副業(ふくぎょう)
「やあっ!」
「ブモッ!?」
全長が3メートルを遥かに超えると見られる猪に似た魔獣が、
自分の半分にも満たない身長の少年に、その突進を正面から受け止められて、
驚きを多分に含んだ鳴き声を上げる
「よし!ナイスだぞケン」
動きが止まった魔獣の首筋へとシュウが飛び乗ると、
すぐさま魔導釘打ち機にて、魔獣の脳天をバス!バス!バス!と打ちぬいた。
一瞬ビクッと硬直した魔獣は、
直ぐにグルリと白目を剥いてからズズ~ン!と横倒しに倒れた。
「なかなかの大物が獲れたねシュウ兄ィ」
ケンが、魔獣の転倒に巻き込まれない様に飛び退いていたシュウに、
そう話し掛ける
「おう!鮮度が落ちない内にトレウスに運んで解体しちまおうや」
「オッケー」
ケンは、そうシュウに返事を返すと、
魔獣との戦闘に入る前に、予め近くに隠して置いた魔導バックを持って来ると、
魔獣の死体を収納した。
シュウとケンが、アナポーの街を出発してから3週間程が経過しており、
魔導トレウスにて軽快にゴッホヨリ街道を飛ばして来たので、
ルクシア共和国の首都であるポルポートまでの道程の半分ほどを消化していた。
当初の予定では、途中で寄る街や村で2人が造った家具を売ったり、
傷んだ建物の修理仕事を受けて稼ぎながら進む予定であったが、
ラッセン村や、アナポーの街は、普通の村や街と比べると比較的に豊かであった様で、
シュウ達が造る様な精密な造りの家具を購入したり、
本職の大工に家の修理を頼むと言った人は極少数派で、
殆どの人は自分で家具モドキを作成したり、
素人修繕にて済ますのであったのだ。
そこで、当初の予定を変更して何が一番売れそうかと調べてみたところ、
腕の良い猟師が居る街や村が意外と少なく、
食肉が不足している所が多い事が判明したので、
2人は魔獣を狩って食肉を売る事にしたのであった・・・とは言っても、
魔獣を仕留める事は出来る2人ではあったが、
如何せん、大型の魔獣などを解体する技術が無いので、
最初の内は、鳥タイプや小動物タイプなどの魔獣を仕留めて、
うろ覚えの知識にて血抜きをしてから、
内臓を取り去った後に、皮剝ぎなどをして売っていた。
それが、或る日の事、
いつもの様に街道を魔導トレウスで飛ばしていると、
突然大きな牛に似た魔獣が、街道横の森から飛び出して来て、
その時にトレウスを運転していたケンが急ブレーキを踏んだものの、
間に合わず衝突してしまい魔獣は命を落としてしまったのであった。
トレウスには状態保存の付与が施してあったので傷一つ付かず事無きを得たが、
牛の魔獣の死体を、このまま置いて行くのは流石に勿体が無いと2人で話し合った結果、
何とか解体してみようとの話になり、取り敢えず死体を魔導バックに収納してから、
トレウスの荷台にある、謎空間内の家の台所のテーブルの上にシートを敷き、
その上に、牛魔獣の死体を出した所、元々から台所に完備されていた
見た目は昭和の香り漂う魔導冷蔵庫が突然、
『自動解体機能をお使いになられますか?』との音声を発したのであった。
シュウが直感的に「ああ、頼む。」と告げると、
テーブルの上の牛魔獣は、革と骨と魔石を残して消え去り、
シュウが魔導冷蔵庫の扉を開けて見ると、そこには500グラムぐらいの大きさ毎に、
ビニールで真空パック詰めされた肉とモツが入っていたのであった。
「こんな便利な機能が付いてるなら、取説書でも付けといてくれりゃ良いのに・・・」
「ホントだね、シュウ兄ィ」




