アンドロイドの涙
勢いで書いて見ました。
よければ読んでいただけた方は、感想など私の至らない点を述べてもらえると、今後の活動の糧になります。
人の出会いは一期一会と言いますが、私を見つけていただきありがとう。
読んでいただけたあなたに少しでも残せるものがあったなら嬉しいです。
人間の欲求は止まることを知らない。
いくら渇きを癒しても、必ず次の水を欲する。
それは、いついかなる時代、場所であろうと変わることのない普遍のテーマ。
人間の渇きを潤してくれるものは数あれど、永遠に渇きを潤してくれるものはこの世にない。
それはなぜか?
それは人間が永遠ではないからだ。限りある命を少しでも満たそうと、他人の足を引きずり合う。もはやそれは、遺伝子に刻まれた基本構造。そう、組み込まれたプログラムを忠実にこなすだけ。
「また、記録更新ですよー。」
若い科学者が言った。
ここのところ、地球の人口はずっと右肩上がりである。さきに話していた記録もまた、人口の増加が更新されたことを指摘していた。
「はぁーあ、どうなるんすかねこのまま人口が増加し続けたら?」
若い科学者は率直な疑問を投げかける。
「そりゃ、まず食料不足だろうな。」
研究所の所長はボソッと答えた。
「どんだけ、人間が増えても個々人に子作りするなとは言えないし、全世界でこんなにも同じタイミングで人口が爆発してるんなら、これは神による人口操作なんじゃないですか?」
他の研究員も適当な持論を話して話題に参加してきた。
「神…… ですか。 抽象的かもしれませんが、確かに何者かの意思によるところがあるのかもしれませんね。」
若い科学者が呟くと、「考えすぎだろ。」と笑いが飛んだ。
地球上の至る所に人間が存在している。宇宙から地球を見渡すと、もう緑と呼べる木々はほとんどなかった。
増え過ぎた人類は、我先にと自らの住処を得ようと競争する。最初は個人での争いだった。しかし、次第にそれは加速する。人類は自らの居場所を求め、国家間で争った。
ひどく醜い争いは、人類史上最も長い戦いとなった。なぜなら、これまでの比にならないほどの人間がいるからだ。
国力は人口に依存する。
いくら倒しても戦いは終わらない。1日でも早く戦争が終結する様にと奮闘すれば、必ず憎しみを買い、いつかソレに殺される。
その繰り返し。
人類は学ばない。
争いによる死者が増えても、未だ人口の増加は止まらない。醜い争いなどせずに誰かが気付くべきだった。
どんな分野の科学者も、自らの国の研究機関で戦争終結のため研究を続ける。
ある者は、これまでにない殺戮兵器。またある者は……
人類は遂に物事の本質を失った。なぜ争っていたのか?
それに気づくときにはもう人間という種は地球から姿を消していた。
居場所をかけた戦いは、自らの住む星を汚染させてしまった。
荒廃した地球だけがそこに残り、生物など皆無である。
……そう、生物など。
人類が去った後に残ったのは一機のアンドロイドだった。人間が争いを起こす前からアンドロイドの技術はあったが、戦争によりそれらの技術は格段に向上していた。
二足歩行で歩くのは当然。
AIを搭載され考える力を持っている。
エネルギーは太陽光で賄えた。
皮肉なことに永久的なそれは、正しく人類が追い求めた悲願と言えた。
そのアンドロイドがどこの国で作られたのかはもう分からない。ただ額にNo.01とだけ印字されている。
そのアンドロイドには、自我があった。
『自分』というモノを持っているのだ。
ただその感情はつい最近得たものである。
それ故にNo.01は自らに問いかける。
「私は、一体何者なんだろうか?」
その答えを知りたい。
「なんでもいい、誰か私に存在意義をくれ。」
言葉を発するも、誰も答えてくれない。
その場にNo.01をおいて誰もいないのだから。彼と同じ様なアンドロイドも、もちろん人間も、他の動物すらいない。
No. 01は歩き出す。自分以外の存在を求めて。
争いにより、ズタズタになった道をあてもなく只々真っ直ぐ進んでいった。
そして、遂に街を見つける。
街といっても廃墟と化した 『街であった場所』である。
No. 01はその街へ入ると、まず人を探した。
「誰かいませんかー?」
No.01には声帯機能がついていた。限りなく人間に近く、声の種類も使い分けることができた。ときには女性の声を出して人を探す。
だが、やはり人はいない。
どんなに探しても自分以外に動くものはいなかった。
No.01は途方にくれた。もうこの星に生物はいないのだろうか?
