アイデア料
「村長さん、家具をお持ち致しましたが、
どうすれば良いでしょうか?」
サスケとの魔導通信機による通信を終えたシュウとケンは、
亜空トレウスから食卓と椅子のセットを1組荷車へと積み込んで、
再び村長の家まで戻って来た。
「おお、ご苦労でしたな、私の甥も来て居りますので、
取り敢えずは私の家まで運び込んで頂けますかな?」
「はい、分かりました。
ケン、まずは食卓から運び込むからソッチ側を持ってくれるか」
「うん、分かった。」
2人は食卓の両端を持って、村長の家の中へと運び込んでから、
後は手分けして椅子を運び込んだ。
「ほう・・・本職は大工だと伺っていましたが、
中々どうして、家具の細工の方も見事な物ですな・・・」
シュウ達が運び込んで来た食卓や椅子を見た村長が、
それらに施された細かい細工を見て感嘆の声を上げた。
「ありがとう御座います。
俺もケンも、師匠である父から大工仕事の技能を向上させる一環として、
家具造りをやらされていましたから、自然と造り細工も出来る様になったんですよ」
「家具に細かく模様を刻むのは面白いよね」
「確かに見事な細工だね叔父さん」
村長と共に居た
村長と似た雰囲気を持つ30歳ぐらいに見える男が、
村長に、そう相槌を打った。
「自分の店で家具を扱ってる、
本職のお前から見ても、そう見えるか、
ああ、お二人にご紹介が遅れましたな、
こやつは私の甥で、村で雑貨屋を営んでいるヒザガミです。
この村から馬車で5日程の距離にある、
この辺では一番大きな街『アナポーの街』にある商店で、
物を見る目を養いましてな、この村へと戻り雑貨屋を始めたのですよ」
「僕の名前は、さっき叔父さんも言ってたけどヒザガミって言うんだよ、
2人とも宜しくね」
「はい、俺はシュウです。
宜しくお願いします。ヒザガミさん」
「ケンです。宜しくお願いします。」
「さて、お互いの挨拶も済んだ事だし、
シュウ君達が造った家具は、どんなもんだね?」
「う~む、大きさや細工の見事さも然る事ながら、
この食卓や椅子から伝わってくる魔力の波動は一体・・・
シュウ君、これらには何らかの魔法が付与してあるよね?」
「見ただけでお気付きになるとは流石ですね、
ヒザガミさんが仰る通りに、
食卓には上に乗せた料理などの温度を保つ『保温』の魔法が、
そして、椅子の方には体の疲れを癒す『快癒』の魔法が、
付与してあります。」
「家具に魔法を付与するとは、
シュウ君は面白い事を考えますな」
「ホントだね叔父さん、
普通なら、それ専門の魔導具を買って据え付けるのが常識だからね、
しかし、普段使いの家具に魔法を付与するか・・・
これなら、家具と魔導具を別々に買う必要も無いし、
余計なスペースを取られないで済むから、
新たなニーズを獲得するチャンスがあるな・・・」
「如何でしょうか?ヒザガミさん」
「この、食卓と椅子のセットが、
全部で3セットあるって、さっき叔父さん言ってたよね?
そうだな・・・1セット100万ギルで合計300万ギルでは、どうかな?」
「えっ!?そんなに高く買い上げて貰えるんですか?」
「いくら何でも高過ぎませんか?」
「確かに魔法が付与してあるとは言っても、
品物は普段使いの家具だから、
価値としては1セット50万ギルってとこだろうな、
後の150万ギルはアイデア料としてのもんだよ」
「アイデア料ですか?」
「家具に魔法を付与するアイデアって事なのかな?」
「そう、このアイデアを使わせて貰う事に対する対価って事だね、
僕は自分で家具を造る事なんて出来ないから、
これから、シュウ君達から売って貰った家具を1セット見本として馬車に積みこんで、
前に僕が勤めていたアナポーの街の商店まで、
アイデア料を込みで売りに行くって事だね」
「なる程、そういう事なんですね、
まあ、俺達の本職は大工なんで、
家具造りの方は旅費を稼ぐ為の一時凌ぎって考えなんで、
他で、魔法が付与された家具を売り出して貰っても、全然問題は無いですね」
「そうだね、シュウ兄ィ」
「それでは、2人とも契約が成立って事で良いかな?」
「はい、その条件でお願いします。」
「お願いします。」
「じゃあ、早速だけど契約書を作る事にするかな」
「おいヒザガミ、
その家具セットなんだが、1セットをウチに譲って貰えんかな?
話を聞くと中々に便利そうなもんなんでな・・・」
契約書の作成に入ろうとしたヒザガミに、村長がそう問い掛けた。
「ああ良いよ叔父さん、
俺も1セットは売りに出さないでウチで使おうと思ってたから、
残りの1セットを叔父さん家に進呈するよ」
「それは良かった。
ウチの者達も喜ぶだろう」
「そんなに喜んで頂ければ、造った俺達も嬉しいです。」
「そうだね、シュウ兄ィ」




