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「どういう訳か、あいつ(・・・)は俺を痛めつけるだけで殺さず、ここに飛ばした。何か理由があるのだと思う」


 ウィルの話を聞きながらイレーヌは安堵した。どんな魔族の気まぐれか知らないが、この子を殺さないでいてくれてよかった。


「……とにかく、その怪我を治しましょう。これからの事は、それから考えればいいと思います」


 イレーヌの言葉にウィルはほろ苦く笑った。


「……俺の怪我が治っても、俺を守って死んだ臣下達は生き返らない」


「……王太子様」


 どう声をかけていいか分からないイレーヌにウィルはすまなそうな顔になった。


「……すまない。君に言っても仕方ない事だな。それに、俺はもう王太子ではないからウィルでいいよ」


「では、ウィル様とお呼びします。申し遅れました。私はイレーヌです」


「……イレーヌ」


 ウィルは大切そうに彼女の名を呟いた。


「私は、この女子修道院の院長ドノーです。本来なら男性は立ち入りは禁止ですが困った人々を助けるのが修道院の掟。王宮にいるようなお世話はできませんが怪我が治るまで、ここにご滞在ください」


「……すまない。他に行く所がない以上、厄介になるしかないようだ。怪我が治ったら即刻出て行く。それまで、なるべく迷惑をかけないようにする」


「私が世話をするから大丈夫だよ。ウィル」


 アイリーンがにこにこと言う。


「……君は誰だ? なぜ、俺にまとわりつく?」


 ウィルは疑問を口にしたというよりは煩わし気だ。


「知り合いではないのですか?」


 イレーヌは思わず口を挟んだ。ウィルは彼女の名前を知らなかったようだが、これだけ彼にまとわりついていたのだ。知り合いだと思っていた。


「目覚めたら目の前にいた。全く知らない子だ」


「私も今までウィルの事を知らなかった。でも、一目で気に入ったんだ。だから、傍にいると決めた」


 勝手な事を言うアイリーンにウィルもイレーヌも眉をひそめた。


「……俺は全てを失って、これからどうなるか分からない身だ。君に係わっている暇はない」


 冷たく聞こえるだろうがウィルの身に起こった事を考えれば当然の言葉だ。


「国を取り戻したいなら協力するよ。私が頼めば、お父様はウィルを王にしてくれるよ」


「何を言っているんだ?」


 ウィルでなくてもイレーヌもアイリーンが何を言っているのか全く理解できなかった。


「私は、ああ、これは言ってはいけなかったんだ。とにかく私を傍におけば、ウィルにいい事があるのは確実だよ」


 アイリーンはそう言うが、イレーヌは彼女がウィルの傍にいれば迷惑にしかならないような気がして仕方なかった。


「……俺には、とてもそうは思えない」


 ウィルもイレーヌと同じ考えなのは、この科白で明らかだ。


「それに、幸運は自分で掴み取る。他人の力など借りない」


「えー、でもウィルはセブ……魔族に国を乗っ取られたんだろう。ただの人間のウィルに何ができるんだよ」


 確かに、魔族に比べれば非力な人間にできる事は少ない。だが、国を奪われたばかりの王太子であるウィルに言うべき科白だろうか?


 この子には他人を気遣う事ができないのか?


 そう思ったのはイレーヌだけではないらしく今まで黙っていたドノーが言った。


「王太子様……ウィル様はお疲れでしょうから私達は出ましょう」


 小うるさいアイリーンをウィルから引き離すためだろう。


「私はここにいる。ウィルの傍にいたいんだ」


「出て行ってくれ。俺は君にいてほしくない」


 ウィルがきっぱりと拒絶した。


「他人が傍にいては落ち着かないわ。今はウィル様を休ませるべきでしょう」


 イレーヌは言った。


「……人間には休息が必要だったな。全く面倒くさい」


 アイリーンは何やらぶつぶつ呟くと、さっさと部屋から出て行った。


 それに、ウィルはほっと息を吐いた。


「なるべく、あの子をあなたに近づけないようにいたしますわ」


 疲れた様子のウィルにイレーヌは言った。


「そうしてくれるとありがたいけど、君に迷惑を掛けたくない」


「大丈夫ですわ。困った方を助けるのは修道女として当然ですから」


 それを抜きにしても、イレーヌはウィルのためなら何でもしてやりたかった。


 ようやく再会できた我が子なのだから。





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