第九話
ラスト
ホームルームは皆が呆けたまま進み、担任の話を聞いていたのは とき だけであった。
「とき君、うちに編入するなら言ってくれればよかったのに」
「葵さんの勤めている学校を知らなかったので同じ高校とは思いませんでした。ちゃんと聞いておくべきでしたね。」
「いやいや。言わなかった私が悪いから~」
「「「「あめぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」
呆けていた皆が突如叫んだ。更に吹き出る文句。
「彼氏無しの私らに対する当て付けか!」
「近所の幼馴染ともそんな距離になれんわ!」
「つーか、犯罪だろぉ!」
歯を食い縛りながら言われると非常に悪いことをしているような気分になったが、葵さんは違ったようだ。
「はっ、馬鹿どもめ。もっと、頭を磨けぇ!高校生と結婚するのは確かに犯罪だが、私達はまだ婚約関係だ。だから犯罪ではない!」
法律では高校卒業と同時に結婚可能になるから、そこまでは公的には婚約関係なんだよね。同棲してるからほぼほぼ夫婦と言っても過言ではないと思うけど。
なんてことを考えていたら、とんでもない言葉が聞こえた。
「じゃあ、私を第二にしてくれー!!」
「な!抜け駆けは許さん!私こそ第二に!」
「私は第三でも第四でも構わないから~!!結婚してー!!」
・・・え?
「はいはーい。君らのような者がとき君の妻になれるかどうかはとき君次第でーす。そして、とき君は騒がしい女性を(たぶん)好まないかもー?」
「━━━━━━━━━━」
葵さんの言葉で教室内から音が無くなり、外からの喧騒だけが入ってくる。
開けていた口を瞬時に閉じ、姿勢正しく椅子に座ったからだ。
ただ、僕はそんなことより第二という単語と結婚が結び付かなくて非常に悩んでいた。
僕と葵さんが結婚することを知った上で第二でも良いからと言い、更に結婚を求める・・・?
つまり、愛人関係・・・に近いものを求められてるのだろうか?ただ、愛人というのは結婚はしないはずなので、愛妾みたいなものか?それをここで求めるものだろうか?僕は葵さんの夫なのに?この世界の常識が分からないから意図も掴めない・・・。
「静かになったので、日直ー」
「起立」
「礼」
「「「「さようなら!」」」」
「はい、さよーならー。あ、ときくーん」
結局言葉の意図は掴めなかったけど、呼ばれたから行こう。
「はい。どうしましたか?」
「今日学校に何で来たの?」
「電車に乗ってきましたよ。」
「うん。危ないから私が仕事終わるまで待っててね?」
「わかりました。どこで待てば」
「茶道部でお茶していかない!?」「っ!?」
いきなり後ろから声をかけられてビックリしたので、後ろを見ると2人の女の子がいた。
「茶道部?」
「そう!茶道部ならお茶出せるし、なんならお茶菓子も出せるから先生を待つにはぴったりだと思うんだよねー!」
「うんうんうん!暇になってきたら私達がこの学校のこと教えてあげられるし!邪魔ならいなくなるし!どうかなー・・・って!!」
最後がやたら強調されてる気がするけど、茶道部にお邪魔するのか・・・。これは一種の部活見学に当たるものだろうか?
「安心しろ二人とも。この学校には男性のお客様用の待機室はしっかり用意されてるし、お茶ももちろん出る。更に暇な時用に男性人気がある雑誌類も備えられている上にパソコンもある。だから、気にかけなくても大丈夫だぞ?」
「いえいえいえいえ!それじゃあ、二橋君が外部のお客様と同室になっちゃう可能性があるじゃないですかー。思春期には、大人と同じ部屋に二人っきりって結構きついんですよー?ですから、同じ年代しかいない茶道部の方がーー??!!」
なんだか、葵さんとポニーテールの女の子の間に押し合う気迫の境界線が見える気がする・・・。
「えっと、それはつまり茶道部で部活見学ってことですか?」
「え・・・?・・・うん!そうそれ!二橋君ももしかしたら部活に興味あるかもしれないと思ってねー?!!!!!先生もそう思いますよね?」
「くっ。確かに部活見学だが、しかし・・・」
「それじゃあ、二橋君。茶道部はこちらでございまーす。先生も後ほど入らしてくださーい。」
「あ、うん。」
僕はポニーテールの子とロングの子にエスコートされる様に茶道部に向かった。
「すぐに仕事終わらせて迎えに行くからね!待っててね!とき君ー!」
ちなみに茶道部の二人の後ろでは
「サッカー部なんてどうやっても時間つぶせねーよ・・・!」
「コンピ研・・・に連れていくと重傷者がなぁ・・」
「やめときな。そこの部活、男子耐性マイナス行ってるやつらばっかでしょ?二橋君なんて見た日にはあんたみたいに眼鏡粉々になるわよ。」
「コンタクト要検討案件だね。」
「尊さのあまりにコンタクト溶けるんじゃね?」
なんて会話がされていた。僕を見てもコンタクトは溶けないだろうし、眼鏡が割れたのは皆が暴れてたからじゃないかな?