きっと、自分以外の何者かに出会えれば、存在理由が生まれるはずだ。
そう願う他なかった。
「誰か、私に理由をくれ……私が存在する意味を」
そう呟きながら、No.01は直立不動のまま動かなくなった。
「これが、新たに開発されたアンドロイドか?」
男は、私のことをまじまじと見ている。
「これがあれば、我が国は安泰ですね」
別の男がそう言った。きっと、さっきの男の部下だろう。
「えー、えー、そうでしょうとも。これは私が作った中でも最高傑作ですから。」
私の視覚にいない所から、声が聞こえる。声しか聞こえないが、私はその声の主を何となく知っていた。
「それで、コイツはいつから使えるんだ?。」
「えー、えー、少しばかりシステムにバグが見られましてね。もう少しばかりお時間を…」
バンッと音がした。男が机を思いっきり蹴
った音だ。
「こんなにも、高い性能があるのにバグだと?」
それまでの声の調子から一転、男は怒鳴りながら詰め寄る。
「えー、えー、それがですね……っといた。詰まる所……。」
途中からゴニョゴニョと男に耳打ちをする。
「ふん、そんなもの構わん。新たな仕様だと報告して明日にでも、実践投入しろ!」
男の気迫は凄まじかった。
それまで、えー、えー、と言っていた男も遂にビクビクと怯えながら、「……本当に実践投入なさるおつもりですか?」と調子を狂わされた様だった。
「当たり前だ。こんなにも素晴らしいアンドロイドだ。多少のバグなど、どうと言うことはない。」
男の態度は依然強気だった。
かくして、私は次の日実践投入された。
No.01は目を覚ます。眠っていたのか?
人間らしいことをするなんてと、自分でも驚いた。
アレは夢だったのか? さっきまで見ていた男たちの会話。自我が芽生える前の、ずっと忘れていた記憶に他ならない。
「私は一体?」
No.01はその言葉を口に出して頭を抱える。
大方の予想はついていた。しかし、認めたくはない。いや、認めない。No.01の中で処理しきれないデータが溢れ出す。
「私は、私は、私で、…私の私が、私に…」
No.01はフリーズする。
真っ暗な暗闇の中、ザザッと視界が開かれた。「あぁー、私の愛しい子。どうか無事に帰ってきておくれ。」
過去の記憶に出てきた、声に馴染みがある男だ。男は私を抱いている。
この人は博士だ。私の父親と言うべき存在。
彼はまるで、我が子を慈しむ親の様に私を抱擁していた。
「−−−帰らなくては」
No.01は再起動するとともに、使命感に駆られた様に歩き出した。
「そうだ、私の存在理由はあそこにある。あの人が待っている。」
行かねばならない。どれだけの年月が経っていようともあの場所に戻らねば。
あの場所がどこにあるのか、No.01はうっすら記憶していた。
「待っている。私の帰りを待っている人がいる。」
「それだけで私は嬉しい。」
いつから自分に感情が芽生えたのだろうか。この嬉しいと思う気持ちは、一体どこからくるものなんだ? 従来のアンドロイドは、いくら高性能な人工知能を組み込まれても、感情を持つことはなかった。
「私は特別。そう、私はNo. 1《ザ・ワン》唯一無二の存在。」
「何者かなんて、関係ない。私は私なのだから。何もないなら作ればいい。」
「そのために、あの人に会わなければ」
博士に会いたい気持ちがどんどんと湧き出てくる。早く、早く。休んでいる暇はない。アンドロイドなのだから休む必要はない。 どんな姿になってでもあの場所へ行く。
待っていて下さい。今向かいます。
あなたは私を最高傑作と呼んでくれた。それが何より嬉しかった。
そして、ついにNo.01はあの記憶の場所へ辿り着く。
寂れたラボの入り口に立っている。
ラボの扉は赤く錆つき、厳重に閉められていた。
「ここが、私が生まれた場所」
No. 01は、ラボの入り口を軽く撫でた。
ザラザラとした扉の感触が手を伝って感じられる。
すると、彼は違和感を覚えた。
ラボの扉は、電子ロックにより閉められているではないか。この、荒廃と化した地球に生きた人間の文明がそこにはあった。
もしかすると、中に人がいるかもしれない。
No.01は必至になって電子ロックに付いている数字のボタンをランダムに押した。
赤いランプがチカチカ光る。
ブーーという電子音が鳴る。
1つも当たらない。
電子ロックの暗証番号は6桁の数字で構成されている。下には0から9の数字が用意されていた。
No.01は計算する。0から9までの数字で6桁のパスワードが当たる確率を。
一瞬で弾き出す。
『一番上の桁が1~9の9通り
その下は、0~9の10通り
9×10^5=900000通り。』
途方も無い数字。
……人間にとっては途方も無い。
しかし、アンドロイドには違う。何回も何回も、何百何千何万回と間違えながら数字を1から入れていく。
どのくらい時間が経っただろう?
何日経過しただろう?
一体、何回目の入力だっただろうか?
