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即落ちから始まる異世界ライフ!~生きているとは言っていない~  作者: くくるカン!
第1章:始まりの火の鳥
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第11話:甲冑騎士

 まずは飛んでくるであろう子供を抱きとめて、次に男たちにOSHIOKIをしなくては……。

 そう考え受け止めるためのポーズに移行しようとして……そこで火彩はその不思議な光景を目にした。


 今のまさにこの瞬間まで袋を投げようとしていた男の手がピタリと止まり、そのままゆっくり下がっていったのだ。

 一瞬さすがに躊躇したのかなとも思ったが、そうでもないらしい。

 男の顔は恐怖と驚愕に彩られ、体もガクガクと震えている。

 まるで狂暴な肉食獣にでも遭遇したような、そんな雰囲気だ。

 そして、小男の方はというと……。


「ひぃぃいいいいい!!お、お助けぇえええええええ!!」


 逃げ出していた。あの身長と体型でどうやったらそんなに速く動けるのというスピードで。


「へ?あ、はっ!お、おい!一人で逃げるな!!てか、速いなッ!?」


 そのあまりの逃げっぷりに大男の方も正気に戻ったようで、袋を手放すと小男の後を追って逃げ出した。


「あっおい!」


 落とされた子供のことに怒って声を荒げた火彩であったが、男達には聞こえていなかったようでそのまま逃走していく。


(はぁ、まあ子供が無事ならいいか。あのくらいの高さならほぼ怪我もないだろうし。……しかしまぁ見事な逃げっぷり……)


 男達が逃げ出した原因は不明だが、結果オーライならそれでもいいかと逃げる男達の背中を見送る。

 その視界に異物が写り込んだ。


 森の中に佇む異様な雰囲気の甲冑騎士。

 その手が霞んで見えたかと思うと、小男と大木を通過する光の線が見えた。

 幸いというか、悪運が強いというか、小男の方は運よく転んでその剣線から逃れることが出来たが、大木の方は全くの抵抗もなく切断され、その巨大な体が轟音と共に地面に倒れ落ちる。


 あれはまずい……!

 そう火彩の警鐘が全力で鳴り響く。

 見る限りその腕前は師範クラス……いや、それ以上。しかも大木を一刀両断したことからも分かるように、自分と同じように肉体強化がなされている。

 到底自分が勝てる相手だとは思わなかった。


 だが、その騎士の視線が倒れている小男を捕らえているのが見えると、体が咄嗟に動いた。


 バァアアアァン!!


 剣が振り下ろされる寸前で拾い上げ投げた石は見事、騎士に命中。

 甲高い音を立てて騎士が吹き飛び、数メートル後ろの木にぶつかって止まった。

 甲冑を着ているとはいえ、普通の人間なら痛みでしばらくは動けないであろう一撃。

 しかし、向こう側が見える、胴に空いた風穴からその正体を予想していた火彩はこれで終わりだとは当然思っていなかった。


「そいつを連れて早く逃げろ!」


 先ほどまで抱いていた怒りも忘れ、呆けている大男に声をかける。

 何が起きたのか分かっていないのだろう。大男はキョロキョロと辺りを見渡すとようやくこちらに気が付いた。


「早く!」


 その反応の鈍さに若干イライラしながら声を荒げると、大男は礼を言いながら小男の救助に向かっていった。

 案外根は素直なやつなのかもしれない。


 その二人組を視野に入れつつ、火彩は吹き飛んだ甲冑騎士の方に視線を映す。

 すると火彩の予想の通り、通常ならば痛みで身動きが取れない程のダメージの筈なのに騎士は平然とした様子で剣を手に取って立ち上がろうとしていた。

 想像以上のダメージの無さに、火彩は冷や汗が流れるような気がした。


「おい!あんたは逃げないのかよ?」


 と、小男を助け出した大男が声を掛けてきた。

 どうやら一応はこちらの身を案じてくれているらしい。

 本当に根は良い奴なのかもしれない。子供を攫ったのは許せないけど。

 

「俺はいい」


 だが、火彩の返答は冷たいものとなった。

 理由は色々とあるが、一つは今の攻撃で騎士の意識が完全にこちらを向いたこと。

 兜で騎士の表情は見えないが、先ほどの比ではないくらいに強烈な殺気が肌に突き刺さっている。

 例え逃げたとしてもあの騎士はこちらを追い続けることになるだろう。

 そして二つ目の理由は……。


(この子を放っていくわけにはいかないからな)


 視線を子供が入っているであろう麻袋に向ける。

 先ほど落とされたことで気絶でもしたのか、あれから声は上げてはいない。しかし、微かに袋が上下していることから生きていることは確認できる。

 あの存在の正体が自分の想像通り……ゾンビなのだとしたら自分が逃げた場合この子は確実に襲われるだろう。それは看過することは出来ない。

 なら抱えて逃げたらとも思うが、どうも先ほど戦闘スイッチが入ってから体の調子がおかしい。

 体の隅々まで力が溢れているというか、絶好調過ぎて力の制御が出来ていない感じなのだ。

 この状態で抱えて逃げたら、ひょんなことからプチっと潰してしまいそうだ。

 つまり火彩に残される道は迎撃しか残されていなかった。


「……ちっ、そうかよ」


 そう大男が言い残して二人組は去っていった。

 その後ろ姿を見送りながら火彩は纏っていたマントを外し、麻袋に被せた。

 これで多少攻撃の余波などがあっても大丈夫だろう。気休めくらいにしかならないが。

 足元の石を何個か拾うと火彩はこちらに駆けだしてきた甲冑騎士に視線を向けた。


「それじゃあ――戦闘開始しますか」


 夜の帳が下りた森の中、死闘が始まった。

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