和の香り漂(ただよ)う・・・
「それでアンちゃん達、最初はどんな所に案内すれば良いんだ?」
「まずは、今夜から泊まる場所だな、
そこそこにキレイで飯が美味くて風呂がある宿はあるか?」
「そう言えばポン太くん、僕達この国に来たばかりなんだけど、
この国って、お風呂は一般に普及してるのかな?」
「それなら『ハラホロヒレハ亭』が良いかな、
あそこは出来てからそんなに経ってないから、まだキレイだし、
食堂の料理が美味いって冒険者のオッチャン達が話してるのを聞いた事があるんだ
それとケン兄ちゃん、この国でも風呂は割とあるよ、
コウガ王国やマッスル王国みたいに一家に1つとは行かないけど、
大概の街には公衆浴場があるし、宿屋にも大浴場があるぜ」
「へ~、コウガ王国は一般家庭でも風呂完備なのか流石ライさんの国だな」
「そうだね、シュウ兄ィ」
「じゃあ、案内するから付いて来てね」
「おう」
「頼むねポン太くん」
シュウとケンは、ポン太の案内で今夜から泊まる宿を目指して、
アナポーの街を歩き始めた。
「アンちゃん達、手持ちの荷物が少ないみたいだけど、
遠くから来たんじゃ無いのか?」
「ああ、必要なもんだけ持って来て、
残りの荷物は魔導車に乗せたままなんだよ」
「お金と着替えぐらいしか持って来なかったからね」
「すっげ~!アンちゃん達、魔導車持ってるのかよ!
今度、俺も乗せてくれないか?」
「おう、近場を周るぐらいなら構わないぜ」
「明日にでも行ってみようか?」
「やった~!ありがとうシュウ兄ちゃん、ケン兄ちゃん!」
「ハハハ、楽しみにしとけよポン太」
「明日の朝、街の駐車場に集合だよ」
「それにしても、この街の建物は日本の造りに似てるよな」
「そうだね、シュウ兄ィ」
通り過ぎる街の建物に目をやりながらシュウとケンが、
会話を交わしている
「ニホンてのは、アンちゃん達が住んでる街の名前なの?」
それを聞きとめたポン太が尋ねた。
「ああ、そんなとこだな」
「僕達が住んでた所も、こんな感じの建物ばかりだったんだよ」
「じゃあ、アンちゃん達は『ゴジュウショク様』と、
同じ所から来たのかも知れないね」
「ゴジュウショク様?」
「それって誰なの?ポン太くん」
「ゴジュウショク様は、すんげ~昔に初代の御領主様と協力して、
ここアナポーの街を造った人の名前だよ、
この街は、ゴジュウショク様が生まれ育った所を模して造られたんだってさ」
「もしかして、その人も日本から来たのかな?」
「ああ、建物の感じからして、
俺達より大分前の時代の人みたいだがな・・・」
「アンちゃん達、宿に着いたよ」
「おお、確かに新しめでキレイなとこだな」
「昔、家族旅行で行った旅館を思い出すねシュウ兄ィ」
ポン太に声を掛けられて2人が見上げた先には、
落ち着いた佇まいを見せる、
日本の旅館と似た雰囲気を醸し出す宿屋があった。
「でも、あの看板だけは頂けないな・・・」
「折角の良い雰囲気が台無しだよね」
2人が見ている宿の入り口の上には、
ショッキングピンクの看板に黒字で『ハラホロヒレハ亭』と記されている
「何で台無しなの?店の看板を目立つ色で作るのは普通でしょ?」
ポン太の様子を見ると、この街では普通の事らしい
「俺達が住んでたとこでは、
こういう木や漆喰を使って造った建物には、
木に墨で文字を書いた看板が定番だったんだよ」
「所変わればっていうやつだね」
「ふ~ん、そうなんだ」
「じゃあ、俺達は受付をチャチャッと済ませて来ちゃうから、
ポン太は、あそこに見える茶屋でダンゴでも食っててくれよ」
「茶屋だけにチャチャッ・・・プッ」
シュウは、ポン太に銀貨を一枚渡しながら、そう告げる
ケンは、今のシュウの言葉に何かを刺激されたのか、
後ろを向いて肩を震わせている
「ダンゴに千ギルって・・・貰い過ぎだよシュウ兄ちゃん!」
「何か知らんが金が必要なんだろ?
ダンゴ食って、茶を飲んで余ったら小遣いにして良いぞ」
「あ、ありがとうシュウ兄ちゃん!」
「おう!」
「じゃあ待っててね」
シュウとケンは、礼を言うポン太に軽く手を上げて返事を返してから、
宿の入り口の、引き戸をカラカラと開けて中に入った。
「いらっしゃいませ~!」
宿の入り口を入ると正面にカウンターがあって、
そこに居た人族の若い女性が2人を出迎える声を上げた。
「こんにちは、取り敢えず3日程の予定で泊まりたいのですが、
部屋は空いてますか?」
「空いてたら、2人部屋でお願いします。」
「ええ、大丈夫ですよ、
お部屋の方は、一般的な宿の大浴場を御利用になる部屋と、
少々割高になりますが、個別に露天風呂が付いた部屋も御用意出来ますが、
如何なされますか?」
「個別露天風呂付きか~興味はあるけど高そうだよな~」
「宿の大浴場には露天風呂は無いんですか?」
「御座いますよ、大浴場から出られる岩造りの露天風呂が御座います。
ちなみに部屋の個別露天風呂は香りが良い木造りとなって居ります。」
「大浴場の方にもあるなら、そっちで良いか・・・
香りが良い木っていうと檜風呂みたいなもんかな?」
「うん、普通の部屋で良いんじゃない?シュウ兄ィ」
「では、一般のお部屋の方で、
お手配をしても宜しいでしょうか?」
「はい、それでお願いします。」
「お願いします。」