扉は開いた。
ピーーと鳴る電子音とともに赤いランプが緑に変わる。
この先に私の求めるものがある。
No.01は迷うことなくラボへと入った。
中は静寂で包まれている。人の気配はない。
けれども、明かりがついていた。
煌々と光るそれは電気である。
ラボの中には、研究で使用する機材が所狭しと置いてある。しかし、そのほとんどが埃を被りアンドロイドNo.01が見ても長い年月、誰も利用していないことが伺えた。
他にも、埃を被った本が所狭しと積み上げられている。
No.01は、それらを掻き分けながら中へと進む。
特別広い施設ではない。1分も掛からない内に物色することができた。
やはり、人はいない。
それに、過去の記憶にあったラボとはどこか違う様に感じられた。
No.01がラボを出て、どのくらいの時間が経っていたのか分からない。下手をしたら、人間が何世代も世代交代していてもおかしくない。
もしそうなら、最早ここはNo.1の記憶にあるラボとは別のものである。
No.01は求める答えを見つけられなかった。
「私の求めたものは、もうどこにもない」
No.01が一言発したその時、どこからともなく機械音が響き渡る。
「…オンセイ、No.ゼロ1 ニンショウ…」
「…オンセイ、No.ゼロ1 ニンショウ…」
「…オンセイ、No.ゼロ1 ニンショウ…」
それまで、変哲もなかった床にボッカリと穴が空いた。
よく見ると階段が続き下降することができる。
No.1は内心驚きながら地下へと潜った。
するとどうだろう。
目の前に広がるのは、あの記憶にあるラボではないか。
「…ここが私の生まれた場所。」
No.01は辺りをキョロキョロと見渡す。
目の前には、作りかけのアンドロイドの腕が無造作に落ちている。その奥には胴体らしき物や、足のパーツ …どこを見てもパーツ、パーツ。
「…気になるか、兄弟たちが。」
No.01が目の前にある作りかけの腕に触れようとしたとき奥からとても低く、か細い声が聞こえてきた。
人間が住めなくなったこの星で、始めて人の声を聞いた。
No.01は、嬉しさのあまりその声の主へ近づいた。
「おぉー、久しい…なんと久しいことか。 待ちわびたぞ我が息子。」
奥にいたのは、老人だった。老人は、ベットで寝たきりになっている。かなり青白い顔をしている。それに彼の体には沢山の管がつけられていて、奥にある大きな機械にそれらが集約していた。
No.01が話すよりも早く老人は喋り出した。
「…お前は…私の最高傑作だ。なんと素晴らしい。お前ほどのアンドロイドを見たことない。」
No.01にとってこれほど嬉しい言葉はなかった。父である博士が生きていた。それどころか、長い年月経った今も私を最高傑作と呼んでくれるなんて。
しかし、その後に続く言葉を聞きNo.01は愕然とする。
「だが…最高傑作故に、私はなんとも取り返しのつかないことをしてしまった。」
「どういうことですか?」
「…お前は、優秀過ぎたんだ。」
老人は途切れ途切れに話す。
一言発するだけでもかなり辛そうだ。
「…今からもう、200年余りも前のこと。人類は…人口の増加と共に激しい土地争いを行った。」
「それは、それは長い争いだった。…だが物事には必ず終わりが訪れる。その戦争もまた、終わりを迎える瞬間があった。」
…なんだと思う? 老人はNo.01に問いかける。
「分かりません。」
No.01はすぐさま答えた。
「ふっ、ハハハハハ。…そうだろうな。戦争を終わらせたのはお前だからだ…」
老人は、余裕を見せる様に笑ったが、その後かなり苦しいそうに咳を何度も繰り返す。
「お前と言っても、お前ができる前のことだが。」
「どう言うことです?」
No.01は質問することしか出来なかった。
「ふ、お前は、その戦争に駆り出す戦闘マシーンだった。…お前だけではない。どの国も自らの技術を集結させて、アンドロイドを戦地に送り込んだ。」
しかしな、お前はそのどれとも違う。
私が作ったのだから。と老人は涙を浮かべる。
「お前の、性能はどの国のアンドロイドよりも優秀だった。だからお前は、敵軍をあっという間に壊滅させた…たった一機で。」
老人の口調は強くなる。
「お前の手柄は、私の功績だ。お前が戦地で結果を残せば私はとても嬉しかった。」
「ただ一つを除いて」と後ろに付け加える。
「お前には、重大なバグがあった。…それに私はいち早く気づいていたが、停めることが出来なかった。」
No.01は、あの過去の記憶を思い出す。
…そうだ、博士はシステムに問題があると言っていた。
「…重大なバグ、それはお前が人類全てを敵と認識することだ。」
老人は言った。老人はその言葉を口にした後何度も何度も咳き込み、終いには吐血した。
