夏祭りって憂鬱? いいえ、楽しんだもん勝ちです♪
猫又アトリエさんとの縁あって今年の夏コミに出させていただきました作品です♪
見て楽しんでくれたら嬉しいのです✨
『おはようございます。今日は8月31日です。今日も朝から照りつける太陽で雲ひとつない天気になるでしょう』
テレビから流れてくる軽快な音楽と女子アナウンサーの明るい声が部屋に満ちている。
俺、篠森浩一はテーブルに置いたノートを広げ、トーストしたパンを頬張る。
「もう、そんな時期か」
一人呟き俺はノートを見て、ニヤリと笑ってから残っているトーストを口のなかに放り込んだ。
「さて、それじゃ準備しますか」
今日は夏祭り。俺にとって・・・・・・いや。
俺"たち"にとって待ちに待った遊びの幕開けである。
はやる気持ちを落ち着かせ、俺はあいつと待ち合う時間までにできる限りの用意をしておこうと席を立った。
「あつい・・・・・・」
時刻は4時10分前。日差しはまだまだ強く、拭っても拭っても汗が止まらない。
首に巻き付けたタオルはすでにびちょびちょになっており、絞れば水滴が落ちてくるほどだ。
「ま、お陰で準備は出来たけどな」
誰もいないのを確認し、にやにやと笑みを浮かべていたが、人の目にハッと我に返り顔を左右に振って気を引きしめ直す。
それよりも、とにかく時間までに集合場所に着くことが出来たことに安堵する。
時間に正確なあいつは遅刻すると後々うるさいからな。
「おーい浩一!」
声をかけられ、俺はそちらの方を向く。
「もしかして先に来てた? 待たせちゃったかな?」
「いや。そんなに待ってねぇ。お前こそ相変わらず時間ぴったりだな」
「それがあたしの特技だからね」
「地味すぎね?」
「うっさい」
カロンカロンと小気味いい音を鳴らしながら近づいてくる浴衣姿の女の子。
俺の幼馴染みにして彼女でもある桜井奏が笑顔で巾着袋を片手に、空いた手を振りながら俺の隣まで来て腕を絡める。
密着していると彼女の匂いや体温、そして何よりも浴衣の上からでもわかるくらいの大きな二つのマシュマロが否が応でも反応してしまう。
「なに顔赤くしてんのよ、変態」
「うるせ。男の性ってやつだよ」
「むっふっふっ。愛い奴め」
奏も俺の反応を知っているからわざとこうやって肌を合わせからかってくる。
「それにしても夕方なのにまだまだ暑いよねぇ」
そう言って胸元を少し開ける奏。
浴衣の下には肌着など着ておらず、つまり見えるのはこいつの・・・・・・
思わず唾を飲み込み覗きこもうとしたときハッと我に返り奏を見る。
そこにあいつのニヤニヤ顔。
「わっかりやすいよねぇホント。覗いた分、奢りね」
「くそっ」
クスクスと笑いながら先を歩く奏に俺は口を漏らしつつ、内心苦笑する。
なぜなら、前を行く奏の頬が少しだけ赤く見えたから。
(恥ずかしがるんならすんなっての。それに毎度引っ掛かる俺も俺だけど)
お互いがお互いに軽口を叩きながら、俺たちは夏祭りが行われる神社へと足を向けた。
「はー、たべた~♪」
「つか食い過ぎ。俺を破産させる気か?」
ポンポンとお腹を撫でながら奏は満足そうに呟く。
場所は神社から少し離れた丘の上。舗装されておらず草が生い茂っているためあまり人が来ないので花火を見るなら絶好の場所だったりする。
「お祭りの食べ物って、普段なら微妙なのにあの場で食べると妙に美味しく感じるよねぇ」
「それには同感だがな」
あれから俺たちは祭りを堪能していた。
主に食べ物系を制覇したがり、テンションがガンガン上がっている奏と対照に財布の中身がどんどん軽くなりテンションだだ下がりな俺だったが。
「ってか、なんで俺が全部奢るはめになってんだよ?」
「こーんなに可愛い彼女が一緒にいるんだよ? 少し位は優しくしてもバチが当たらないと思うんだ」
「少しじゃねぇから言ってるんだろうが」
少なくとも記憶している限りでは軽く諭吉さんを一人旅立たせてしまったはずだ。
あんな細い身体のどこにそんだけ入るんだ。
「もうすぐ、だね」
