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即落ちから始まる異世界ライフ!~生きているとは言っていない~  作者: くくるカン!
第1章:始まりの火の鳥
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第5話:逃走

「んあ?」


 間抜けな声と共に火彩は目覚めた。

 寝ている間に垂れたのか、口元には涎の後があり寝ぼけ眼と相まってよけいに阿保面に見える。


「あれ?タンドリーチキンは?」


 どうやら涎の原因は夢らしい。

 おそらく火の鳥を食べた事がそんな夢を見た原因だろうが、燃え盛る炎と香辛料を一緒にしている辺り残念臭が漂ってくる。


「んぅ~……岩?」


 体を起こして、手を組んで伸びをして、その手を地面に戻して……そこでようやく火彩は自分が布団で寝ていないことに気が付いた。


「どこだここ!?ってか……なんで俺は裸なんだッ!!?」


 そして何より自分が真っ裸であることにようやく気が付いた。

 これを遅いと取るか早いととるかは人によるだろう。

 ちなみに服はゾンビ時は着ていたが、二度に渡る炎上で塵も残らずに燃え尽きてしまっている。


 しばらくの間混乱していた火彩であったが、数分もすると落ち着きを取り戻した。

 そして、冷静に記憶を辿って思い出す。

 異世界召喚、自由落下、その結果の……死を。


「…………なんで俺生きているんだ?」


 記憶を漁る作業を終えて火彩が漏らした第一声がそれだった。

 それは当然の疑問だった。

 記憶が正しければ自分は確かに死んだはずなのだ。当時は訳が分からないままに死んでしまったが、あれは確実に墜落死している。あんな高度から人間が落ちて無事な訳がない。


(というかちょっとは焦れよ、過去の俺……)


 異世界召喚に興奮するあまり死の恐怖をまるで感じなかった自分の危機管理能力に戦慄しつつも、火彩は状況を把握していった。

 その結果が……。


(まったく分からん)


 死亡した後どうやって自分が復活したのか一切不明という事だった。

 ここが異世界ならばゲームみたいに死者復活の魔法みたいなものもあるかもしれないが、周りにはそんな事をしてくれそうな人物はいないし、そもそも自分以外にこの洞窟には人はいない。広さもワンルームマンションくらいしか無いので隠れているという訳でもないだろう。出入り口も天井の穴以外には存在していないし。

 洞窟の壁はキラキラした紫色の水晶みたいなもので覆われているがこれが原因だとも考えられない。まさにお手上げ状態だ。


 よって火彩は考えることを放棄した。

 分からないものは分からないのである。

 何故だかは知らないが今生きているならオールオーケー。火彩はポジティブシンキングで生きている男なのである。


(となると問題は……どうやってここから出るかだな)


 そう考えながら洞窟を見渡す。

 洞窟は先ほど見た通り、紫水晶みたいな岩肌で囲まれたンルームマンションくらいの空間だ。それ以外は本当に何もない。しいて言えばところどころに苔が生えているくらいか。

 食べるものもなければ湧き水すらない。こんな空間に何日もいれば待っているのは餓死だ。

 何故だかは分からないがせっかく墜落死から復活出来たのだから、そう何度も死にたくはない。

 となると早々にこの洞窟から脱出しなければならないのだが、今も確認した通りこの洞窟に出入り口は無い。

 あの天井に空いた穴を除いては。


「とは言ってもなぁ……」


 そう愚痴りながら天井を見上げる。

 そこには青々とした空が見えるだけで、以前見えた双子月は今は見えない。いや、問題はそこではない。

 高いのだ。それも微妙に。

 目算では高さ3メートルちょっとといったところか。ちょうど体育館にあるバスケットゴールくらいの高さだろうか。助走を付ければ指先くらいなら届かないことはないだろうが、淵に捕まって体を引き上げるとすると話は別だ。


「まぁ、ものは試しで」


 そう呟きながら洞窟の端の方まで移動する火彩。

 無駄だと分かっていても男にはやらねばならぬ時があるのだ。この場合はちょっと意味合いが違うが。

 それに跳んだ時に外の景色がちらっと見えるかもしれない。そうすればここから脱出出来るヒントが得られるかもしれない、という思惑もあるのである。一応まったくの考えなしではない。


