女神汁(めがみじる)
シュウとケンは、コウヤサン教会の山門へと続く、
なだらかな上り坂の手前にある、少し広めの広場で立ち止まると、
後方の暗闇へと向かい誰何した。
「おい!何処の、どいつらだかは知らんが、
いつまでもゾロゾロと附いて来られたら、うっとおしいんで、
そろそろ、この辺で出て来てくんねぇかな?」
「余計な事は早く済ませたいよね」
「ふん!我々に気付いておったのか」
「我らに気付いていながら、
大声で助けを呼んだり、逃げたりもせんとは馬鹿なガキ共だな」
「然り然り、この辺りでは人気も無いから、
大声を上げたところで誰の助けも来んというのにな」
言葉と共に暗闇の中から、先程、商業ギルドにて同席していた領主の取り巻き達が、
用心棒らしき者らを引き連れて、その姿を現した。
「やっぱり、お前らかよ、
まあ、この街で俺とケンをゾロゾロと附けて来るなんてヤツらは、
お前らぐらいなもんだからな」
「領主様から、僕達と係わらない様に言われていたと思うんだけど、
良いのかな?」
「御領主様は、あの『水』が持つ価値をお分かりになられて居られんのだ!」
「そうだ!あの『水』に関する権利を手中に納められれば、
例え、相手が国家元首閣下と言えども恐るるに非ず!」
「然り!あの『水』を、我が教団の物と出来れば、
我が教団は世界規模の組織にも成れるというものよ!」
「まあ、確かに、あの『水』が宗教と相性が良いのは否定出来んわな、
布教とセットで広めて行けば世界規模の宗教団体も夢じゃ無いかもな」
「何しろ、女神様から与えられた『奇跡の水』だもんね」
「そう言う事だ!そうと分かれば痛い目に遭わない内に、
契約書を我々へと渡し、この譲渡契約書へとサインするんだな」
「我らが雇い入れた後ろに居る者達は、元D級冒険者の強者どもだぞ」
「与えた武器は魔鋼製の物ばかりだから、お前たちには万に一つの勝ちも無いぞ」
「こいつら、自分らの勝ちを少しも疑って無いみたいだな」
「まあ、僕もシュウ兄ィも見た目は子供だからね」
「何をゴチャゴチャ言って居るのだ!
さっさと契約書を出さんか!」
「少し痛い目に遭わせてやった方が素直になるのでは無いか?」
「そうだ!手足の一本も、圧し折ってやれば、
泣いて差し出すに違いない!」
「へ~、おいケン、
こいつら俺達の手足を圧し折るんだってさ・・・」
「それは大変だねシュウ兄ィ、そうなったら痛そうだから、
僕達も少しは抵抗しなけりゃならないよね」
シュウとケンは、其々の背中から魔導リュックを下ろして、
シュウは魔導釘打ち機を、ケンはトレント製の木刀を取り出しながら、
そう言った。




