二人でお喋り
「ええ! その人から情報を聞き出せたの、ジーク、すごい! その都遣えの人は、えぇと……」
「マシューさんだよ、リズ。」
「そう、マシューさんだ。ねえジーク、マシューさんから資料とかもらったりしても、一人だけで先に見ちゃだめだよ。一緒に見ようね。」
リズが懇願するように出した声には、甘えるような響きを感じた。
その言葉に、ジークは顔が熱くなった。
ごまかすように、分かったよ、と素っ気なく言う。
今更ながらジークは、人魚であるリズは人間とほとんど変わらないんだな、と思った。
人魚といえば、人間を魅了して水に引き摺り込むとか、歌声で海を荒らすとか、怖いイメージがあった。
でも目の前にいるリズは、温かくて優しい、女の子だ。
リズの熟れた果実のような首飾りが、夕日に当たって きらっと輝く。
――そういえば宝石の中には、人魚の涙が陸に打ち上げられることで宝石になるっておとぎ話のもあったっけ。
リズの甘い笑顔が、夕陽に溶けていきそうなほど見事な夕焼けの中。
リズと会うのはいつも夕方だな、ジークはそんなことを思いながら、リズと微笑みながら見つめあっていた。
「ねえねえ、これ、人間には無いって本当? 見て見て!」
そう言ってリズは、縦に回るようにして水に潜った。そして透明な水越しにジークを見る。
彼女が指で、彼女の首元をとん、とんと指す。
すると、リズの首元に くぱぁ、と割れ目ができた。開いたり閉じたり、時々水晶のような珠がその割れ目から出て、空気に触れては弾けた。
それを見て、ジークは はっと閃いた。
「エラ呼吸! エラだ!」
「せいかーい。」
そう言って、リズが ばしゃっと、小さな水しぶきをあげて湖から出てきた。
嬉しそうににこにこしているリズ。ふっと、ジークは彼女の髪が目に入った。
金とも茶色ともとれるような、そしてほんの少し桃色の差す美しい髪。ふわふわした髪に、星のように飾られた宝石の粒たちがきらきら輝いている。そしてきらきらしているのは宝石だけではなかった。宝石かと思っていたいくつかは、水の珠だったのだ。
「リズ、髪は濡れてないんだね」
彼女の肌は濡れているのに、髪の毛だけは濡れず、水は珠となって弾かれている。
きょとんとしているリズ。ジークはおもむろに自分の頭に向かって水をかけた。
濡れてぺちゃんこになったジークの頭。ジークの金色の髪から、ぽたぽたと雫が垂れる。
「ほら。僕たち人間はこういう風に、髪が水を吸収するんだ。」
リズは、何も言わなかった。ただただそんなジークの様子を凝視している。
ジークが首を傾げたその時、同時にリズが声を上げた。
「こんなに見すぼらしくなっちゃうなんて! 可哀想に。それ、元に戻るの?」
それを言われたジークが、聞いた途端に顔を硬くした。
「見すぼらしいって……そりゃ、俺も初めて水に濡れた犬とかを見たとき思ったけど……。」
しかしリズは、眉を下げて祈るような目で見ている。
それを見て、ジークも言葉を付け足す。
「……大丈夫、乾けば戻るよ。半刻もすればすぐに。」
そう言うと、リズは ほっと息をついて、その場でくるくると回り出した。
「良かった! ジークの髪、きれいだから気に入ってたの! 早く乾くと良いわね。」
褒めてもらえて嬉しいような、そこまで言われて悲しいような。
ジークは頭を ぷるぷるっと振って、自分の髪についた雫を早く落とそうとした。
今度はペットの犬を連れてきて、それをリズに見せてみよう。その時のリズの反応を思い浮かべ、少しだけ にんまりと笑った。