インドのソバ屋
「兄ちゃん達、ここがアナポーの街を訪れた人が必ず一度は見に来る、
中央広場の大噴水だよ」
ポン吉の案内で、まずシュウ達が連れて来られたのは、
街のほぼ中央部に位置する直径100メートル程の円形の広場と、
その中央部にある大きな噴水であった。
「あの噴水の噴き出してる部分の両脇に立ってる、
2人の男性像は誰と誰なんだ?」
「片方の人は貴族みたいな服装だけど、
もう片方の人の服って、お坊さんみたいな恰好だね」
ケンの言う通りに、片方の男性像は日本の僧侶が着る様な、
袈裟に良く似た服装をしていた。
「あれは、この国が共和国になる前のルクシア王国だった頃に、
当時、アンデットモンスターが我が物顔で徘徊していた
この地を、たった2人で解放してアナポーの街を造り上げられた
初代御領主の『ペンパナ・アナポー辺境伯様』と、
その御親友の『ゴジュウショク様』の像なんだってさ」
「へ~、今はこんなに発展しているけど、
その当時は、そんなに危ない場所だったんだな」
「良く、そんな場所を2人だけで解放出来たね」
「うん、おいらもそう思うんだけど、
孤児院で、おいら達に勉強を教えてくれてる先生の話じゃ、
アナポー様は優れた白魔法の使い手で、広範囲の浄化魔法を得意とされていて、
ゴジュウショク様も謎の魔法や武器を駆使してアンデット共を殲滅したんだってさ」
「謎の魔法と武器って?」
「何か『クズキリ』とか『うどんミョウガイン』とか言う魔法で、
アンデット共を焼き尽くしたり、
『どっこいしょ』とか言う武器でアンデット共の頭を穿ってたんだって」
「『クズキリ』と『うどんミョウガイン』?
もしかして『九字切り』と『不動明王印』の事か?
確か火炎呪とか言う不浄な者を焼き尽くす経文があった様な・・・」
「『どっこいしょ』って『独鈷杵』の事かな?
『とっこしょ』とも読むらしいけどね」
「兄ちゃん達、ゴジュウショク様に興味があるのか?
だったら、おいら達が住んでる孤児院がゴジュウショク様が造られた
『コウヤサン教会』の敷地にあるから案内しようか?」
「『コウヤサン教会』だって?
そりゃ非常に興味深いネーミングの教会だな」
「是非、案内して貰おうよシュウ兄ィ」
「ああ、そうだな、そんじゃ教会までの案内を頼めるかポン吉」
「うん!おいらに任せといてよ!
おいらが先に行くから、兄ちゃん達は逸れない様に付いてきてね」
「ああ、分かった。」
「頼んだよポン吉くん」
ポン吉の案内で『コウヤサン教会』を目指して歩くシュウ達は、
道すがらアナポーの街の造りをポン吉から簡単に聞き出しておく、
アナポーの街は中央広場を中心として東西南北に分かれており、
ゴッホヨリ街道に面した西側の門から街へと入ると、
宿屋や冒険者ギルドなどの商業区が広がっていて、
反対の東側には、この地を治めるアナポー辺境伯の子孫の、
館を中心とする行政区が、
そして、中央広場の南側には一般住民たちの住宅が立ち並び、
最後の北側には、小高い丘の上に建つ『コウヤサン教会』から見下ろす
手入れが行き届いた山林が広がっているそうだ。
「兄ちゃん達、あの丘の上に見えて来たのが『コウヤサン教会』だよ」
街中を抜けて、天に向かって真っ直ぐに伸びている、
地球の杉に良く似た木々の木立の中の道を少し進んだ辺りで、
ポン吉が、シュウ達にそう声を掛ける
「おお~っ!あれが『コウヤサン教会』か」
「ある意味、想像通りの光景だよねシュウ兄ィ」
ポン吉の声で、丘の上へと目をやったシュウ達の瞳には、
教会という呼び名を持つものの、
日本の寺に似たドッシリとして横に長い造りの建物が映った。
「変わった形の建物だろ?
ルクシア共和国って色んな民族が移住して来てるから、
建物の形も村や街によってバラバラなんだけど、
教会の建物が、あんな建ち方をしているのは、
この街だけなんだってさ」
「まあ、この街は木造の建物が多く建ってたけど、
建物の造り自体は、明治とか大正の頃みたいなデザインだったからな、
お寺みたいな造りの建物なんて、他にはまず無いだろうな」
「うん、教会の建物なら、
その殆どがヨーロッパ風の石造りになってるんだろうね」
「兄ちゃん達、あれが『ゴジュウショク様』のお墓だぞ」
木立の中の坂道を上がり切った場所は、
お寺の境内の様に広めなスペースとなって居り
その右手の方向に立つ石碑の様な物を指差しながらポン吉が告げる
「へ~、そうなのか、そんじゃ手でも合わせて置こうかな」
「そうだね、シュウ兄ィ」
2人が、大きな一枚岩を掘り出した様な墓へと足を運ぶと、
その表面に文字が掘り込まれているのが目に入って来る、
そこには、『我が親友、珍古建三ここに眠る
アナポーの街領主ペンパナ・アナポー』と刻まれていた。
「へ~、『ゴジュウショク様』の本名は、
『チンコタツゾウ』って名前だったのか・・・」
「子供の頃にイジメられたんだろうね」
「ホッホッホッ、その文字は『ウズタカケンゾウ』と読むんだそうじゃ」
「あなたは・・・?」




