第一異世界人発見
「もしシュウ兄ィが言う様に、僕達をこの世界に贈った神様がひねくれてた場合、
地球に帰るのに時間が掛かるのは困るな~
あっ!そう言えば僕、
今夜の朱莉の誕生パーティーに出なきゃならないじゃん!
どうしよ~」
ケンは、娘の誕生パーティーに出席出来ない可能性が高い事に、
頭を抱えた。
「ああ、それは多分、大丈夫だと思うぞ」
「どう言う事?シュウ兄ィ」
「異世界に送られた場合は、元の世界に帰ったら、
全然、時間が経過していなかったってパターンが多いんだよ、
まあ、中には最初から居なかった事にされるなんてのも有るがな・・・」
「何それ!?時間が経ってない場合だったら良いんだけど、
僕が居なかったってタイプだったら、朱莉や蓮はどうなっちゃうの?」
「そりゃ、父親が居なかった事になるんだから、
生まれて来ないか、他の父親の元に生まれるんじゃないのか」
「そんなのヤダよ!」
「そうだな、ちゃんと、お前が家族の元に帰れる様に俺も協力するから、
2人で頑張ろうな」
「うん、ありがとう!シュウ兄ィ」
「さて、取り敢えずは、
俺達が、どんな世界に送られたかを調べなきゃならないんだが、
どっちに進めば良いんだろうな」
「そうだね」
2人は、トラックの窓から周囲を見渡すが、
そこから見えるのは、一面に広がる緑の草原のみであった。
「2人で、こうして草原を眺めてても仕方が無いから、
適当に進んで見るしか無いか・・・
ケン、取り敢えず適当な方向に向かってトラックを走らせてみようぜ」
「うん、分かった。シュウ兄ィ」
ケンは、そう言うとトラックのキーを捻った。
すると、微かな振動の後に、
ヒューンというモーターの様な音が、し始める
「へぇ、エンジンみたいな音じゃ無くて、
モーターみたいな音がするんだな、こりゃ静かで良いや、
もし魔獣とかが居る世界としたら、
エンジンの音を聞いて寄ってくるかも知れないからな」
「シュウ兄ィ!もしかして、このカーナビ生きてるんじゃないかな!?」
大きな声で興奮した様子の憲太が尋ねて来たので、
シュウが、トラックのダッシュ・ボードの上に乗っているカーナビへと目を転ずると、
地図画面は緑一色で表示されているものの、
画面下部にある現在地の表示に『ルクシア共和国ガスーキ草原』と表示されていた。
「おおっ!こりゃ、もしかすると、
もしかするかもな・・・」
シュウは、そう言いながらカーナビの画面をタッチして、
30メートル表示にセットされていた地図画面を拡大していく、
すると、一緒に画面を見つめていたケンが声を上げた。
「シュウ兄ィ、この茶色い線って道じゃないの!?」
「ああ、多分そうだろうな、
左手の方向に向かって30キロぐらい進んだら出られそうだぞ」
「やったねシュウ兄ィ!
これで、僕達、知らない世界だけど迷う事が無くなったじゃん」
「ああ、それは良かったんだけど、
カーナビの事は、他の人には秘密にしとかなきゃダメだからな」
「何で?」
「この手の世界では、地図ってもんが貴重な場合が多いんだよ、
いい加減な地図が殆どの世界で、
正確で、しかも自分の居る位置がピン・ポイントで分かるなんて道具が、
ある事を知られたら、どうなるか分かるだろ?」
「うん、偉い人に寄越せって言われるか、
盗もうと狙われるかだね」
「そう言う事だな」
2人は、カーナビの事は機密事項の扱いとする事に決めて、
道らしき表示がある方向へと向かってトラックを発進させた。
「こりゃ、見た目は変わった感じがしないけど、
トラック本体も大分、変ってる感じだな」
暫く、ケンが運転するトラックの助手席に座って、
流れる風景を眺めていたシュウが、そう呟いた。
「何で、そう思ったの?シュウ兄ィ」
「だって、さっきから余り揺れを感じないじゃないか」
「そうかな?僕は余り前と変わらない感じがするけど」
「日本の、綺麗に舗装された道路と同じに考えちゃダメだぞケン、
草で見えないけど、地面は相当デコボコしてる筈だから、
このトラックの固いサスペンションなんかで走ったら、
本来なら、こうして会話をするにしても、
