゴブリンゾンビは死んでしまったようで――最初から死んでるけど――もうぴくりとも動かない。


 見た感じ、死後数日って所かな? 腐敗は始まっているけど、どろどろのぐちゃぐちゃには至ってない。まあ、ゾンビの腐敗の進行速度って、普通と比べて違うのか知らないけど。ただの腐乱死体の方なら、警備部の手伝いで何回か……うええ、思い出したくない!


「じゃ、中に入りましょ。編成は昨日話した通りで」


 ゴブリンは洞窟にいるらしいと言う事で、狭い通路での並び順は昨日のうちに話し合っていた。


 今回は助っ人二人が居るので、クリス、マリア、シャイラさん、わたし、エマさん、リアムさんの順番。

 斥候のクリスが先頭で敵と罠を警戒。フルプレートで一番堅いマリアが敵が出てきた時に受け止める。そして剣士のシャイラさんは前衛アタッカー。魔術師の私とエマさんは、もちろん後衛アタッカー。戦士のリアムさんは助っ人という事もあり、最後尾で後ろからの奇襲を警戒すると言った具合だ。



              ◇   ◇   ◇



 クリスが松明(たいまつ)、私とリアムさんがランタンを持って、慎重に薄暗い洞窟に足を踏み入れていった。でも……内部はとんでもない悪臭で満たされていた。なにかが腐っている臭い……死臭だ。


 私は少し考えた後、あっさりと根本的に問題を解決する事に決めた。小さな声で虚空に向かって語りかける。


「出ておいで、シルフィ」


 風が舞ったかと思うと、碧がかった半透明の女の子が現れた。私が契約している風の精霊、シルフィだ。いきなり出現した風の精霊に、リアムさんとエマさんは驚きの声を上げた。


「おー、可愛いこちゃんだ」


「これは……精霊!?」


 それには構わず、私はシルフィに命令をお願いした。


「周りの臭いを消してくれる?」


 彼女が頷いた瞬間、周囲は森林のようなさわやかな香りに包まれる。


「アニー、あなた、精霊使い(シャーマン)だったの?」


 エマさんが当然の質問を投げかけてきた。


「いえ、わたしは魔術師(ウィザード)ですよ? この娘(シルフィ)とは契約しているだけです」


「契約ってどうやって……というのは良いとしても、精霊を呼び出している間、マナを常時消費しなければならないのではなくて?」


「そうですね。でもこの臭いをこのまま吸っていると、戦闘にも探索にも差し支えますから。マナの消費は……まあ、しばらくは大丈夫です」


 その答えを聞いて、エマさんは綺麗な眉をひそめながら忠告してくれた。


「いざと言う時に魔法が使えない、なんて言うのでは、魔術師とは言えないわよ?」


「そうですね。忠告ありがとうございます」


 私は肩をすくめて同意するしかない。ちなみに私の場合、マナの保有量は桁外れに大きいから、本当に問題はなかったりする。――ともあれ、臭いの問題も解決したので、私たちは慎重に洞窟の中を進んでいく事にしたのだった。

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