第14話 もう冬で、そして 最終
これで終わりっす。
その日は朝から何か胸騒ぎがしていた。嫌な予感。朝から感じるということは、
大抵当たっているものなのだ。
そんな憂鬱な気分を抱えたクリスマス前日。
学校までの道のりにある商店街は、クリスマス一色。
イルミネーションが夜になると輝くのだろう。
明日に向けて、多くの人が準備に取り掛かるのだ。
──サンタって、いつまで信じてた?──
そんな台詞が訊いて取れそうな小学生の登校。
ちなみに俺は、サンタという単語すら子供のころは知らなかった。
何しろ、家が家だったからな。クリスマスプレゼントはもらうが、相手はサンタじゃなく、
あの糞親父だった。
今となってはほほえましい記憶だ。……むかしなら思い出したくも無かっただろう。
そう、話がずれたが胸騒ぎ。
うれしい予感っていうものは高確率で外れるものなのだが、嫌な予感ってものは高確率で
当たるものなのだ。
こればかりはしょうがないこの世の定理。なんていう人もいるかもしれないが、
火乃村は単なる偶然だ。という。
逆に俺はそうも思わなかった。別に世界が俺中心に回っているとかそんな痛いことを考えて
いるわけでもないし、そんなことあったとしても信じないだろう。
何がいいたいかと言うと、偶然も何かによって引き寄せられるんだ、ということ。
だから、日々の行いがよかったから、という言葉があるのではないだろうか。
って、何で俺はこんなに物思いにふけっているんだ?
ああ、わかった。………この胸騒ぎを紛らわすためだ。
学校へと続く坂道に差し掛かったとき、後ろから声が聞こえた。
「おお~い、有志くん」
「朝から会うなんて最悪だ」
「ちょっと! そういうのは心の中だけで思っててよ!」
あ、思うんならいいんだ。
「それにしてもねぇ、有志くん。僕、雅ちゃんに振られたちゃったよ」
「ああ、知ってる。大体お前は、女子全員をちゃん付けで呼んでっからたらしに見えるんだよ」
実際のところ、ただの駄目人間なんだけどな。
「へぇー。流石はモテ大明神さま。そういうことだったのか」
「おい待て、何だその悪意しか感じられないあだ名は」
「やっぱり鈍感大明神のほうがいいのかもねぇ………もったいない」
「なにがだ?」
最近みんなが残念だ、という顔を俺に向けてするのはなぜなんだ。
とくにこいつと里中。
「有志くん。君は今日気をつけたほうがいい。何かと、ね」
「なんでそういう含みのあることを言うんだ」
「ふはははっ! 何でだろうね~」
そういうと猿山は涙を流しながら走っていった。
「朝からわけわかんねぇよ」
嫌な予感は当たるかもしれない。
「有志ー!」
猿山と話していたせいか、雪丸と火乃村に追いつかれてしまった。
「今日は遅めだな、杉水。寝坊でもしたか?」
「いや、ちゃんと起きたけど馬鹿に捕まった」
「猿山のことだね。 そーいえば3人で登校するなんて久しぶりじゃね?」
「そうだなぁ………」
「確かに、高校1年以来か」
「それよりさ、有志! 今年も『負け組み24時間むさ苦しい男だらけの耐久レース』しようぜ!」
「名目がもう地獄化してる!? はっきり言って24時間は死ねるぞ!」
「まぁ、俺は兄弟が腹をすかせて待っているからな、今年も遠慮させてもらう」
逃げやがった! 仕方の無いことだけど無理やり誘えないような言い方で逃げた!
流石は火乃村………強引に誘っても無理そうだ。
「えぇー。なんか乗り悪いなぁ……兄貴はきてくれるって言ってたのに……」
「お前のお兄さんは多分クリスマス会かなんかと勘違いしている!」
「彼女とのデート断ってでも来てくれるのになー」
「お兄さんが悲しすぎる! 間違いなくトラウマ決定だ!」
「まぁ、兄貴がくるなんてうそだけどねー。兄貴は仕事さ!」
「お前ら。時間だけが過ぎているぞ」
火乃村の冷静な突っ込みに目を覚ますと、もうチャイムが鳴る10分前。
時間たちすぎだろう………。
遅刻することなく席につくと、担任の梅崎 百合先生が死人のような足取りで
教室に入ってきた。
「み、みなさわぁ~ん………おあようぎぉざいます」
かろうじて聞き取れるくらいの発音で、クラスみんなに向けて挨拶する先生。
さてはクリスマス前日というこの厳しい時間をどう過ごすか、またクリスマス当日は
どうするのかといった悩みが積もっているのだろう。
負のオーラが渦巻いて見える。
「あ、あははは………先生ね、もう駄目かもしれないわ……」
ホームルームもそっちのけで話をし始める先生。
これは長くなりそうだ。
流すor最後まで聞く
ここは………
「ちなみに、先生の話を聞いてくれない人は何が何でも卒業させません」
む、無茶苦茶すぎる………。
いつも興味が無いようにしている火乃村は、先生の話をまじめに聞いていた。
先生、職権乱用です……。
そんな先生の話を聞き流した。
放課後、俺は目が点になった。
「だから、有志、ちゃんと理解してる?」
「そ、そうよ。杉水君! 」
2人の女子。織宮 憂緋と一ノ瀬 唯。
俺は何を言い寄られているんだ?