「・・・・・・おう」
花火が上がるまでもう少し。俺たちは二人手を繋ぎ空を見上げる。
俺は、花火が上がれば告白するつもりだ。
なんとなく、奏も同じなのだろうとは俺の推測でしかない。
だが、握ってくる手の温度や力強さで分かってくる。
(伊達に長年彼氏やってないからな)
時間と共に心臓が跳ね上がる感じがする。
必死に冷静を努めようとするが、汗がじんわりと浮かぶ。
俺は横にいる奏をちらりと見る。奏もちょうど俺と同じことを考えていたのか、こちらを見ていた。
「はははっ」
「ふふっ♪」
なんだか照れ臭くてお互いに笑ってしまった。
――――――そのとき。
『ドーーーンッ!!!』
花火が鳴り響き、その時間がきた。
さぁ、告白しよう。この胸の想いを相手にぶつけるんだ。
「「さぁ、殺しあおう!!」」
瞬間、俺は距離を取りながら右手を後ろ手に回し、腰に隠し持っていた銃を抜き取る。ちなみに左手は奏と手を握りあっているため動かせない。
それも計算の内なんだろう。奏は巾着からナイフを取り出し俺に斬りかかる。
「うぉっと!?」
すんでのところでそれをかわして奏に照準を合わせ撃ち込む。
ほぼゼロ距離からの銃撃を握っていた俺の手を離しながら距離を取ることであちらも辛うじて避けた。
「ちっ。さすがに初手じゃ殺れねぇか」
「それはこっちの台詞。うまく片腕封じれたのに殺せないなんてちょっと悔しいかな」
互いに距離を取り合い獰猛な殺意の笑みを浮かべ合う俺と奏。
今の二人は完全に恋人ではなく、暗殺者そのままだ。
「そういやこれまでの戦績ってどっちが上だっけ? ってあぶねっ!」
花火が上がる音に紛れて銃を連射する俺。奏はその銃撃をすり抜けながら巾着に入れていた投擲用のナイフを投げつけられるがそれを木に隠れることでかわす。
「浩一の方が一勝多いんだっけ? あぁもうっ。当たんなさいよ」
軽口を叩きつつ、俺たちは攻撃を避けては攻め、攻めきれないときは草むらや木を利用して身を隠してやり過ごす。
――――――昔からのこれが俺たちの遊び。
俺たちの家は共に暗殺一家。
普段は日常生活に溶け込んでいるがこうやって互いを研鑽しあい、どちらがより優れた殺人者となれるのかを競う。
今まではゲームのように勝った負けたで済んでいたが、とうとう両家からどっちが優れた殺し屋になるかを決めろとお達しがきたのだ。
故に今回は勝敗=生死となる。
俺は撃ち尽くした銃からマガジンを外し、弾を装填した新しいマガジンに入れ換えながらあの時のことをぼんやり考える。
「んでも今さらだよなぁ。なんか知らないけど本家がやれやれうるさいのなんの」
「こっちも。めんどくさいったらありゃしない。昨日も電話で『そろそろあのガキを片付けろ』ってきてさ。なら自分がやれっての」
俺は奏に声をかけそれで相手の場所を把握しようとしているのだが、そこはさすがに向こうも分かっているのか声はすれど右に左に動き回りながらなので狙いがつけ辛い。
なにせ街灯がほとんどない暗闇だ。音を頼りにするしかないのだが花火の音も相まって確認できないのである。
(本当に、やりづらい・・・・・・)
撃っている最中、ふと思い浮かべてしまったのは今日出会ってからの奏の笑顔。
それらが浮かんでしまった俺はすぐに頭を振って消そうとする。
しかしそのとき、撃っていた銃からガキッと変な音をたてた。
見てみると弾がジャム(詰まって)ってしまい、少し焦ったがすぐに詰りを外し照準を奏に合わせた。
だがその一瞬の隙を奏が見逃すはずがなかった。
「うりゃぁっ!!」
「がっ!?」
一気に間合いに入られた俺は組伏せられ、銃は奪われた上に両腕を足で封じられナイフを首に突きつけられた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
荒い息を両方が吐きつつ、花火の音だけが俺たちを包む。
「・・・・・・まいったな。降参だ」
この状態まで持ってこられたらもう抵抗のしようがない。
