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「……魔族と人間の間に生まれた子供は、人間か魔族になるんですか?」
イレーヌは疑問に思った事を魔王に尋ねた。
「魔族と人間の間に生まれた子供は、魔族、人間、そして、魔族と人間、両方の特徴を持つ半人半魔だ」
魔王はイレーヌの疑問に答えた後、話題を変えた。
「馬鹿娘がね、僕に、この国を君にあげてほしいと言ってきた」
「……いくら娘が頼んでも、そんな事しないよな?」
言ったのはウィルだが、イレーヌもそう思う。
魔族に肉親の情がないのは、胎児だった我が子を彼が何のためらいもなく殺そうとした事で分かる。
しかも、魔王は先程から自分の娘に対して「馬鹿娘」と言っている。愛する女性との間に生まれた娘であっても魔王には彼女に対する愛情は全くないのだ。
「勿論さ。魔族よりもずっと弱い生物である人間に従いたくないから国を侵略してきた。いくら君が魔族の息子でも、人間に過ぎない君にあげる訳ないだろう」
絶対的強者である魔族、魔王ならではの科白だ。
「人間である君にだって分かる事が、何で、あの馬鹿娘には分からないのかね。本当に不思議だ」
――私が頼めば、お父様はウィルを王にしてくれるよ。
魔族のアイリーンは、娘である自分が頼めば魔王はウィルをゼドゥ国の王にすると本気で信じていたのだ。
「……俺を殺しにきたのか?」
ウィルは魔王に尋ねた。
「殺される」かもしれないというのに、ウィルはずいぶんと落ちついている。
代わりにイレーヌが動揺した。ウィルの言葉で初めて、その可能性もあると知ったのだ。
魔王はウィルが魔族セバスチャンの息子だと知っている。それでも、人間に過ぎないウィルに国はあげないと、特別扱いなどしないと、はっきりと明言した。
王太子だったウィルを殺す事が目的で来たのだろうか?
……もし、そうなら、ウィルを守れない。
イレーヌに魔刻印を押した彼は、かなり強い魔族だろう。それでも、魔族の頂点に立つ魔王に敵うとは思えなかった。
自分が死ぬのは構わない。むしろ、それを望んできた。
けれど、ウィルだけは何があっても生きていてほしい。
緊張した面持ちで魔王の顔色を窺うイレーヌの前で、魔王は何でもない事のように言った。
「いや、殺すつもりだったら、こんなに長々と君と話したりしない」
イレーヌは心の底から、ほっとした。
「この国とこの国の民の事はセブに任せてある」
つまり、この国の未来とこの国の民の生殺与奪は、セブことセバスチャンに委ねられているという事か。
「僕はただ君達に会ってみたかったんだ。セブが愛する女と息子にね」
魔王は、にこやかに言ってくれるが、イレーヌとウィルは同時に美しい眉をひそめた。
「……生物学上以外で、あいつを父親とは思ってない」
「……彼は私を愛してなどいないわ」
ウィルとイレーヌは相手が魔王だと分かっていても言い返さずにいられなかった。それくらい癇に障ったのだ。
「うーん。全く伝わってないんだね」
魔王は二人の返答に怒りはしなかった。ただ面白がるような顔をしている。
「まあ、無理もないね。最初は確かに、セブにとって君はリーンの身代わりに過ぎなかったから」
「リーン」は「アイリーン」の愛称なのだろう。
「……やはり、彼の想い人は、あなたの奥方なんですね」
魔族のアイリーンが彼の想い人なら「馬鹿娘」というはずだ。
魔王も知っているのだ。
セブ、セバスチャンが自分の妻を愛していて、その身代わりでイレーヌを抱いた事を。
「僕とほぼ同時に産まれたセブは他の魔族よりは特別だけど、それでもリーンだけはあげられないからね。だから、リーンが産んだリーンにそっくりな馬鹿娘をあげたんだけど、あの馬鹿娘じゃ、とてもリーンの身代わりは務まらなくてね」
誰も誰かの身代わりになどなれない。それが、いくらそっくりでも、母娘であってもだ。
人間よりもずっと長い生を生きているだろう魔王でも、それが分からないのだろうか?




