風呂好きの拘り
「さ~て、早速だが、
ここが、最初に見てもらうって、
さっき言ってたフロ場だな」
シュウの案内で街長一行が訪れたのは、
この地下シェルター施設の中で、
シュウが一押しと告げていた浴室であった。
廊下にあった、脱衣室の入り口の引き戸をシュウが開いて
ピョロピョ~ロらを室内へと案内すると、
そこは、旅館の風呂にある脱衣室の様に、
脱いだ服を収める籠が入った20個程の棚と
大きな鏡が正面の壁に取り付けられた
5つの洗面台が、まず目に入る、
肝心の浴室は一番奥の壁にあるガラス張りの
両引き戸の向こう側に見えていた。
「脱衣場に洗面台や化粧鏡が設けられているんですね」
普段、見掛ける事が無い程の大きなサイズの鏡に、
驚きの表情を浮かべながら、
商業ギルドのイイネが、そう発言をした。
「ああ、この国じゃ余り見掛けないけど、
俺やケンが生まれ育った国では、
脱衣場に洗面化粧台があるのが定番なんだよ、
大人の女の人とかは、
結構、化粧をしてない素顔とかを、
見られるのを嫌う人が居るだろ?」
「はい、男の方に素顔を見られるのを嫌って、
深夜に入浴をする方なども結構いらっしゃるので、
脱衣場で御化粧が出来るのは喜ばれると思われます。」
「シュウ、こんなに大きな鏡なんて
どこで手に入れたの?」
「確かに、これ程のサイズの鏡となると、
私も、過去に目にした記憶が御座いませんな・・・」
「ワシの建築業ギルドで手配した資材には、
こんな鏡などは無かったから、
この鏡は、お主らで手配した物じゃな?」
ピョロピョ~ロとバトリャ~、そしてメークソが
続けて、そう発言をする
「ああ、こりゃ、俺達の魔法で造った鏡なんだよ、
備え付けの設備も建築物の一部って判断してるらしくて、
建築魔法の『造作』で造れちまったんだよな、
『能力付与』で割れない様にしたり、
湯気で曇らない様にも出来るから便利だぜ」
「こんな凄い物まで造れちゃうなんて、
流石はユニーク魔法だよね」
「はい、坊ちゃま、
それだけに、シュウ様方の魔法の事は、
極秘事項とせねばなりませんな」
「おい、シュウ、
製作者の事は秘密にするから、
偶にで良いので、もう少し小さなサイズの鏡を、
建築業ギルドへと収めてくれる訳にはいかんか?
勿論、お主や弟君が嫌だと言うなら、
断ってくれても構わんが・・・」
「おう!偶にで良いなら別に良いぜ、
立ち寄り先のギルドに顔を出す様にしとくから、
注文する鏡のサイズだけを連絡しといてくれれば、
中身が分からない様に厳重に梱包して、
ここのギルドに送って貰う様に頼んどくよ」
「それは、助かるのう!
礼を言うぞ!シュウ」
「ああ、ギルマスには、
今後も色々と世話になりそうだから、
迷惑料の先払いだとでも思ってくれれば良いさ、
そんじゃ皆、こっちの浴室も見てくれよ」
シュウが、ガラス張りの両引き戸の片方を開きながら、
皆へと告げる
「わ~、何か、ここのお風呂場って良い匂いがしてるね」
「はい、坊ちゃま、
心が安らぐ森の様な芳香が漂って居りますな」
「ああ、ここのフロ場の壁や天井には、
香りが良くて、水気に強い木材を使用して、
更に、俺の魔法で状態を保存する様にしてあるからな、
魔法の効き目が切れるまでは、長く楽しめる筈だぜ」
「見た所、浴槽には別の木材を使用してある様じゃな?」
「ああ、ありゃ、木材じゃ無くて、
トレントの素材を使って造ってあるんだよ」
「何!?高級素材のトレント材を浴槽に使っとるじゃと!?」
「おう、トレント材の方が、俺の付与する劣化防止や防水、
そして、リラクゼーション効果の魔法が長持ちするし、
その後、魔法が切れてからも、
素材自体のポテンシャルが高いから、
かなりの長い期間に渡って壊れる事が無いだろうからな」




