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酔っぱらいと私

先日、うっかり「短編小説」と設定し投稿してしまいました・・・

「連載小説」として再度投稿いたします

いつもの仕事を終えた帰り道。


いつもの電車、いつもの靴、いつもの歩幅でマンションへと帰る。


去年購入したばかりの愛してやまない我がマンション。

定礎を灯す明かりがぼんやりと目に映り、口から無意識に安堵の息がもれる。

仕事、疲れるね。


視界に何かが映る。

ん?

フラフラと、左右に揺れる何か。


男の人?酔っ払い?

まだ20時前なんですけど。


ジーンズ姿にロンT。

学生だろうか。


時速1kmにも満たないであろう彼の速度は、私のそれを完全に下回り結果あっと言う間に追いついた。

マンションはもう目の前、さっさと追い越してエントランスへ入ってしまおう。

絡まれないうちに。


追い越そうとした瞬間、彼の体が私の右肩に接触した。

彼はそこで初めて近くに人がいる事に気付いたようだった。


彼は慌てるように顔をあげ、すぐにまたうなだれる。

「すいません・・・」

呂律が回らないほどに酔っているわけではなさそうだ。


その声をかき消すかのように、マンション敷地内に植えられた木々がざわめく。

初夏の風が気持ち良い。


「いえ、お気になさらず」


少し驚いたけれど、素直な謝罪の言葉に警戒レベルを若干下げる。

しかしここはさっさと立ち去るのが正解。


今度は肩を掴まれた。

な、な、何?


「すいません、上手く歩けなくて・・・」

彼は私の右肩をしっかり掴み、自分の体を支えていた。


まだ20時でどんだけ飲んだのだろう。

恐怖よりも呆れかえる。


これだけ酔っていれば、振りほどくのは簡単。

そして振りほどかれた彼の体はそのまま後ろに倒れ、間違いなく後頭部とアスファルトは大激突するであろう。


どうしよう。

救急車を呼ぶべきなのだろうか。

それは・・・私が呼ぶべきことなのだろうか。


仮に救急車を呼んだとして、一緒について行くことになったりはしないだろうか。

かと言ってマンション前に放置しても良いものか。


とりあえず彼は立っているのもやっとのようで。

そして私はそれを支える為に立っているのがやっとだった。

自宅は目の前なのに、何故に私はここで立ち往生しているのか。


「こんばんは、大丈夫ですか?」

後ろからまた新たな男性の声が。


振り返るとスーツ姿の男性が、心配と怪訝さを足して割りきれないような顔をしてこちらを見ていた。

背が高く、細身のスーツがとてもよく似合っている。

さわやか系ですね。


そうだ、この人に事情を話してすぐ近くの交番へ一緒に行って貰うのはどうだろう。

2人でならなんとか運べるかもしれない。

頼んでみようか。


「具合悪そうですね。何階ですか?良ければ部屋の前までお手伝いしますよ」

さわやか系スーツ男子は、さわやかな口調で大変さわやかなことを言い出した。


あ、違います。

この酔っ払いは私の同居人ではないですただの赤の他人です。


と言う間もなくスーツ男子は彼の左肩をひょいと抱えてエントランスへと歩き始めた。

やがてオートロックの扉の中へと消えていく。


あ・・・住人の方。

同じマンション。

つまりご近所さん。


だから「こんばんは」だったのですね。

スーツ男子の優しさに、今週で1番心が洗われた。


何と言う親切な人だろう。こんな素敵な人が同じマンションの人で良かった。

好感度は急上昇。

と、同時にいまさら違いますと告げる難易度も急上昇。


既にエントランスは通り抜け、3人は今エレベーター前にいる。

言えない。

もう言えない。


例えこの酔っ払いが私の部屋に運ばれることになっても。

いや、これからそうなるのだが。


「ありがとうございます。701号室です」

こう言う他に一体何と言えただろう。


ご丁寧に本当にドアの前まで運んでくれた。

後ほどお礼にと部屋番号を尋ねるもスーツ男子はやはりさわやかに手を振り去って行った。

さわやか過ぎて周囲にマイナスイオンすら感じる。


で、これはどうしよう。

とりあえず部屋の中か。


1番くつろぐ場所だから決して妥協はするまいと、ウォルナットの色味と形のシンプルさに惚れて選んだセミダブルベッド。


全くもって不本意ながら、今ここに見知らぬ酔っぱらいが眠っている。

とりあえず、足だけでも縛っておこうかしら。


身の安全のために。

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