5話「猫被り」
「ひと仕事したら喉が渇いちゃった。何か飲み物買ってきて。あー、もちろんあなたのおごりで」
「おい、お前なんか教室の時と雰囲気変わってないか!?」
「それは、周りに人がいたからよ」
と、雨宮の謎のドヤ顔。ウザいウザい!可愛いからって調子こいてんじゃねぇゾォ?
てか、猫被ってる時と被ってない時の差がヤベェわ!
「やだよ。めんどくさい」
「じゃあ、昨日の写真ばらまこっと」
俺が断ると昨日撮った写真をチラつかす雨宮。
くっ、こ、こいつ策士か!?
「イッテマイリマス。イヤ 、イカシテクダサイ」
「うむ、よろしい」
俺はトボトボと肩を落としながら中庭にある自動販売機へと向かう。ここの自動販売機は120円から160円とそこそこの値段だ。
もっと安い自動販売機置いとけや!ボケ!なんて言いたくなる。世の中には全て100円で売ってる自動販売機があるんだぞ!クソババァに屈服しやがったハゲボケ校長!!!
自動販売機の前で。
「安いの買って行ってやろ。仕返しだ…」
俺は110円の水(雨宮の分)と130円の缶コーヒーを買う。
まさか、ひゃ、ひゃくじゅうえんの飲み物が売ってるとは…こ、これは得したぞ。ふふふ。
俺が買った缶コーヒーと水を回収するために蓋をあけ、水を手に取った時、誰かが俺の分の缶コーヒーを取り渡してくる。
「あ、ありがとう」
そう言って缶コーヒーを渡してくれた親切な人の方を見る。
「よぉ、黒崎。お前何をしている?」
「……えっ?先生?」
まさかの、まさかのまさかの、俺の前に立っていたのは俺を悪魔の部屋へと閉じ込めた張本人!あのアラサーのババァだ!
「そ、それはですね…へへへへ」
俺はヘラヘラしながらその場を去ろうとする。大切な130円で買った缶コーヒーを犠牲にした。だがこれは名誉の負傷だ。
俺がこの場を逃げ切るためには缶コーヒーを犠牲にするしかない。
すまない!缶コーヒー!!アラサーのババァにとられてごめんよぉ〜!
「おい、待て…忘れ物だぞ?」
はい、おわた。缶コーヒー身代わり作戦(名前は今考えた)が失敗に終わった。まさか、あの死に損ないのババァが(28歳だが)俺の作戦を見破るとは…。
もう逃げる事は出来ない。缶コーヒーを人質に取られただけならまだしも襟を掴まれた状態では逃げることができない。
「お前には色々と聞きたいことがあるが1つだけにしておいてやる。何故、抜け出してまで自販機に来たかった?」
えっ?なんでそんなどうでもいいことを?あっれれー?おっかしいなぁ。
だけどこれは弁解のチャーンス!
「そ、それはですね!先生!雨宮の奴にパシらされたんですよ!だ、だから今回は俺は悪くないです!」
「それは本当か?」
「は、はい!多分今あいつは俺が閉じ…反省文を書いていた部屋にいると思います!」
「なら、確かめに行こうか」
ククククク、ざまぁみやがれ!今度はお前が痛い目にあう番だぁ!雨宮!
というわけで反省文を書いてた部屋へレッツラゴー!イェーイ
♢
先生と共に部屋へと向かうと先生が雨宮を見つけた。
ククク、次はお前だ!雨宮!!
「これはどういうことだ?雨宮」
「そ、それはですね…」
口ごもる雨宮。ざまぁみろ!地獄へ落ちろ!
なんてことを俺が考えていると、突然雨宮が涙目になりながら先生に訴えかける。
「先生、聞いてください!私がたまたまこの部屋の前を通ったら…その…黒崎君に飲み物を買ってきてやるかここでまてと…そ、その強要されて…」
へっ?ナニイッテンノ?イミワカンナイ。
「そうか、それは怖かったな。安心しろ。私がこいつを成敗してやる」
えっ?ちょっと待って?なになになに?どういうこと?意味わかんないんだけどぉ!?
「お前、反省文を追加してやろうか?」
「や、やめてください」
俺は先生に子犬のように反発しながらチラッと先生の後ろに立っている雨宮へと視線を向ける。
すると雨宮が
てへ☆
……いやいや!「てへ☆」じゃあねぇよ!ふざけんな!ぶっ殺してやろうかぁ?
「こい、私の監視のもとでもう3枚反省文を書かしてやる」
な、何だと!?雨宮のやつ…はめたつもりがまさか俺がはめられるとは…許せまい!
俺は先生に引っ張られていき、部屋へと連れて行かれる。
この後めちゃくちゃ必至に反省文を書いた。いや、書かされた。