「有志、もう一回言うけどね。すきなの!」
「わ、私も………その……杉水君が……えと、好きなのっ!」
これは夢か、いや、夢じゃない。だって里中が俺に向けてエアガンを乱射しているから。
痛い、痛いわ……。痛いわっ!
ズガガガガガガッ! と後頭部にBB弾………もといST弾(ステルスではなく里中 千恵の略)
がヒットしている。
「だからね、………どっちかを選んでほしいの!」
「あ、明日のクリスマスまでに」
ズガガガガガガッ! マジか………こんなことが現実にあるものなのか……
猿山……お前が言っていたことはこれか……。
「しかも明日はちょうど土曜日なんだよ!」
「私は商店街の西口に、唯は東口にいるから、……どっちかに会いに来るの!」
「選んだほうが……あの……有志の恋人なんだよっ!」
ズガガガガガガッ! 明日までに決定……!? 何なこれは……ドッキリか?
いや、その線は無い、唯も、織宮も、本気だ。
なら、俺も本気で答えなくちゃいけないんだ。
「明日まで、考えていいのか?」
「そう、でもそれ以上は待たないよ……。どっちにも行かないってのもあるかもね」
「そうか……」
ズガガガガガガッ! 一向に弾切れになる気配が無いな……。
後頭部の痛みを抱えながら帰路へとついた。
そして。クリスマス当日。
───織宮家───
「お、憂緋! なんか気合入ってんね! デートか? デートだね! お相手はやっぱ
有志くんなのかなー?」
私の姉、織宮 憂姫。いつに無くテンションが高いのだ。
デート?そんな生ぬるいものじゃないの。これは……戦争!
「そういうお姉ちゃんだってなんか気合入ってない? デート?」
「そーう! やっと彼氏が出来てね~ 雹君って言うの~」
あれ?どこかで聞いたような………
「お、お姉ちゃん………まさか苗字が冬島、とか言わないよね…?」
「あっ! せいかーい! 何で知ってるの」
え、ええ?えええぇぇぇーーー!
雪丸君のお兄さんじゃん!
───八百屋にて───
「おーっす! てんちょー!」
折角のクリスマスだし、てんちょーに顔でも出しに行こうかと思って来てみた。
「おお、千恵か! わりぃなぁ。折角のクリスマスなのに」
いつものようにきらっきら光る笑顔で迎えてくれるてんちょー。
「いいってことよぉ! 割引だし!」
「そこは俺と過ごせるからって言うべきなんじゃあ……」
てんちょー、突っ込みの才能あるぜ!
───公園にて───
「おばあさん! 今年のクリスマスは太極拳じゃないんですか!?」
「ほっほっほ………今年はヨガじゃよ」
「聖夜にヨガ! 流石です!」
「ほっほっほ………雪丸君とやら、私についてこれますかな?」
聖なる日の夜、公園には2つの影がヨガを楽しんでいた。
───レストランへ向かう途中───
「まことにーちゃん。あれなんだろう?」
クリスマスと言うことで、久しぶりの外食。親父達も帰ってこれると思っていたんだけどな。
「ん………? 冬島……じゃないな。絶対に違う。ほら、俺たちは久しぶりに外食するんだ。
余計なことを考えてちゃだめだぞ」
「そーだね。お腹減ったー!」
───負け組み24時間むさ苦しい男だらけの耐久レース───
「ど、どうも………猿山と言います」
「おー、よく来たな。ま、ゆっくりしていけや……といっても朝まで返さないけどな」
「いやぁぁぁぁ!」
むさ苦しい男達の缶詰状態。
雪丸君……だましたね……どこが天国かぁ……。
─── 一人の道───
うふふふ………一人?一人ねぇ?何が悪いっての?
振られた?何が悪いの?
人生……終わってるわ。
結婚?ナニソレ……幸せなの?
「あ、あの女………禍々しいオーラが出ている! バトルノートに書き込みだ!」
─── 一ノ瀬家───
最終難関。最後の問題。
「答えは……有志しか知らないもんね」
行ってきます、とは言わない。
───杉水家───
はぁ、ついにこの日がきてしまった。
昨日の夜、選ばれなかったほうはどうなるんだろう、とずっと考えていた。
今の関係から一歩踏み出す。大事なことだ。
でももし、もし、壊れてしまったら?
そんなことばかり考えていた。
だからお前は弱いんだよ
だろうな。だから、考えた。俺なりに。
そして、答えを見つけた。
よし、行くか。
そんな平凡な日常。どこにでもあるもの。
だからこそ見つけにくい。だからこそ幸せだと感じられにくい。
でも、そこにあるものだから。いつもそこに。
探し求めるものじゃなくて、感じるもの。
それが、 Ordinary daily life 。
普通の日常生活。
はい、長い間ありがとうございました! かれこれ50話も続けてしまいました。
本当にこれで終わりです。またリメイクして投稿するかもしれませんがそのとき
はよろしくお願いします! 今は新作を投稿しましたので、それに力を入れていきたいと思っています。
最後まで読んでくださった方! ありがとうございます!