舌を咬みそうなぐらいに振動してる筈なんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ、
じゃあ、他にも何か変わってる所があるかも知れないね」
「そうだな、まあ、それは使ってる内に、
追々と、分かって来るだろう」
「そうだね」
2人が、草原をトラックで走って行くと、
カーナビに表示されている茶色の線が段々と近づいて来て、
自分の居る場所を示す赤点が、茶色の線と交わる時を迎えると、
2人の目の前に、3メートル程の幅がある、土の道が姿を現した。
「おお~!やっぱり、道で合ってたか、
しかも、馬車が通ったらしき轍の跡があるから、
街道的なもんかも知れないな」
「やったね!シュウ兄ィ」
「よし!道に出た事だし、
次は、村や街に行く様だな」
シュウは、そう言うとカーナビの地図を拡大して行って、
村や街があるかを調べ始める
「どう?近くに村や街がありそうかな?」
「おっ!50キロぐらい先に村があったぞ、
やっぱり、この道は街道みたいだな『ゴッホヨリ街道』ってナビに表示されているな」
「村の名前はなんて言うの?」
「『ラッセン村』って言うらしいな」
「ねぇシュウ兄ィ、その村に向かうのは良いんだけどさ、
僕達、全然お金を持って無いんだけど大丈夫かな」
「あっそうか!日本の金じゃ使えないもんな、
こりゃ、途中で何か売れるもんでも造らなきゃなんないな」
「造るって、何を造るの?」
「家具みたいなもんが良いんじゃないか?
折角、建築魔法に『切り出し』とか『造作』ってやつが有るんだから、
使わない手は無いだろ」
「そうだね、それに家具なら造り慣れてるから良いかも知れないね」
シュウとケンは、木材を加工する技術を向上させる為の一環として、
父親である親方の圭太から家具作りをやらされていたのだ
その腕前は、かなりの域まで達して居り、
新築のお祝いなどで、お客さんにプレゼントする許可を父である親方から、
与えられる程にまでなっていた。
「そうと決まれば、村へと向かう道中で森を見付けて、
木を採取しなきゃならないな」
「勝手に森の木を切っても大丈夫なのかな?」
「多分、大丈夫だと思うけど、
途中で誰かを見かけたら聞いてみた方が良いかも知れないな」
「そうだね」
2人が、『ゴッホヨリ街道』を『ラッセン村』へと向かってトラックを走らせ始めると、
30キロ程進んだ辺りに森が見え始めたので、一度トラックを停車させる
「やっぱり、ナビで濃い緑色に表示されてる場所が森みたいだな」
「そうだね、その辺は日本に居た頃と変わらないみたいだね、
あっ!シュウ兄ィ、今、あそこの森から出て来たのって人じゃない?」
シュウが、ケンの指差す方向を見ると、左肩に弓らしき物を、
そして右肩には獲物らしき物を担いだ人物が森から出て来たのが見えた。
「そうみたいだな、よし!
ケン、急いでトラックを走らせるんだ、
第一異世界人とコミュニケーションを図ってみるぞ!」
「うん!分かったよ」
ケンがトラックを走らせると、
相手は徒歩なので、アッという間に追い付く事が出来て、
気配を感じたのか、その人物は振り返ってシュウ達が乗ったトラックを、
訝しげな様子で眺めていた。
その人物は、見た目は普通の人間の男性の様に見え、
その様子から、どうやら、シュウが危惧していた様な、
トラックに対する警戒心は無い様であった。
「よし、ちょっと俺が行って、話してくるわ」
「気を付けてねシュウ兄ィ」
「おう!」
シュウは、トラックを降りると、
攻撃の意思が無い事を分かって貰う為に、
両手を上に上げ、男性に近付きながら声を掛けた。
「すいませ~ん、俺達、この辺に来たの初めてなんで、
ちょっと、お聞きしたい事があるんですが、
今、大丈夫ですか?」
「#&%*$&%&&#%$」
すると男は、シュウに聞き覚えが無い言語で返事を返した。
「まさかの異世界言語補正無しかよ!?
これって、どんな無理ゲー!?」
「な~んちゃってヅラ、ちょっとした冗談ヅラよ」
「たちの悪い冗談やめろよな、オイ!」