 お試しなんだから最初は軽く……と思って助走を軽くしたのが幸いした。

 穴の手前で踏切り、跳躍には結構力を込めて火彩は跳び上がった。


 ほんの5メートルほど。


「は……はぁ?はぁあああ!?」


 見事な「は」の三段活用を決めながら火彩は地面に着地した。訂正、墜落した。

 混乱して綺麗に着地する余裕がなかったのだ。それと跳んで頂点まで達したらすぐに地面だったので対応しきれなかったのもある。

 ともあれ無事に洞窟から脱出できた火彩であったが、今の彼の頭の中はそれどころではなかった。


「ちょッ?え?は?俺どうなってるの?今めっちゃ跳んだよな!?」


 穴の中を覗き込んで高さを確認したり、頬を抓って夢か確認したり、あまり痛くなかったので今度は結構強く頬を殴ってみたら吹き飛んで大変だったりした。


 結論。


「チートだな」


 そう火彩は結論付けた。

 チート。異世界ものの定番で、主人公が他者よりも圧倒的に優れた能力を大抵は大した努力をすることも無しに手に入れることを指す。若干語弊あり。

 そして、異世界転移ものの定番では召喚された時に神に与えられたり、偶然手に入ったりする。火彩はこのパターンではないかと当たりを付けた。

 直接の正解という訳でもないが、まったくの外れでもないのは流石と言うべきだろうか。


 とりあえず能力の確認をしてみよう……そう思って顔を上げ、火彩はようやく辺りの風景が目に入った。


「おぉ……」


 そこは一面が緑で埋まっていた。

 現代日本では今や見ることが出来ないであろう大森林。

 それこそパラシュートなしスカイダイビングをした時に見た広大な森が視界いっぱいに広がっていた。


(ん?そういえばあの時……)


 今まで見たことがない大自然に感動しながらも、火彩は頭によぎった記憶に見過ごしてはいけないものが映った気がして再度記憶を掘り起こしていた。


(あの時見たものは……)


 空に浮かぶ赤と青の双子月。……今は見えない。

 空を駆けるペガサスの群れ。……また見えたらいいな。

 緑が深い広大な大森林。……今見ている。

 森の中にある活火山。……おそらく今いる山の事だろう。

 山の中腹に寝そべっているドラゴン。……ドラゴン!?


「ドラゴンッ!?」


 思考をしていた筈が思わず言葉に出してしまった。

 いや、今はそれどころではない。


 火彩にはやらなければならないことが沢山ある。

 今自分がどこにいるのか、ここが本当に異世界なのかも確かめなければならないし、急劇に上がった自身の身体能力、それがどれほどのものかも把握しておきたい。そして何より未だに素っ裸、生まれたままの姿なのである。せめて腰蓑くらいは巻いておきたい。

 そう色々とやらなければならないことが多い火彩であるが、その最優先事項が今ここに更新された。

 すなわち……。


「逃げろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 1秒でも早いここからの逃走である。


 ドラゴンと戦う?大抵の小説やゲームでも作中でほぼ最強種として描かれている相手に初期装備で挑めと?初期装備どころかマッパなのに?

 チート能力で余裕?確かに初っ端からドラゴンを倒す展開も無くはないけどノーサンキュー。てか、まだ自分の能力の確認も出来てないのに戦おうとか無謀すぎ。

 見つかったらいけないのに大声で叫ぶとか馬鹿じゃないの?俺もそう思うよ馬鹿野郎!!ノリで出ちゃったものはしょうがないだろぉぉおおおおおおおおおおおおお!!


 以上、村山火彩の第38回緊急脳内会議議事録から抜粋。

 まあ、そのドラゴンは火の鳥によって瀕死の重傷を負わされて逃走しているので今はいないのだが、それを火彩が知る由もない。


「ちょっ!わっ!これ……早すぎぃ!!……あっ」


 途中上がり過ぎた自分の早さについていけずに足を滑らせ、50メートルほど坂を転がり落ちるなどのハプニングなどもあったが、ひとまずは無事に(?)火彩は森の中へと逃げ込むことに成功したのだった。

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