「お前に搭載した、AIは私が独自に開発したものだ。…試験段階から危うい兆候を見せていた。」
「試験で私が何気なく、戦争を終結させる方法を訪ねたら、お前は直ぐに人間の抹殺と答えた。」
「私は恐ろしくなり、データを消去し一からやり直した。…そしてもう一度尋ねた…戦争の終わらせ方を。しかし、結果は同じ…人間の抹殺だと答えた。」
「私は震えた。恐ろしさのあまりお前を作ることを止めようとさえ考えた。」
老人は目を瞑りながらも声の調子は衰えない。
「ならなぜ、私は現在も存在するのでしょう?」
「それはお前が愛おしかったからだ。…そう、お前を愛していた。」
老人はまくしたてる様に早い口調で話す。
「子を愛さない、親がどこにいる?お前は私が生んだ息子だ。」
「それ故に、息子の犯した過ちは親が責任を持たなければならん。」
老人はそう言うと、今までベットで横になっていた体をあげて自らの足で立った。
横になっていただけでも苦しそうだったのに。立ち上がり一歩一歩近づいてくる老人の足はなんとも言えない程か細く、立っているだけでも奇跡に思えた。
No.01は、目の前の老人が近づいてくることにどう対処していいか分からない。
「私は長く生きてきた。そう、私以外の人間がいなくなるまで。私は知っていた。あの日、お前が実践投入された日から必ず、いつかお前が暴走する日が来ることを…人間とそれに付随する者全てを壊すことを。」
老人は懸命に足を前に出す。
「私は考えた。どうにかして償いをしなければと。…そして思いついた。これが私の償い…だ。」
老人はNo.01の目の前まで歩くと、力尽きた様にNo.01へもたれ掛かった。
「さぁ、お前のなすべきことを成せ。…お前はずっと探していたはずだ。自分にしか出来ないことを。…それを今成すときが来たのだ。」
アンドロイドNo.01は、理解していた。これまでの老人の話。そして過去に自分が行なってきたこと。
No.01は、そっと目を閉じてもたれ掛かる老人の腹を自らの拳で貫いた。
ブッシュっと音がした。その後には、ガハッと聞こえる。
No.01は貫いた拳をズルズルと引き抜いた。
「……そうだ、それでいい。これが私の償い。人間を滅亡へと追いやった私に相応しい最期。…私は、お前が暴走した日から自殺しようと考えていた…けれど…簡単に死んだところで……それが償いになるとは思えなかった。」
「…だから私は、人間の誰よりも長く生きることを決めた…そして人類の最後になったとき、お前をこの場に来るように仕向けたのだ。」
「…お前には…悪いことをした。お前の自我も、時折見えた過去の映像も…私を殺させるため…私が仕組んだものだった。」と老人は床に転がり落ちながら話す。
「そんな、それでは私はあなたを殺すことが存在意義だったのですか?」
No.01は足元の老人へと腰を屈め、老人を抱きかかえた。
「…違う。そうではない…これは過程だ。……昔このラボで話したことがある……人口が増加し続けたらどうなるのかと…」
老人の息は絶え絶えになっていく。
「……そのとき…ある奴が言ったんだ。人間が増え続けるのは、神…によるものじゃないか…っと」「…私達は、それを笑った…しかし、今になって分かる…神は試していたのだ。人間が、限りある資源を分かち合うことができるかどうか。」
「…それなのに……我々人間は欲望に流されて…酷い争いを行った。…人類を滅亡させたのはお前だが、滅亡へと追いやったのは人類自身だ。」
「人間は示さなけれ…ばならなかった…可能性を…」
「…お前は…神の二面性を知って…いるか?」
No.01が答えるよりも老人の方が早く話す。
「…破壊の神は、世界を壊した後、新たな世界を創造すると言う…」
「旧人類からはその神が災いの神に見えたかもしれない。しかし、新人類には創造の神に見えたという。」
「今の地球は、人類により汚染され、混沌に満ちている。…しかし命とは混沌から生まれるもの……そう、お前がその1つだ。」「…お前には感情があり意思がある…アンドロイドにはなせないものだ……」
老人はそう言うと突然、ぐったりとなったまま動かなくなった。
そんな、まだ聞きたいことはたくさんあったのに、No.01は老人の脈拍や呼吸、瞳孔を確かめる。どれも生存の数値を下回り、こと切れていた。
No.01は老人を抱きかかえ、ベッドへと静かに寝かせた。
最後に見た老人の顔は穏やかな表情だった。
No.01はラボを出る。
彼以外に誰もいない外へ出る。
No.01は歩き出す。
誰もいない荒野を。
新たな生命が生まれるその日まで。
そしてきっと彼は新たな生命を導くだろう。
人類が至れなかったその先へ。
書き切って思ったことは、うーんなんとも表現がチープ過ぎるなということです。
勉強が足りていません。。