ぶ~らぶら
「この、湯船になみなみと湛えられている湯は
どこかに水を溜めて置く設備でも設けて、
それを沸かして居るのか?」
風呂の水源が気になった建築業ギルドのマスター
メークソが尋ねる
「いや、溜めてある水じゃ無くて、
地下を流れていた水脈から引いてるんだよ、
最初は、温泉でも掘り当てられたらなぁ~とか
考えていたんだけど、
この辺には火山帯が無いそうだし、
もし温泉が出たとしても、
地下施設じゃ、火山性のガスとかが怖いからな、
ケンが魔法で、ここの穴掘りしてた時に見つけた
水脈を利用して、風呂の水や、
飲料水なんかを確保してるんだよ」
「ほう、ケンの魔法は水脈まで探せるのか」
「いや、探し当てた訳じゃ無くて偶々だな、
元々は、建物の基礎を造る時に、
地盤が弱いと建物が傾いたり歪んだりするんで、
地中の堅い岩盤まで、石の柱を通して、
建物が傾かない様に支えるんだけどよ、
その際に、岩盤までの距離とか、
間に邪魔物が無いかとかを調べてて、
水脈を見付けたんだとさ」
「へ~、建物を建てる際は、
そんな事にまで、気を配らなきゃならないんだね」
「はい、坊ちゃま
確かに私も、地面が沈み込んで、
建物が傾いたり、使用出来なくなる事があると、
聞き及んだ事がありますな、
何でも、柱や壁などが歪んだ建物に住み続けますと、
精神に変調を来すと言う話を聞いた覚えがあります。」
「えっ!?そんな事があるんですか!?」
驚いた表情で、商業ギルドのイイネが問い掛ける
「ああ、その手の話しなら、俺も聞いた事があるぜ、
これは、実際に起こった悲劇らしいんだが、
ある幸せな家族が新しい家に越したところ、
父親の様子が段々とおかしくなって行って、
最後は、自分が愛していた家族を皆殺しにして、
自らも命を絶ったっていうんだ
司法が様々な角度から原因を調べた結果、
地下の水脈の水位が下がり、
それに因って地面が沈み込んで建物が歪み、
父親の精神が異常を来して
凶行に及んだって結果が出たんだとさ」
「うわ~、怖い話だね、
建物の歪みだけで、そんな事が起こるんだね」
「シュウ殿の話は、極端な例なのでしょうが、
実際に、その様な事が起こったと言うのは
驚きの一言ですな」
「ああ、この症状が怖い所は、
人によって影響の度合いが異なるんで、
原因として発見され難いところなんだそうだ
全然、異常を感じない人も居れば、
何となく気持ちが悪くなる程度の人
そして、この父親の様に完全に
おかしくなってしまう人も居るって訳だな・・・」
「うむ、確かに職人でも、
柱や壁の、水平や垂直に敏感な者も居れば、
下げ振りや、水平器などを使わねば、
分からぬ者も居るからのう」
「メークソ、その『サゲフリ』って何なの?」
「私も初めて耳にしましたな」
「ああ、下げ振りというのは、
職人が垂直を出すのに使う道具でしてな、
簡単に説明をすれば、
垂直を出したい柱や壁の近くに、
先に重りを付けた糸を垂らしますと、
真っ直ぐと下に向かって下がりますので、
その糸に合わせて柱や壁を立てれば、
正確に垂直に立てられると言う訳ですな」
「へ~、それを考え付いた人って凄いね」
「人の知恵とは大したものですな、坊ちゃん」
「ちなみに、水平器にも色々と種類があるんだが、
俺やケンが使っている、
透明な管の中に、液体と気泡を閉じ込めて、
気泡が管の真ん中にくれば水平になる物や、
透き通ったホースを使って、
中に入った水の水位を合わせる事で、
水平を出す物もあるんだぜ」
「うむ、職人の多くは、
頑丈な魔獣の腸を利用した水位式を
使って居る者が主流じゃな」
「気泡式に使う、
透明な管を作るのって難しそうだもんな」




