古き良き日本家屋(にほんかおく)
「まあ、冗談はさておき・・・」
「冗談なのかよ!
神父の割には下品な冗談だなオイ!」
「異世界ジョークってヤツじゃないかな?シュウ兄ィ」
「当教会を造られたゴジュウショク様の為人は、
ある程度のご理解を頂けましたかな?」
ポキール神父は、とてもあの様な下品なジョークを飛ばしたとは思えない
慈愛に満ちた微笑みの表情を浮かべてシュウ達に問い掛けた。
「切り替え早っ!?
ええ、偉大な人物だったのが良く分かりました。」
「人間的にも尊敬出来る人だったんだね」
「それは良かったです。
そう言えば、お二人は一流の大工となる為に、
修行の旅を続けて居られるのでしたな、
お二人の目から見て当教会の建物はは如何でしたかな?」
「はい、俺や弟が親父から教え込まれた大工仕事の中には、
こちらの様な本格的な木造建築物も含まれていましたから、
とても勉強になりました。」
「鴨居の上の透かし彫りなんてホント見事だよね」
「本職の方々は流石ですな、
こちらの建物を建築する際に携わられた職人の方々が段々と減り、
透かし彫りなどの技術も途絶えて久しい昨今、
あの造形の美しさに気付けるのは、お二人が本物という証拠なのでしょうな」
「いえいえ、俺達兄弟なんて、
こと大工仕事に掛けては鬼の様な親父にスパルタで教え込まれただけなんで、
本物というよりも、英才教育のお蔭と言ったところですね」
「もの凄い種類の欄間を憶えさせられたよね」
「そうなのですか、それは貴男方を一流の大工にするという
お父上なりの親心の現われなのでしょうな」
「そうなのかな?俺には親子の情なんかには関係無く、
ただ扱かれていただけだった様な気がしたけどな」
「それはそうと神父さま、
こちらの建物は結構アチコチ痛み始めている様に見受けられますが・・・」
「ええ、先程もお話しましたが、
石造りやレンガ造りの建物が主流となって来た為に、
当教会の様な木造建築物を手掛けられる職人の技が途絶えてしまいましてな、
直そうにも頼める様な業者がありませんのですよ」
「それでしたら色々と良くして頂いたお礼に、
俺達で直せる所だけでも直しましょうか?」
「ナイスアイデアだよ!シュウ兄ィ」
「それは大変ありがたいお申し出なのですが、
お二人に手直しして頂いたところで当教会はもう・・・」
「ポン吉も何か言ってたけど、何か困った事でもあるのでしょうか?」
「良かったら僕達にもご協力出来る事が何かあるかも知れませんから、
お聞かせいただけませんか?」
「いえ、旅のお方にお聞かせする話では・・・ふむ、
こうして、この時にお二人とお会い出来たのも、
ゴジュウショク様の何かしらのお導きかも知れませんな、
では、お二人にはご相談では無く、
年寄りの愚痴にでも少しお付き合い頂くとしますかな」
「ええ、是非聞かせて下さい」
「お付き合いします。」
「では、立ったままでは何ですから、
居間へとご案内を致しますので私に付いて来て頂けますかな?」
「「はい、分かりました。」」
「どうぞ、こちらの部屋にお入りください。」
シュウ達がポキール神父の案内で長い板張りの廊下を歩いて行くと、
一つの部屋の前で神父が立ち止まり、障子戸の様な引き戸を開けてから、
2人に中へと入る様に促した。
「「これは!?」」
部屋へと足を踏み入れたシュウとケンは驚きの声を上げる
「ホッホッホッ、驚かれましたかな?
板張りの床とは触感が大分違いますからな、
この床材はゴジュウショク様が、
どちらからか大量に探し出して来た筒状の植物を、倉にて保存してありまして、
定期的にボランティアの信者の方々が編んでは交換して頂いてるんですよ、
当教会では『ストローマット』と呼んで居りまして、
板張りの床の様に冷たく無く、吸湿性にも富んだ優れものですよ。」
「まさか、この世界でも畳に巡り逢えるとは!」
「それに囲炉裏まで、ちゃんとあるよ!シュウ兄ィ」
そう、シュウ達が案内された居間は、広さ20畳程の畳敷きの部屋で、
その中央では囲炉裏に掛けられた鉄瓶がシュンシュンと白い湯気を上げていたのだ。
「タタミ・・・ですか?」
「はい、俺達の故郷にもコレに良く似た床材がありまして、
その快適性からの人気が高かったんですよ」
「畳と囲炉裏の組み合わせは最強だよね」




