第8話 ライバル?仲間? B
一ノ瀬 唯との出会いは、高校生になった時。
まだ、学校の構造が頭に入ってない人が多いらしく、
迷って授業に遅刻するものも多かった。
そんな中……美術室の移動途中、雪丸とはぐれてしまっていた。
「しまったなぁ………分かんなくなっちまった……一階のどっかに
あるって聞いたんだけどなぁ……?」
この学校は、4階建て、A棟〜D棟まであり、しかも学校の敷地面積が
広すぎるため、1つの棟が大きすぎるのだ。それが4階のしかもあと3つって……
雪丸は大丈夫だろうか?おかしな場所に行ってないだろうか?
そんなことを思いつつ、長い廊下を歩いていた時、
1人の生徒がおろおろしているのを見つけた。
あれは確か────同じクラスの一ノ瀬さん?
「ああ……うーーどうしよう…………」
今にも泣き出しそうな顔をしている。
「あ、あのーー 一ノ瀬さんだよね?」
彼女は、はっ となって顔をこっちに向けた。
「あっ………杉水……有志君?私───迷っちゃって……」
「えーと、ああ、俺もなんだ。とりあえず……美術室探そうか?」
そういって2人並んで歩き始めた。
───授業5分遅刻───
「杉水君て、ドコに住んでるの?」
一階の────どこだか分からない廊下を歩く2人、
こうしていると、授業を抜け出したカップルのようだ。
「杉水君?」
クリクリっとした目で見つめてくる。
その大きな瞳には、吸い寄せられるかのような魅力があった。
「う……ああ!、ちゅ、中央区のマンションだよ。そこで1人暮らししてる。」
「えっ!そうなのーー?いいなー私も1人暮らししたいよ〜」
「でも炊事とか洗濯とかめんどくさいぜ?」
話は、盛り上がる一方。
「そこは男の子って感じだよねー」
この長い廊下は、まだまだ続く………
───授業10分遅刻───
話のネタもつき、そろそろ疲れが見え始める。
今見えるのは、第2図書室。第2図書室!?2つも図書室必要ねーだろ!
とツッコミたくなるところだが、今は、そんな元気はない。
「ったく……この学校広すぎだろ。」
「そうだよー。うちに少しくらい分けろよー」
もう意味も分からない。疲れたら人間は、テンションも下がるのだ。
「さっきのとこ左だったかなぁ……?」
2人ともこの広すぎる学校にうんざりしていた。
それにしても俺たち以外に迷ってる人が1人もいないってどういうことだ!
───授業20分遅刻───
この時間になると、もう歩く気がなくなってくる。
その前にもういまから行ったってどーなる。といった気分になる。
2人は、階段に座っていた。
「美術室ってどこだよ……てか本当に一階にあんのか……?」
「…………」
唯は、一言も返事をしない。
「一ノ瀬さん……?」
「なーんかつかれた……」
彼女は、自分の膝に頭を打ち付けている。
コンコンコンコン…………
そんなむなしい音だけが階段にこだまする。
「教室……戻ろうか。」
「んーーそうしよ。どうせもう帰るし。」
いまは、6限目である。この授業が終ったら帰ることになっている。
そういって立ち上がり、階段に登り始める。
カツカツカツカツ…………
2階への最後の段に足をかけたとき─────
カキッ!
「あっ─────」
一ノ瀬 唯が階段を踏み外したのだ。
「あっ、あぶないっ───」
人間は、本当に危険だと思ったとき飛べるのだと知った。
「っ────!」
ドン!
見事に一ノ瀬を受け止めたが……有志は背中を強打し、
唯は、足をくじいてしまっていた。
階段の踊り場の壁に寄りかかる有志、その上に唯が座っている。
「いたた……有志君ごめん……助けてもらったのに
足くじいちゃった……」
彼女は、笑いながらいった。
「馬鹿か、目が笑ってねぇよ。痛いんだろ?」
唯がさらに寄りかかってくる。
「私……このままでいいかも……」
唯の重みが伝わってくる。心音が───2つになる。
俺たち────なにやってんだろ……
これが杉水 有志と一ノ瀬 唯の出会いだった。