経年劣化
「あちらが屋敷の母屋となり、
母屋の向こう側に少し見えているのが離れの建物で、
裏手の方に物置や厩が御座います。」
商業ギルド職員のイイネの案内で、
門から庭園の中を抜け長く続くアプローチを進むと、
イイネが右手を向けながら告げる方向に
大きな屋敷建物が見えて来た。
「へ~、昔の建物にしちゃ割と洒落たデザインで
レトロ感が良い味だしてんな~
でも、一見しっかりしてる様に見えるけど、
アチコチ傷み始めた場所も見て取れるな」
「うん、柱なんかはマダ大丈夫そうだけど、
屋根や壁に傷みが出始めてるみたいだから、
今の内に手を入れとかないと柱もやられちゃう
恐れがあるよね?シュウ兄ィ」
「へ~、そうなのですか?
私には、古い建物にしては凄く綺麗に見えるので
イイネさんに、お聞きしていなければ、
態とレトロなデザインで建築した新しい建物かと
勘違いをしてしまいそうですけどね・・・」
「うん、ふつうにキレイに見えるよな?姉ちゃん」
「そうなのですか?シュウ様、ケン様
私共、商業ギルドでも、
長年に渡り、建物が傷んでは見えない為、
『特殊な保護処理が施されているのでは?』と
考えられて居りました。」
「いいや、俺が見た感じ、
造りは確りしてるし、材料も一級品を使用しているが、
特別な保護処理的な物は施されてねぇな、
にも拘わらず、多少は傷み始めてるものの、
これだけ良好な状態を保ってるんだから、
イイネさんが、さっき言ってたみたいな、
何かしらの超自然的な力が働いてるんだろうな・・・」
「うん、少なくとも魔法を使った時に残る
魔力の残滓的な物が感じられないのは確かだよね?シュウ兄ィ」
「魔法による状態保存は、
通常、定期的に魔法を掛け直さないと
効き目が長持ちしないと聞いた事があります。」
「へ~、まほうをつかわないで
こんなにキレイなんて、ふしぎだよな~」
「やはり、シュウ様方も、そう思われますか、
この建物の調査で訪れた当ギルドの魔法担当の者らも
この建物には魔法的な処理は施されていないと
結論付けたそうです。
それで、魔法を使わない未知の保護処理が
施されていると思われる・・・と
報告書には記載されて御座いました。」
「いいや、建築のプロとして断言するが、
あの建物には、特別な防蝕処理は施されてねぇな、
定期的な補修工事が行われて居なきゃ
ホントだったら今頃、
あの建物は、ボロボロのお化け屋敷に
なってなきゃ変なんだよ」
「そうだよね、庭に植えてある木々の根付きと
育ち方の大きさから見ても、
この建物が建てられてから少なくとも100年以上は
過ぎてると思うもんね」
「そう言われて見ると、
ここの庭の木々は、みな幹が太く大きな木が多いですね」
「うん、大きな森にはえてる木みたいだよな、姉ちゃん」
「はい、ケン様が仰る様に、
この建物が建てられてから築150年に上ると
お聞き及びして御座います。」
「そうなると、この建物の傷みが少ないってのも、
ここを買おうとした客に何かしらの不幸が訪れるのと
無関係じゃ無ぇのかも知れねぇな・・・
まあ、取り敢えずは、
建物の外から調べて回る事にして、
後から中に踏み入れて調べる段取りにしようぜ」