息を整え、俺はニッと奏に笑みを向ける。
「殺れ。そんでこれで全部終わりだ」
「・・・・・・」
奏の逆光で表情が読めない。
「まぁ、これで最後だから言っとくわ」
「・・・・・・なに? 命乞い?」
「うんにゃ。・・・・・・愛してるぜ、誰よりもな」
「これから殺されるってのに、意味わかんない」
「大真面目でいってんのにな。まぁいいや。さ、一思いにやってくれや」
「・・・・・・ふーん。じゃ、さ。あたしも最後に一言だけ」
「ん?」
ふと暗くなる視界。ふわりと甘い匂いがするそれはそっと俺の唇を塞いだ。
それがキスだとわかる前に奏の顔は俺から離れていった。
「ファーストキス、だからね♪」
「・・・・・・へへっ。光栄だねぇ」
花火に照らされた奏の顔は涙を流しながらも健気に笑っていた。
それだけで俺は満足そうに微笑み返し、目を閉じた。
そして、ラストのドでかい花火の音とともに俺の意識はなくなった。
――――――そして、数年後。
「ぐはっ」
「がっ、はっ」
「貴様、なぜだ。我らが家を裏切る気か!?」
場所は桜井家本家。
部屋の中、廊下には本家に住まう数々の殺し屋たちが断末魔をあげ血が飛び舞い、蒸せるような鉄さびのような匂いが辺りを埋め尽くす。
その一番奥の部屋で頭首であるじい様は斬りつけられた腕を押さえ後ずさりする。
百を越える親戚の殺し屋たちは今やたった一人、私の手で壊滅状態だ。
足下には私の両親だったものがいるけど、今となってはただの真っ赤なタンパク質だ。
「いやいやいや、あたしは元々こうするつもりだったんだけどねぇ」
「な、なん、だと?」
実にさらっと自分の家を潰すと言ってのけるあたしにじい様は目を見開き絶句する。
「知ってるんだよ。あの殺しあいの日。じい様たちはあたしらを賭けの対象にしていたんだってね?」
「なっ」
にっこりと微笑むあたしを見てじい様はガタガタと震えだす。
「「がどちらが優れた殺し屋に、よ。あんたらの中ではあたしたちはただのゲームの駒でしかなかったってことなのよね?」
「ま、待ってくれ。話せば分かる。お前は誤解しているだけで――――――」
バーンッ!!!
老人が言い終わる前に部屋の外から炸裂音が響き、すぐに静寂が訪れる。
どさりっと倒れる音が聞こえ、泣き叫んでいた老人は物言わぬ肉塊になった。
「んもぅ。もう少し情緒ってものはないわけ、浩一?」
むくれたような顔で後ろにいる私の彼氏、浩一にため息をつく。
浩一はなんとも言えない微妙な顔をして銃をしまった。
「あのなぁ、殺しに情緒求めるなよ」
「ちょっとくらいいいじゃ~ん」
――――――あの夏祭りの日。あたしたちが賭けの対象になっていたの知っていた浩一はひと芝居を打ち、自分が殺されたように見せかけ、影から両家を潰そうと画策していたらしいのだ(あたしはまったく分からず、知ったのは浩一に聞いたから)
「でもあれってかなり無謀な作戦よね?」
「何がだ?」
戦利品を積んだ車で移動すること数時間の場所。あたしは浩一に話しかけた。
「だって、あたしが銃を使わずナイフでやってたら作戦自体おじゃんじゃない?」
「あぁ、それな。俺は特に問題視してなかったぜ?」
あたしが疑問符を飛ばしているのを見て浩一はクックッと笑う。
「お前を信じてたからな。だから迷いがなかった」
「何それ? よくわかんな―――」
あたしが言い終わる前に浩一はあたしを抱き寄せキスをした。
「俺が愛した世界一の相棒だからな。相棒ならこうしてくれるって信じてた。ただそれだけさ」
「あんたの考えって回りくどいのよだから、バーカ」
赤くなった顔を誤魔化すようにあたしは顔を背ける。
悔しいからあとで何か奢ってもらわないと割りにあわない。
「さて、と。じゃ次は俺ん家だな」
「だね。その後のことは追々考えましょ♪」
「裏切り者ってんで暫くは追われる立場だろうが、まぁそれもお前とならなんか楽しそうだ。それこそ―――」
――――――俺たち(あたしたち)の人生が終末を迎えるまでは、楽しまないとね。